無重力で物が燃えると・・・
蝋燭に火をつけた。
闇の中に、彼の端正な顔が浮かび上がり、その悪戯っぽい瞳に炎が写って見えた。
小屋の外は静かだ。新月で月明かりもない。
蝋燭の光だけが明るい闇の中にいると、宇宙空間に二人だけで漂っている様な感じがした。
炎を見つめながら、「これでいい」と思った。
・・・・
その時、何か引きずる様な音が聞こえた。
炎に魅入られたまま、ゆっくりと右の方に顔を向けると・・・
腹をすかせたアナコンダが鎌首をもたげ、無機質な目で、見つめていた。
「ぎゃ〜・・・・△@*?&!!」
という話ではない。
炎の話です。
というより、燃える話。
物が燃えるということは、どういうことかというと、物が酸素と結合することなのだ。その時、炎となって光を発する。
だから、燃える物がなければ、燃えない。
当たり前じゃ。
まあ、まあ、もう少し続くから。
また、酸素がなくても燃えない。・・・でしょ。
じゃあ、物が燃えたら、そこの酸素がなくなるから、火は消えるじゃない。
でも、焚き火なんか見ていると、薪があるかぎり(燃える物)、ずっと燃え続けている。
酸素は使ってしまって、ないはずなのにだ。
そりゃ、周りから酸素が次々と供給されるからだろう。
そうです。
でも、どうして?
どうやって、炎・火の周りから、酸素が次々と供給されるのか。
・・・・・・・
結論を言いましょう。
重力があるからです。
・・・・・?
はい、結論まで飛びすぎて、わかりにくくなりました。
順を追って、考えてみる。
物が燃える(焚き火)。
炎・火が出る。
これは、明るいだけではなく、熱い。つまり、熱がある。
この熱は、炎・火の周りの空気を暖める。
暖められた空気は、膨張する。
膨張した空気は、周りの空気より軽くなる。
ここで、重力。
重いものは下に、軽いものは上になる。
だから、炎・火の周りの空気は、上昇する。
すると、焚き火の薪(燃える物)の周りの空気がなくなるので、そこに外から、新しい空気が流れ込む。いわゆる対流だ。
この新しい空気の中に、酸素がある。
というメカニズムで、どんどん必要な酸素が供給されるので、焚き火は燃え続けるのだ。
まあ、言われてみれば、そうだ。
じゃあ、重力がなかったら、火はどうなる。
重力のない環境、無重力の状態で、物が燃えるとどうなるか。
ん?・・・・
燃えない?
いや燃えるだろう。燃えるものと、酸素があれば。
でも、酸素は、重力がないから対流が起きないので、すぐ無くなる。
だから、火はついても、すぐ消える。
それに、燃えるとガスが発生する。
それは、ジェット噴射の様な作用をして、四方に拡散する?
かな。
でも、実際はどうなるんだろう。
ということで、NASA が、国際宇宙ステーションで実験した。
その時の写真が下。
おお、なんだこれは。
深海のクラゲか、宇宙に浮かぶ、特殊な生物か、と思う様な姿だ。
明るく黄色やオレンジに輝く、これは?
実は、煤なのだ。
煤? そう、焚き火の火の粉を思えばいい(実際は、煤は火の粉より小さいだろう)。
煤は、燃え滓だ。
燃え滓だから、炎は出ないが、温度は高い。
地上では対流が起きるので、周りの冷たい空気で冷やされ、すぐ温度は低くなる。そのため、光も発しなくなる。
しかし、無重力下では、対流が起きない。
だから、熱を放射して温度が低くなるまで、光っている。
魔法瓶の中の熱湯を思い浮かべればいい。
なかなか、冷えない。
これは、かなり厄介だ。
無重力の宇宙ステーションで、火災が起きた時、どうやって消化すればいい。
消化器でプシューというわけにはいかなさそうだ。
なぜなら、消火器でプシューは、火の周りの酸素を無くすることで、消火している。
しかし、無重力環境では、火種を酸素のある場所に、押しやるようなことにもなりかねないのではないか。
となると、熱い煤の塊を冷やす方法をとることになるのか?
・・・・・・・
うーむ、わからん。
というようなことを、NASAでは、真剣に研究しているのである。
だって、宇宙船の中で火事が起きた時、どうやって消火すればいいかというのは、大問題だもの。
PS
煤を燃え滓と書いたが、正確ではなかった。
燃え残りと言ったほうがいいようだ。
燃え滓と燃え残りはどう違うか。
燃え滓は、可燃物が全部燃えてしまって、残ったもの。
燃え残りは、燃え切らなかった、つまり不完全燃焼の結果残ったものか。
ただ、煤の実態については、あまり解明されていないらしい。