PTAが恐くてやってられるか・・・
事務室で、書類整理をしていると、師範が来られて、今度Oというのが、入門する。問題児で、弱いものいじめをしている。おまけに、色気付いてきて、女の子のスカートめくりなんかもしている。注意した女の先生を泣かしたこともあるらしい。
学校はもちろん、家でも扱いに困って、空手道場にでも入れれば、なんとかなるんじゃないかと、親御さんから頼まれたらしい。
「面倒みてもらえますか。なんなら自分がやりますが。」(師範は、4歳年下なので、いつも私には敬語で話される。)と言われた。
「大丈夫です。やります。」と即答した。
だいたいスカートめくりやるような奴だ。大したことない。
手負いの野獣のような凶暴なやつは、スカートめくりなんかせん。
(スカートめくりをした事のある私には、わかる。)
練習させてみると、最初の数回はわりかしおとなしくやっていたが、その内に適当にやり始めた。注意しても、あまり聞かない。その内、練習中に隅っこに行って完全にサボり出した。
真剣にやっている他の子供たちに示しがつかない。
だいたい道場がだれてしまうと、事故が起きる。
「O 列に戻れ」聞かない。
そうか。ふん。
私は、道場の壁に立てかけてあった竹刀を持って、Oのところに行き、ケツ目掛けて振り下ろした。バシッ。それも片手ではなく、両手持ちで。
「ぎゃー、何するだ。」
「列に戻れ!」
「知るか。誰が戻るか」 バシッ!
「列に戻れ」
「子供に暴力を振るうんか、父ちゃんに言いつけてやる。」
(これか、これで学校の先生が怯んだのだな。)
「こましゃくれたことを言いやがって、ここは学校じゃない。空手道場じゃ。PTAが恐くて、道場やってられるか!」
「戻れ!」 バシッ
「やめちゃる、こんなとこ。」
「好きにしろ。親にでもチクってやめろ。」
「やめちゃる〜」と叫んで、Oが出口に向かった。
襟首を引っ掴んで、道場の真ん中に放り投げた。
「やめればいい。親にでもなんでもチクればいい。」
「だが、今はまだ練習時間内だ。」
「この練習時間内は、お前は俺のものだ。」(ふふふ、ガキが)
「きっちり、練習させる!」「やれ!」
掛け声をかけながら、竹刀を持って見回り、ちょっとでも手抜きが見えたら、容赦なく叩きつけた(基本ケツだから、大事に至らない)。
練習が終わり、最後の礼をしたら、ピューと一番先に帰って行った。ふん。
それで、このことは忘れた。
翌日、師範が事務室に来られた。
「昨日、Oと何かありましたか。」と聞かれた。
「・・ああ、Oですね。」(忘れていた。)
事情を話し、
「父ちゃんに言いつけるとかほざいたので、好きにしろ、ここは空手道場だから、PTAなんか恐くないんじゃと、言っておきました。」
半拍、おいて師範が
「それで、結構です。」と言われた。
私は、ちょっと「ん!?」と思ったことを覚えている。
結構ですって、当たり前じゃない。
指導員として、ごく当たり前のことをしただけだから、結構も何も・・・とちょっと思ったが、すぐ忘れた。
今にして思えば(書いている今)、家に帰ったOが、体のミミズ腫れ、それも複数(結構叩きつけたから)を見せて、あることないこ親御さんに言ったので、親御さんが師範に連絡してきたのだろうと思う。
親御さんも、腹が据わっていた。
師範が事情を説明したら、納得してくれたのだろう。
その後一切何もなかった。
今の時代なら、大騒ぎになるのかもしれない。
しかし、空手の修行ですぞ。
武道とか格闘技とかは、敵を倒すことを訓練する。
つまり、敵を壊す練習をする。
子供といえども、気を抜くと、事故が起きる。
擦り傷(突きを入れたとき、相手が体を捻ったりすると、道着の表面を拳が滑り、拳の皮が剥けて血が出る。)や、打身、鼻血が出るなんて、よくある。
成人の組み手では、肋骨が折れたり、鼻の骨が折れたりなんてことも、たまにはある。ミミズ腫れなんて、かわいいもんよ。(血ぐらい滲んでいたかもしれないけど。)
死にはしないし、後遺症も残らない。
次の練習日に、Oは、ちゃんと出てきた。(おうッ?やめんのかい。ふ〜ん、なんてちょっと思った。)心なし、毒気が抜けているような感じだった。練習も素直にやるようになった。
Oには、まだある。
休憩時間に弱いものいじめみたいなことをしおった。
みんなを集めて、
「弱いものいじめなんてするやるは、クソだ。」
「空手をやって弱いものいじめなんてするのは、もっとも軽蔑すべきことだ。吐き気がする。」「ここでは絶対に許さん。」
「見つけたら、ケツに竹刀ではすまさん。」
と言って、遊ぶときのルールを宣言した。
上級生、帯の上のものは、攻撃禁止。受けだけ。
下級生、帯の下のものは、何をやってもよし。空手技もどんどん使ってよし。
子供たちは、休憩時間になると、鬼ごっこをやる。夢中になってやっている。下級生や、帯の下のものが、上級生を追い回す。
数人掛で、引き倒し、くみ伏している。
Oも転がされて、何人かに馬乗りになられている。ふん。
見ていると、野良犬が何匹もの子犬に纏わりつかれ、どうしていいかわからんというような顔をしている。でも、満更じゃないような。
案外こいつも、捨てたもんじゃないか、と思った。
サポートしていただけるなんて、金額の多寡に関係なく、記事発信者冥利に尽きます。