K君の思い出 なんで泣く
少年部を指導していたとき、練習メニューは基本的に成年部と同じものをやった。
当然、組手もさせた。
約束組手だけじゃなく、自由組手も。
ルールは、帯の上のものは、攻撃禁止。防御だけせよ。
同じ帯では、自由にやってよし。こんな感じだったと思う。
(本当に強い、中学生レベルのものだけに適用していたかも知れない。忘れた。)
K君に組手をさせると、いつもすぐ泣き出していた。
みていても、そんなダメージがあるようには思えないのに、泣く。
それに、組手の時、棒立ち状態に近い。
こりゃ、どうしたものかと思い、呼び出した。
「k、なんで泣くんだ。言ってみ。」
(この頃は、K君は、自分の意思をある程度以上言えるようになっていた。)
「痛い」
「痛いって、・・・突かれたり、蹴られたりして痛いってことか」
「うん」
そんなバカな。
子供たちには、弱いものいじめはするな。仕掛けるなら、自分より強いものに向かっていけ。それなら、いくらやってもいい。
弱いものいじめみたいなことをしてみろ、そんな奴はクソだ。ケツに竹刀では済まさんぞ。と日頃から言ってあった。
だから、上記のルールであっても、K君と立ち会う相手は、みんな手加減している(かわいらしい奴らだ)。
だから、泣かなければならないようなダメージは受けていない。
ふ〜ん、どうやら想像力=イメージ力が過剰な子のようだ。
突きが入ったら痛いものだ。蹴りが入ったら倒れるくらいのダメージがくるものだと勝手に想像して、現実に沿ったダメージの評価をしていない。
まあ、大人でもこの手の人がいる。
簡単に言えば、かすり傷でも、血が出ていれば失神するようなものだ。
そうと分かれば対処は簡単だ。
現実を実感として分からせればいい。
「K 叩かれたら痛いんだよな」
「うん」
「泣くほど痛いんだよな」
「うん」
「よし、右手を出してみろ」
「その手で、先生がやるように、ほっぺたをポンと叩いてみろ」 ポン
「どうだ、痛いか」
「痛くない」
「じゃあ、今度はもう少し強くパチンと叩いてみ」
「痛いか」
「ううん」
「よし、次はビシッとやってみろ、こんな感じだ。」ビシ
「どうだ。痛いか。」
「少し痛い。」
「そうだろう。でも泣くほどのことじゃないだろう。」
「うん」
「今度は、顔がひん曲がるくらい力一杯、叩いてみろ。」
「こんな感じだ」バシッ・・(くぅ、痛っ)
バシッ。
「どうだ、痛かったか。」
「痛い。」K君、涙目になっている。
「だろうな。」
「でも、これくらいだ。」
「自分で力一杯殴っても、これくらい痛いだけだ。」
「死んでないだろう。血もでとらん。」
・・・・
「力一杯叩いても、Kは泣かなかったろう。」(涙目と泣くのは違う!)
「うん」
「本当に痛かったら泣いてもいい。でも、痛くもないのに泣くな。」
「押忍」
「突かれたり、蹴られたりしても、痛くもなかったら、怖がるな。」
「少し痛くても、どうってことないだろう。」
「わかったか。」
「押忍」
それから、K君は、泣かなくなった。
えらい子じゃ。
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