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相続財産管理人のつぶやき

私は、相続財産管理人というのをやっている。
これは、相続放棄等で相続人がいない財産の管理処分をする職務だ。

裁判所が任命する。

さて、仕事はというと、財産の確定と債務の確定と清算、および本当に相続人がいないかの探索。

つまり、どれだけ財産があって、どれだけ負債があるか。そして、まだ見つかってない相続人はいないかを調べる。

その上で、債務を弁済し、残った財産があれば、それを国庫に収める。という仕事です。

私は債務整理案件とか、かなりやってきたこともあって、実はこういうのは得意。

まあ、それはおいておいて、今回のは処分に困る田畑・山林の話。

まず山林。
はっきり言って買い手がいない。

山林だから、木がある。
切って売ればいいじゃないと思うかもしれない。

切れるけど、売れない。
なぜ、
運び出せないから。

切った木を運び出すには、その木から麓までの運搬道路とか作らなければならない。
採算が取れないのだ。

そもそも、売れる木にするには、それなりの手間をかけなければならない。それも、植えて一年後に伐採できる木なんてない。何十年もかかる。

それに、どこにあるか分からない。

そう。
山林は、ここからここまでが誰それのものだとか、はっきりわかってないものが多いのだ。

市街地の土地のように境界標を打ってあるなんて、まずない(市街地も境界票を打ってないところが結構ある。)。当然公図(土地の位置関係、境界等を表した地図)なんかも、絵図面の域を出ないものがほとんど。

昔の人は、あの木からこの木まで、あの谷からこの尾根まで誰それのものだ、みたいに知っていた。

しかし、その人たちが亡くなってしまうと、もう誰も、はっきりしたことが分からなくなっている。

使えない、どこにあるか分からない。
誰も欲しいと思わない。

田畑。
これも人気がない。

大体、農地は農地法という法律があって、特定の要件を満たす人しか買えない。
例えば、すでに何㎡以上農地を持っていて、尚且つ、耕作等に出かけられる距離に住んでいなければならない、みたいな感じ。

したがって、農地は買うとしても、その近隣の人しか買ってくれない。

しかし、現状では零細農家は、採算が取れない。
そもそも、稲作だけで採算が取れるには、かなりの耕作面積がないと、コンバイン等の農業用機械の償却さえままならない。

だから、私の周囲には、専業農家自体あまりない。
当然、農地を増やそうなんて人が少ない。

こんな現状の上、私が管理するのは、市街地を遠く離れた山間部の過疎地の物件。

現地を見に行っても、どれが対象物件か特定できない。
公図を頼りに、そこらへんに、いた人に聞いても、分からない。

農業委員会に出向き、誰か買ってくれる人を斡旋してくれないかと頼んでみたが、そんなことはしないという。

農地の相続の時、農業委員会に、斡旋希望の有無を届け出ることになっているではないかと言うと、それは借りたい人がいる場合のことだと言う。

そんなこと書いてないじゃない。
自分たちで勝手に運用を決めているんじゃないかと、疑ったね。

まあそうだとしても、相続財産管理人としては、何とか処分しなければならない。

何とか、その地域の人を紹介などしてくれないかと頼む。
無理です。あの地域は、もう年寄りが数人しか住んでいない。新たに農地を買うなんて誰も思わないとのこと。

困った。
どうだろう、あなた買ってくれないだろうか、ただというわけにはいかないけど、限りなくただに近い値段でいいから。
と言ってみた。

実家に農地がたくさんあったりして、地元を離れられない人が、地方公務員になっているケースが結構ある。

担当者曰く。
子供が将来負担しなければならない、負の遺産を考えるとお金をもらってもいらない。

まあ、どこにあるか特定もできない田畑だ。
そうだろうなと思う。

さて、困った。
こうなったら、仕方ない財務局だ。

民法
第二百三十九条 
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

お願いします。引き取ってください。
いや、現金にして欲しい。(これはよく言われる。)
努力はしましたが、売れないのです。
だから、現物のままお願いします。

現物のまま受け入れるとしても、少なくとも測量して境界を明確にしてくれないと、受け取れない。

無理です。
現地は、山に囲まれた小さな盆地みたいなところ。
住人は、年寄りが数名。
もう、どれがどの土地か分からなくなっている。

境界というと、隣の土地の反対側の境界からの距離になる。ということは、隣の土地の反対側の境界がはっきりしていなければならない。

それがはっきりしていなければ、その先の土地の境界から調べなければならない。そして・・・となる。

結局、県道とか境界がはっきりしているところから(県道の境界が必ずしも明確とは言い難いが)、順に押してきて、当該物件を特定しなければならない。

仮に、県道からその物件までの間に30筆の土地を測量し境界を確定するとなると、1筆あたり50万円として、1500万円というとんでもない金額になる。

それも、30筆で済めばという話だ。
最悪、その地区全部を測らないといけないなんてなったら、億単位の費用になる。

相続財産管理人が選ばれるというのは、相続人が相続を放棄したからだ。相続財産の価値がないだけでなく、債務超過だ。つまり、お金がないのだ。

費用をかけて測量なんか原理的にできない。
ということで、現状のまま引き取ってもらいたい。

強制執行される可能性のある物件は、引き取れない。
大丈夫。債権者には、当該物件に強制執行しないとの承諾書をもらっておくから。

だから、引き取って。
・・・・・

念の為に言うけど、無主の不動産は国庫に帰属するのだから、相続財産管理人である私が、この土地の所有権者はいないと宣言した瞬間に、登記がどうあれ、理論的には国庫に帰属する、した、ことになる。でしょうが。

・・・・・
自分の判断だけでは、なんとも言えない。
上のものと相談してから、回答したい。

おお、おお、いいでしょう。
私のようなケースは、他にもたくさんあると思う。
そして、これからどんどん増えるでしょう。

所有者不明土地が大きな問題になり、なんとかしようと言うのが国の大方針なんだから、ここは、腹を括って対処するように言っといてよ。

それに、この問題解決はそんなに難しくないよ。
その方法は、

地区全体を国が一括購入する。
その上で、全物件を合筆して1つの土地にする。
その後、好きに分筆する。
分筆は、現地の測量とかしないで、全て図面上、GPS座標を使ってやる。

こうすれば、手間も費用もかからない。
おまけに、境界は境界票などなくても、GPSを使えば、即座にわかる。

こうなれば、その地域全体を一括購入して、使おうという人は、出てくるかもしれない。

一括でなくとも、境界のハッキリした物件なら買いたいと思う人も出てくるだろう。

その土地にそのまま住みたいと言う人は、ちゃんと境界がハッキリした現地でそのまま住めばいい。

売りたくない不在地主には、土地の利用計画を出させ、実際の利用の実績を求める。
それが、出せない人は、もはや売り渡すことを拒否できないものとする。

買収費用は、固定資産の評価程度良い(坪数十円だ)。
大した金額にならない。
売るときは、10倍位にする(それでも大した金額にならない。)。

これで、経費が出る。
もしかしたら、利益が出るかもしれない。

いい案じゃろう。
上にも、検討するように上申しなよ。

でも、我々が言っても・・・・
何を言うか、現場が一番状況がわかっているのだから、現場から解決策を提示するのが筋だ。

自分が考えた案だと言っていいから、上や中央に腹を括らせよ。そうでないと、所有者不明土地問題は、残ったままだ。
そう思うだろう、ね。

なんて、言ってきたのだが、まだ、回答はない。

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