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私の大事な友人が軍事境界線へ行ってしまう
韓国の兵役制度は、ご存知だろうか。
言葉の通り、韓国男児は強制的に軍に入隊しなければならない。期間は1年6ヶ月だ。
友人が先日、東京に遊びに来てくれた。
「兵役に行くから。」
今まで私は小学生の時から、韓国の兵役制度で入隊するK-POPアイドルを何人も見て来た。でもアイドルは現実離れしすぎた存在で「はやく帰ってこないかなぁ…」くらいの感覚で送り出していた。帰ってこなかった人は居ないし。
でも、今回ばかりはそうはいかなかった。
彼は私にとって初めてできた韓国人の友人であり、いまだに仲良くしてくれる素敵な人だからだ。
内気で、でも行動力があって、とても優しくて、ひょろくて、ガリで。
「こんなひょろくて兵役なんかいけるのか?
男社会の中で生きていけるか?
こんなに優しいのにいざとなったら人を殺せるのか?…」
私の頭の中は完全に混乱状態。
本人も兵役嫌だとは言っていたけど、それでも行くのだろう、行かなければならない。
こんなに優しい人が人を殺すなんて考えられない。でも、殺せなかったら殺される世界。絶対死んで戻ってくるとか嫌だ。
1番辛いのは友人自身であることは確実なのだからと、自分に言い聞かせて彼を送り出したのが3週間前のことだった。
入隊して1ヶ月は訓練所で訓練兵として過ごす。その間にこれから配属される部隊が決まるのだ。
彼はなるべく家族や私のような友人が会いに行きやすい場所が良いと思ったようで、ソウルや仁川周辺や釜山などを挙げていた。私も希望した場所周辺の部隊に配属されると信じきっていた。
絶対、なんてない。
希望は通らなかった。
それどころか、希望とは真逆の場所に配属が決まったと連絡が来たのだった。
友人の配属先は、DMZからすぐの部隊。最前線で戦わなければならない危険が伴う部隊。GOP警戒作戦任務。
軍の中で危険な任務をする人は特別な訓練をした人たちです。 軍事境界線周辺を守る主な兵士は「GOP」と呼ばれています。
まさか、そんな危険な場所に配属されるとは思わなかったから私はひどく驚いた。
そして怖くなった。
「本当に死んでしまったらどうしよう。
もう会えなかったらどうしよう。」
なにせそこは凍死する兵士も居るような場所なのだ。
死にたくなるけど、北朝鮮の人々の方が大変な暮らしをしているから自分はマシだと思って生きる場所なのだ。
そんな生き地獄のような場所に友人は行くのか。
そう考えるだけで私までつらかった。
胸が張り裂けそうな思いだし、怖いし、悲しい。
でも、私にできることはない。完全に無力だ。私に許されていることなんて祈ることくらいなんだ。
こんなに無力な自分が嫌になる。けど、どうすることもできない紛れもない事実だった。
やっぱり、世界は残酷だった。
この思いをどう自分の中に落とし込めば良いかわからない。分からないから文章に認めてみたのだが、心の中は大混乱のまま、変わることなどなかったようだ。
ただ、こんなに悲しいことはない。あってはならない。だから戦争は絶対にしてはいけない。そう、強く思った。
ここまで読んでくれたあなたもそう思ってくれたら嬉しい。身近な人が休戦中ではあるが戦争に行くつらさを共有できたら嬉しい。あなたの心が少しでも動きますように。
その積み重ねが戦争のない世界に近づくと、私は信じている。
このやきりれない気持ちを、この飲み込み切れない気持ちを、このやり場のない気持ちを、なるべく早く消化できますように。
2024年6月1日