心の垣根の低い世界
3歳半の娘を連れて私の姉(娘にとっては伯母)と一緒に近所の公園に行った。
16時ごろだったせいか、公園には小学校低学年らしき子供たちが数名いて奇声をあげながら駆け回っていた。
小さい公園なので娘にぶつかったら嫌だなと思いそこで遊ぶか迷ったけれど、娘がそこで遊びたがったのでまずは砂場に向かった。
砂場で遊んでいると上から声が聞こえてきた。
「ここによくなってるよ」「よし、ここから取ろう」「こっちも確認してくれ」
砂場の天井には藤の木の葉っぱが生い茂っていて、よく見ると子供たちが数人天井に上って何かをやっているようだった。こんなところによく登れるなと子供の身軽さに感心していると姉が子供たちに話かけていた。
「何してるの~?」
自分たちのやっていることに興味を示されたのが嬉しいのか子供たちは次々と説明をしてくれた。
「ここにインゲンみたいなのがたくさんなってるんだ」「だから下から調べて上の人にとってもらうの」「でもこのインゲンには毒があるんだって」「だから食べちゃダメなんだ」「でも前食べてみたけど僕は大丈夫だったよ」「ママが毒があるって言ってたんだよ」
関心ついでに年齢が気になったので尋ねてみた。
「みんなよくこんなところ登れるね。何年生?」
「もう3年生だよ!」「3年生の8歳です!」「私は9歳!」
男の子も女の子も叫ぶように答えてくれた。
そうして小学生たちと交流していると娘が他の遊びをしたがった。
「ねぇ、この砂場の周りでかけっこしようよぉ」
以前この公園で二人でかけっこをして遊んだのでそれをしたかったようだ。それなので地面に線をひき、姉と娘の二人でかけっこの準備をしてもらった。
「よーいドン!」
スタートの号令とともに駆け出す娘。わき目も振らずたったか走って砂場をぐるりと一周して戻ってきた。姉は娘に続いてゴールイン。娘は一番にならないと泣き出すのでいつも娘が一位になる。
一回目のかけっこが終わったら、それを見ていた小学生たちが声をかけてきた。
「私もやりたい」「俺も!」「僕が一番になる」
「いいよ~、じゃぁお兄ちゃん、お姉ちゃんたちだけで走ってみなよ」
娘は勝てないと泣き出すので小学生たちだけで走らせた方がよいと判断したのだけれど、娘は一緒に走りたかったようで私も走ると譲らない。
「じゃぁみんなで走るか。よぉーし、位置について、よーいドン!」
号令とともに飛び出していく小学生たち。娘も必死の表情で追いかけるけれど5歳の年齢差をくつがえせるわけもなく、惨敗。走っている途中で泣き出してしまった。
かけっこの興奮の余韻に浸っていた小学生たちは、それを見たとたんに皆それぞれ「あちゃ~、やっちゃたぁ」という表情をしていてそれがなんだか彼ら彼女らの優しを表しているようで嬉しかった。
「うわーん、勝ちたかったぁぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ娘に一人の女の子が声をかけてくれた。
「じゃぁもう一回やろう!男子は早歩きで、あなたは走ってね!わかった?」
もう一度チャンスをもらえた娘はすぐに泣き止み、こくりとうなずいてスタートラインにたつ。男の子たちも一緒に娘の横に並ぶ。
その女の子が虫取り網を上から下に振って号令を出す。
「よーいどん!」
男の子たちは早歩きで飛び出すけれど、娘も負けじとたったか走る。実は早歩きでも男の子たちの方が速かったのだけれど、彼らは娘に勝ちを譲ってくれて娘が先に行けるようにと途中で速度を緩めてくれていた。
娘は真剣な表情で砂場の周りを駆け抜けてきて一位でゴールインして大喜び。
「やったー!もう一回やるぅ」
さすがに2回も3回も彼らに気を遣わせるわけにはいかないので、違う遊びの提案を娘にしてみた。しかし首を縦に振らない娘。そうしているとまた女の子が声をかけてくれた。
「この葉っぱのいっぱい茂ったつるで遊ぼうよ!」
そうしてそのつるを使って地面をはく遊び?を一緒にはじめてくれて娘は楽しそうに公園の地面をはいて回っていた。
ある程度年齢を重ねてからはこんなにも気軽に知らない人と遊び始めたことは記憶になかったので、このときの小学生たちの心の軽やかさや、娘に見せてくれた気遣いがとても嬉しくて、彼ら彼女らをとても愛しく感じた。
子供たちの世界の優しさを見た思いだった。