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「その一員」(切れはし小説shortscrap)
工場の門からぞろぞろと、私たちは外へ出た。
私「たち」とはいえ、そこに連帯感などなく、私以外はみんな、聞いたことのない言葉を喋って笑いあっていた。
私は聞き耳をたてて、彼らが何と言っているのかを探ろうとしていたが、それは英語ではなく、やはり私の知らないどこかの言葉で、さっぱりわからなかった。
この工場の労働者は外国の人が多い。
どういう経緯でこれだけの人を集めたのかわからないけれど、日本人は数えるほどしかいなくて、特に私のラインは、私だけが純粋な日本人だった。
だから周囲からは、どうしてここに日本人がいるんだ、という目で見られている気がして、私はいつも居心地が悪く感じていた。
彼らの話す言葉はまるで呪文で、私には何を言っているのかわからなかったけれど、笑い声にかぎっては全部、私のことを笑っているように聞こえるのだ。
そんなはずはないのに、みんなが私を笑って、後ろから指をさしていると感じてしまう。
自分がおかしいのかと思った。神経が過敏になりすぎていて、卑屈になっているのだと。
しかし、笑い声が聞こえるたび感じてしまうのだ。
ひとりぼっちの私を笑う声だと。
門を出てすぐのところで、若い男の子が肩にぶつかってきた。
ぶつけられたにもかかわらず、私は「ごめんなさい」と謝ってしまった。
けれども、その男の子は全く気付くことなく、こちらを見ることもなく歩き去った。
私の声が聞こえなかったように、そもそも、私の存在がここに無いかのように。
背後では、また大きな笑い声がした。
何人も、私の背中の向こう側で、手を叩いて笑っている。
私は思わず立ち止まった。
その笑い声を、もっと聞いていたいと思った。
もしも私のことを笑っている声だとしても、それでもかまわない。笑われるということは、たしかに私はここにいるということだから。
もしかしたら、私も「たち」の一員になれたのかもしれないから。