「オリジナルストレージ」(切れはし小説ShortScrap)
形だけの偽りの幸せを手に入れるために、私が犠牲にしたものは、今まで大切にしてきた私自身と呼べる膨大な記憶だった。
皮肉なことだと思う。
私が未来を手にするためには、私の過去を捨てなければいけないのだ。
「キミの幸せの定義が間違っているんだ。たとえば古いタブレットPCを買い換えるときのように、必要なデータだけを選別することが、本当に求められていることだったんだよ」
境界の哲学者はそう言って、私のことを簡単に笑って済まそうとした。
「しかし、私が抱えたものは、あなたの知るものとは違っているんだ」
彼のことをじっと見据えて私は言った。
言い争いになったら、きっと何もかも言い負かされてしまうだろう。
けれどこのままにしておくことはできないと思ったのだ。
私が心から信じているのは、形だけの幸せで。
それにすがるしか生きる方法がないのだから。