「踏み出せない私」(切れはし小説ShortScrap)
降りつづく雨に打たれて、私は足をとめた。
どうしてこれ以上進まなければいけないのだろうと、考えてはいけない疑問を考えてしまった。
べつに誰のせいというわけではないのだ。全ては一滴の偶然と、一粒の運の悪さがひきおこした、仕方のないことなのだから。
黙って受け入れてしまえばいい。しかし、
「彼女はきっと私のことを責めるだろう。理性とは関係なくまるで自然なことのように、私の心をえぐってくるんだ」
それは簡単に想像できることだった。それ故に、くやしい。
雨はわずかな時間のうちに強さを増した。もう、深々と傘を差したところで防ぎようがないくらいだった。
再び歩きはじめるなんて、できるわけない。
「それならば、ずっとここに立ち止まっていればいいよ」
どこからか声が聞こえた気がして、私はおもいきり耳をふさいだ。
「立ち止まれば傷つかなくて済むじゃないか」
さらに声は聞こえた。
「だって、自分がゴールへたどり着けないことを、知らなくて済むということだから」
いつのまにか雨はやんで、踏み出せない私だけが、耳をふさいだまま俯いていた。