「終着の地にて」(切れはし小説shortscrap)
私の旅も、とうとう終着地にたどり着いた。
1000年ほど前のこと。
この地にたどり着いた一人の男が歌を詠んだのだという。それは朝方の煙にゆらめく山々の歌で、その山は、今もこの町の片隅で人々を見下ろしている。
私はその男の跡をたどって、ここまでやってきた。
およそ一週間歩き詰めで、足は棒のようになっていた。男もこのように足を痛めながら歩いたのだろうか、想像をすると、まるでなにもかもわかったような気持ちになった。
「何も変わらないのだ、1000年も前から景色はそのままここにある」
例えば、道路ができようと、インターネットの電波が飛びかおうと、薄くけぶる山とその麓に住む人々は、今でもここにある。
私がこの旅でわかったことは、いにしえの昔からこの地に人は住み、1000年たってまた、この地に人は住み続けているということだった。誰が命じたでもなくただ人々は住んでいるのだ。
「瓦山 揺れる煙のかき分けて 祈ることなし 祈ることなし」
ただ世界は、ここに存在している。