「スパイラル」(切れはし小説shortscrap)
「きっとあなたにはモノ書きの血が流れているのよ。それはそれは気むずかしい、自分のことしか省みない孤独なモノ書きの血が」
岡本さんにそう言われて、私は必死に手の震えを抑えた。
彼女が私の父のことを知っているはずはない。私は一度も話したことはないし、そもそも、父のことは彼女に限らず、誰にも知られないように気を使ってきたからだ。
人には言いたくない、自分の過去に置き去りにして、きっぱりと捨てたはずの、私の父のこと。
私の父は売れない作家で、気狂いの末に、彼女の母親を巻き込んで自殺をしたのだ。通りすがりに出会っただけの他人の手をとって、線路へ飛び込んだ。
私は心の底から父のことを軽蔑している。
自分だけで死ぬのならまだしも、見ず知らずの人を道連れにして死ぬなんて、人としてどうかしていると思う。死ぬときまで、その最期のときまで、人生の選択を誤った父を、どうして認めることができるだろうか。
「私はモノ書きなんて人間のことを、よく思ったことはないわ。だからそんな血がもしも本当に私の身体に流れているというのならば、私は私のことを嫌いになってしまうよ」
震える手を後ろに隠して私がそう言うと、岡本さんはニヤッと笑って、私もそう思う、と言った。