「こんなにも手を」(切れはし小説ShortScrap)
私は彼女の手をとった。力を込めて強く握った。
「ほら、私たちは直接、手をつなぐことができるじゃない。このぬくもりが本物なんだ。これだけがこの世界で確かなものなんだ」
九条はとまどって私を見つめていた。
私は彼女から絶対に視線を離さないと、そう心に誓った。
「私たちのあいだに神様なんていらないんだ。そんなものなくたって、私とあんたはこうやってつながることができるんだから。私、神なんて愛さないよ。そんな暇があるんなら、隣りにいてくれる大切なあんたのことを、よっぽど愛したいって、そう思っているんだからね」
そう言って、握った手にいっそう力をこめた。
「いたいよ」
九条はひとことだけつぶやいて、悲しそうに笑った。
彼女がいまさら信仰を捨てられないのはわかっていた。それでも、彼女の手をとらずにはいられなかったんだ。
「いたいって」
「この痛みをいったいなんて呼べばいいか、九条、あんたにわかる?」