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「さくらがさね」(切れはし小説shortscrap)
ひらりと舞う花びらのもどかしさが、彼女のかんばせの先で踊るように美しく、まるで星の降る夜に想いを託すように、どうかこの時間がわずかでも長く続くことを願って、心の中で声をあげた。
明け方の神社は、空気が澱みなく白んでいて、本殿の前に生える3本のソメイヨシノは、薄紅の花びらを散らしては、流れる川の水面のように輝いて見えた。
手をのばす先から遠く舞い落ちる花びらは、やはり彼女のはにかみをもどかしく覆いながら、白と赤の清廉な巫女装束を前に、鮮やかに映えていた。
太陽がこの空の頂点にたどりつくころには、彼女の舞が終わる。明け方から続くそれが終わると、彼女はもう人ではなく、神の使いのひとりとして、うつつから絶たれ2度と俗世に姿を現すことはできない。
それは一生の別れ。
僕と彼女の積みあげた14年間の終わりを意味していた。
僕らは同じ日に生まれた。この町に20人ほどしかいない子供たちの中で、それは特別に近しく、それこそまるで双子のように意味深く、共に手をとりながら生きてきた。血のつながりはない。けれどもそれ以上に親しく並び歩く、特別だった。
生まれた日が同じということは、同じ時間を積み重ねているということ。それは何よりも僕らを結いからげる縁のようなものだと思った。それなのに、幼いころから共に泣き笑いしてきたこの14年間は、儚い思い出としてここに終わる。先へ続くものはもうない。
陽の光は鋭く降り、影はその身を寄せて短くなった。
風に揺れはかなく散る薄紅は、彼女のほほの淡く染まった美しさに似て、僕の胸の奥に芽生えていた言い出せない思いを、さらうようにひらりと、土に落ちた。