「環世界」に生きる私たち

こんにちは。世の中理解塾の鳥山です。

 いよいよ新学期が始まりましたね。皆さんは、どのような1年を過ごそうかなとお考えでしょうか。

 今年度は、私にとって最後の学生生活期間です。モラトリアムが終わりを告げる事への焦燥感は無きにしも非ずですが、「最後だからこそ!」と、自らの好奇心と挑戦心がさらに強まっているように思います。
ふと思い立って一人旅をしたり、美術館を訪ねて芸術鑑賞を愉しんだり、本や映画作品に耽ったり…。
 就職活動に一区切りついた今、迫る社会人に向けて「マインド形成」や「習慣化」を目的に、日々多彩なことに取り組んでいる今日この頃です。(もちろん、学問にも励みます!)


 キャリアを考えるきっかけになるかもしれない、今回のコラムのテーマは「環世界(=Umwelt:ウンベルト)」です。

・相手に自分の考えを伝えたいけれど、うまく伝わらない
・就職活動で「自分らしさ」や「ありのまま」を表現できない

こんな悩みを持っている方に、ぜひ知っていただきたい概念です。

環世界とは

「環世界」…
環世界(=Umwelt:ウンベルト)とは、ドイツの生物学者であり哲学者であるユクスキュルさん(1864〜1944)が唱えた考え方で、すべての生物は自分自身が持つ知覚によってのみ世界を理解しているので、すべての生物にとって世界は客観的な環境ではなく、生物各々が主体的に構築する独自の世界である、というものです。

https://revolver.co.jp/CEO/17213737

 ちょっと分かりにくいかもしれないので、ユスクキュルと同様、ミツバチを例に説明します。

 (a) が私たち人間が見ている世界、(b) がミツバチが見ている世界です。
どちらも同じ世界を見ているはずですが、人間は植物の花弁、茎、葉など様々な要素を認識している一方、ミツバチは花の密しか認識していません。ミツバチが見ている世界は、人間が見ている世界と大きく異なっているのが明らかでしょう。
 それは、ミツバチが花の蜜だけを求めているからであって、それ以外の茎や葉の部分は何の意味も持たないからです。その他の部分は、彼らにとって何ら関係ない要素で文脈をもたないので、ミツバチの認識下には存在し得ないのです。

「環世界の研究では、意味の関係こそが唯一の信頼できる道標である。ミツバチにとって意味があるのは花だけであって、つぼみには意味がないのである。」

ヤーコプ・フォン・ユスクキュル「生物から見た世界」(岩波文庫・2005)

 つまり、私たちが見ている世界は、当人が何を「意味」と捉え(=認識し)ているのかに依存するため、あらゆる生物にとって、見えている「世界」は異なります。
 この事は、私たち一人ひとりが見ている「世界」の違い、としても適用することができます。
 あなたが他者と話をしているとき、「全く話が噛み合わない」と感じたことはありませんか。この時、自分自身と相手の「環世界」の違いを把握できていなかった事が要因かもしれません。環世界を形成する、一人一人にとって「意味あるもの」は、環境や人生経験によって変容するため、十人十色です。例えば、自分の話を全く聞きいてもらえなかった時は、相手の「環世界」との隔たりが大きかったからかもしれません。自分にとって意味があり、重要だと思っていることは、相手にとって何ら意味は無く、認識さえされていないという事は、往々にしてあります。

 人それぞれが異なる「環世界」を持っている、という認識をコミュニケーションの前提として自覚しておくことで、他者との会話のストレスは軽減されます。私たち一人ひとり、異なる環世界に生きる人間同士だから、理解し合えないのが当然。相手に思うように伝わらなくても、真剣に話した事をないがしろにされても、「だって環世界が違うんだから、仕方なし!」と思うことで、少し気が楽になります。
 ただ、解り合えないのだと悲観し拒絶するだけでは無く、それでも他者ととの違いを理解しようと歩み寄り、ちょっとずつ受け入れてゆく事は大切なアプローチです。解り合う事は、他者とのコミュニケーションにおける「奇跡」として、喜びを感じ得ることで積極的行動に繋がります。

世界線を越えるためのアプローチ

 プライベートの場面では、相手と時間をかけてゆっくり丁寧に関係性を築くことで、その違いを少しずつ理解してゆく事ができます。しかし、就職活動における面接などの場面は、短く限られた時間の中で、自分の人物像を端的に、かつ誤解なく伝えなければなりません。そんな中、うまく伝えたいけど伝わらない状況は、非常にストレスフルですよね。
 そこで、「環世界」の違いを意識し、会話をもっと戦略的・効果的に展開することが、相手に効率よく伝えるために必要になります。
 その具体的な方法をご紹介します。

  1. 相手の「環世界」を引き寄せる
     一人ひとりの「環世界」は、自己が認知している、意味あるもので構成されています。
     したがって、相手に伝えたいことがあるとき、相手にとってその情報(=あなたが伝えたいこと)が「意味あるもの」として認識させることが必要です。

例・「私の今までの人生は、自身の『発想転換力』が、あらゆる出来事の引き金となっていました。」
 ・「私を一言で表すと、『知的好奇心の塊』です。」

 例えば、会話の冒頭部分で、伝えたい・聞いてほしいことを簡潔に「注目して欲しいワード」として、相手に分かりやすく明示します。すると、相手は自然とそのワードに注目して話を聞くようになります。

 自分にとって意味あるものを「キーワード」として特徴的に伝えると、相手の認識変化を促すことできます。よって、互いにとって「意味あるもの(=「環世界」の要素)」は重なります。相手の「環世界」を引き寄せていく事で、同じ文脈を以て会話しやすくなり、伝えたいことが相手に伝わりやすくなります。

2.自分の「環世界」を相手に寄せる
 見ている世界の違いを前提に、相手の「環世界」を理解するためのコミュニケーションをとることも効果的です。相手の「環世界」を把握し、相手に伝わりやすい情報に絞って示すことで、効率的に情報伝達ができます。

・「〇〇と言えば、何を思い浮かべますか?」
・「××に必要な要素とは?」

 このような問いかけに、相手が返答に用いたワードが「環世界」の構成要素です。相手の「環世界」に添った情報を提示すれば、その情報は伝わりやすくなります。

例・成長するために必要なことは、何だと思いますか?

 相手が成長には「努力」が必要と答えたら、努力に関するエピソードを。「戦略」と答えたら、あなたが戦略的に行動を起こした具体例を話しましょう。相手が受け取りやすい情報を選択して語ることで、伝わる確率は上昇します。


 自分のことを理解して欲しい、ありのままを伝えたい、と思うと、つい話す内容を盛りだくさんにしてしまう傾向があります。しかし、それでは話す内容が散乱してしまい、逆効果です。「結局何が伝えたいのか?」が不明瞭で、相手に印象が残りません。
 わずかなコミュニケーション通じて、相手に自分を理解してもらう必要がある場合、戦略的に情報を取捨選択して、わずかでも確実に伝え切ることをゴールとし、選択的に会話することが鍵となります。
 一度で伝わる量は限られているからこそ、自分の全てではなく、自分の選択した側面を単純明快に理解してもらうように伝えましょう。

全部は伝わらないから、何を伝えるのか

 勿論、人の性格は一言で言い表せるものではなく、様々な側面があり十人十色です。しかし、伝えられる情報が一部であるならば、より相手が好ましいと感じ、受け取りやすいと考えられる情報を抽出して伝えることが適切です。面接などでは特に、自分自身の「どの一面を伝えるか」を意識して、面接する相手や企業によって対応を変化させましょう。相手に嘘偽りない自分を伝えると同時に、より相手に好ましい形で、印象を持ってもらうことができます。

 自分と相手は異なる「環世界」を生きる存在です。故に、コミュニケーションの齟齬が生じるのは当然の摂理です。そのことを理解した上で会話すれば、私たちはすれ違いにも、ネガティブな感情を抱き押しつぶされることなく、他者との歩み寄りに努めることができます。
 互いの「環世界」を意識して、是非これからのコミュニケーションやプレゼンテーションを展開してみてくださいね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?