見出し画像

最近やたら流れてくる不動産会社の広告で所得税率としている数値が不正確極まりない(なかった)件

わたしはいちおうFacebook(FB)のアカウントを持っていまして、投稿頻度は年に数回ではあるものの、毎日閲覧だけはしてるんですね(ROM専ってやつですね)。

わたしのFBではどういうわけだか不動産投資関連の広告が多く、非常によく以下のような画像が流れてきます。あるいはきました。(広告は毎月のように変えているようなので過去形、だけどさっきも流れてきたな…FBで流れてきた某不動産会社の広告画像

さすがに会社名は塗りつぶしますが、どうやらこの会社は都心の駅にも広告を出したりと最近とみに露出を増やしているっぽいので、もしかしたら皆さんもどこかのWebで見かけたことがあるかもしれません。

今回は、この広告についてツッコミたいと思います。というか、税理士であればうんざりして逆にツッコムのも憚られるぐらいです。ある種の健康食品に対して医師が抱く感情と同じかもしれません。

極めて不正確、もっと言えば悪質といっていい広告だ(った)と思う

(1)年収ってふつう、サラリーマンなら給与の額面金額

この広告だと、年収1,000万円の所得税率は33%としています。

たしかに、課税される所得金額1,000万円に対する税率は33%です(*(2)で追加で説明)。

年収って一般的に、サラリーマンであれば「額面」つまり所得税・住民税・社会保険料が引かれる前のものを指します。いや、この会社としては違うというのかもしれませんが。

「年収」と「課税される所得金額」は全然違います。玄米と精白米くらい違います。(食べ物を使った他に良いたとえがありそうだけど思いつかなかったです)

おおざっぱにいえば
年収−経費-所得控除=課税される所得金額 です

先の例でいえば 
年収=玄米 課税される所得金額=精白米
に対応します。(それほど良いたとえではないですが)

「年収」と「課税される所得金額」を区別していない点で、まず極めて不正確です。

(2)所得税の税率は、超過累進税率であり、所得の階層に対応するものである

所得税は超過累進税率になっています。これについては以前記事を書きましたが、もう一回説明します。

所得税の税率は、所得税法で以下のように規定されています。

百九十五万円以下の金額           百分の五
百九十五万円を超え三百三十万円以下の金額  百分の十
三百三十万円を超え六百九十五万円以下の金額 百分の二十
六百九十五万円を超え九百万円以下の金額   百分の二十三
九百万円を超え千八百万円以下の金額     百分の三十三
千八百万円を超え四千万円以下の金額     百分の四十
四千万円を超える金額            百分の四十五

よく見ればわかりますが、一定の幅の金額の時にこの税率、というようにしています。ですので、1,000万円の時は 195×5/100+(330-195)×10/100+…と計算していきます。そうしていくのは面倒なので、以下の速算表を用います。

所得税額の速算表

「課税される所得金額」1,000万円のとき、所得税額は
10,000,000×33%-1,536,000=1,764,000円 となります。

「課税される所得金額」10,000,000円に対して税額は1,764,000円
つまり17.64%です。

ということで、広告の表現は不正確です。

以上、この広告は大きく二つの過ちを犯しており、まず(1)で誤って、さらにそれを悪化させる方向で誤っています(2)。

年収1,000万円のサラリーマンはいくら税金(所得税・住民税)・社会保険料を払っているのか

以前、年収500万円のときは記事にしてます。

今回も、つらつら書きます。

①社会保険料(概算)

年収×14%(概算)
=10,000,000×14%=1,400,000

②所得税額

課税される所得金額=(イ)年収 -(ロ)経費 -(ハ)所得控除
なので順を追って
(イ)年収   10,000,000 …前提条件
(ロ)経費     1,950,000 …給与所得控除(※1)
(ハ)所得控除   1,880,000    …(※2)
(イ)ー(ロ)ー(ハ)=6,170,000     

※1:サラリーマンにおける経費みたいなもの
※2:以下計1,880,000(住民税は1,830,000)
・社会保険料控除 ①より1,400,000
・基礎控除 480,000(所得税) (住民税は430,000) 

所得税の速算表より
6,170,000×20%-427,500=806,500

所得税の速算表

③住民税額

(6,170,000+50,000)×10%=622,000
(50,000は所得税と住民税との基礎控除の差。住民税は基礎控除額が50,000円少ないので、所得税の計算上の課税される所得金額に50,000円加算)
実際には均等割とか、調整控除とかありますが、大差ないので無視。

④ ①+②+③合計

1,400,000+806,500+622,000=2,828,500

年収に対する率:約28.3% (逆にいうと、手取り率:71.7%)
…33%に届いていません。

まとめ

というわけでして、冒頭の画像は、「年収」と「課税される所得金額」をない交ぜにした上、所得税率が累進税率となっていることを無視した、不正確極まりないものです。わたしに言わせれば悪質と言っていいものです。

でも、この広告を出していた運営会社は、調べてみると実は上場会社でした。

よりによって上場会社の提供するサービスの広告でこのようなものを、こうも臆面もなく大量に出している(た)のか、よくわかりません。あるいは、このように記事にさせることである意味炎上マーケティングに近いことをしているのかもしれませんが。

今後も、このような不正確な数値をもって広告を打ってくるようなところは後を絶たないと思います。残念なことですが。

不動産投資そのものについては、今回は特に触れませんが、その営業手法は、この広告の他にも、さすがにどうなんだろうと思うところがありますので、気が向いたら記事にしたいと思います。

本日は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!