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副業で売上げ300万円以下は事業所得ではなく雑所得として取り扱うという所得税法通達改正案について

8月に入ってから一部で話題を独占している、標記の件について取り上げます。執筆を始めようとした時点で、note上では無料でこの件を取り上げているものはありませんので、速報的な内容です。

通達とは ~所得税基本通達35~

通達は法規範性はないけど実務上は実質的に従う

所得税法35条に雑所得についての定めがあります。
それについての通達なので所得税法基本通達35- となっています。

法律→施行令→施行規則という法令体系の中、通達はあくまで行政内部を規律するもので、国民に対しては法規の性質をもつものではありませんが、実務に与える影響は極めて大きく、現実的には通達に基づいて各種会計処理等が行われています。

今回の例でいうと、所得税法という法律に雑所得の定義(35条)があるわけですが、それをさらに細かく規定したのが通達です。

通達の具体例

たとえば現行通達でも以下のような規定があります。

(10) 就職に伴う転居のための旅行の費用として支払を受ける金銭等のうち、その旅行に通常必要であると認められる範囲を超えるもの 

所得税法基本通達35₋1(10)

これからその会社に就職しようとする人にとって見れば、就職に伴う転居のための旅行の費用として、通常必要であると認められる範囲を超えるものは雑所得になりますよ、というものです。(通常必要な範囲であれば非課税です)

この点、通常認められる範囲を超えるものが所得になるのはわかるとして、就職前提だから給与所得でもいいだろう、とも思えますが、就職前であるから雇用関係がないと整理して、基本的に雇用関係に基づく所得である給与所得ではなく、雑所得としていると考えられます。

わりと細かい論点ですが、こういったものを法律ではなく通達という形で取り扱いを決めているわけです。

所得税基本通達35改正案の勘所

改正案を見て、私見を述べます。
改正案は以下の画像です。

所得税基本通達改正案新旧対照表

雑所得にはどういったものがあるかという通達を改正しようというのが今回の案です。

1.雑所得を「その他雑所得」「業務に係る雑所得」に分類

既に令和2(2020)年度の確定申告から、確定申告の様式上、雑所得は「公的年金等」「業務」「その他」に欄が分かれていました。公的年金等はともかく、「業務」か「その他」かの分類については確定申告の手引きにちょろっと記載があったものの、今回、通達上でもこの分類を明確化したものと思われます。

令和元(2019)年以前は確定申告の様式上、雑所得は「公的年金等」と「その他」の二分類だったものを、令和2(2020)年以降「公的年金等」「業務」「その他」の三分類とわけていました。「業務」という概念を創設したわけです。

これは「業務」に分類される雑所得は、令和4(2022)年度から以下のように取り扱われることから、いわばその下準備としてです。

その年の前々年分の収入金額が
300万円以下:現金主義の適用が認められる
300万円超 :現金預金取引等関係書類(要は請求書や領収書)の保存義務
1,000万円超:収支内訳書の確定申告書の添付義務
が課せられる

2.商品売買的なものは「業務」で、不動産の継続売買的なもの(但し不動産所得に至らず)は「その他」

(その他雑所得の例示)
35-1 次に掲げるようなものに係る所得は、その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)に該当する。
⑿  譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除く。)

(業務に係る雑所得の例示)
35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。
⑺ 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得

「営利を目的として継続的に行う資産の譲渡」とはつまりいわゆる「せどり」のことですからこれは「業務」になることはわかります。

一方、「譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得」とはどんなものがあるのかというと、ここでは、譲渡所得というには頻繁に売買を繰り返しているから譲渡所得とは言えず、さりとて事業所得というには、本業も他にあるなか不動産業としてやっているわけでもない、というような場合です。

ちょうどいい裁決事例があります(平成元年6月23日裁決)

3.事業所得か雑所得かの判断に金額基準を明記

今回の改正案の肝はここです。

(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

事業かどうかはあくまでも社会通念に従って判定
 →そうはいっても、総合的に判定するのは面倒
  →その所得がその者の主たる所得でない(←つまり本業がある)
   &その所得に係る収入金額が300万円未満 
 ←特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない

ここで、これはあくまで通達(案)なので、「差し支えない」のは税務署側です(納税者ではない)。そして「反証」するのは納税者側です。

300万円という金額基準は上記の、現金預金取引等関係書類の保存義務のボーダーに合わせたということでしょう。

そうはいっても論点は残る

主たる所得かのボーダー

その者の主たる所得でないというのであれば雑所得つまり事業所得ではない、というのはわかりますが、主たる所得か否かのボーダーはそこそこ存在しそうです。半分はバイトして、半分はせどりして、というようなことをしている人、まあまあいるかと思います。

零細だとしても事業所得となる余地はまあある

「その所得がその者の主たる所得でない」なので、家族の一方に稼ぎ頭がいて、自分は半ば趣味的に何かやっている、という場合、先の(注)の要件に該当しません。そして、こういう人は山ほどいます。

こうなると、いくら売上300万円に満たない零細だろうが、金額基準で一律に判断できるものではなくなり、社会通念に従うことになります。

ホントに趣味でやっているなら雑でしょうし、そうでなければ事業です。

国税庁は副業で節税!勢を一掃したい…?

最近は、まーこの「副業することで節税しよう!」というのがやたらと多いです。そもそも、家事費を入れられると考えているのであれば脱税ですし、副業で赤字を出して損益通算だと考えていれば、その時点で事業性なしということで事業所得ではなくなり損益通算はできません。

そのため、今回の通達改正のよらずともダメなものはダメなんですが、これまで事業と雑の区分を定量的に示してきてはなかったので、今回、これを示すことで一律に網をかけようということかもしれません。個人的には賛
成です。国税庁はぜひDXを駆使して不適切な申告をバンバン取り締まってほしいです。

ところで、よくある上記の副業で節税勢を良く見ていくと、けっこうな割合で情報商材的な匂いがするんですよね。マルチ的情報商材。まあ、いいんですが。

本日は以上です。ご覧いただきありがとうございました。




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