法人住民税均等割の従業者人数に無給の非常勤役員は含まれるのか問題 ~東京都は含めると言ってるけど、疑問~

この記事は、以前匿名で別のブログ記事にしていたものを、今般こちらのnoteに移植し、大幅に加筆修正を加えたものです。内容としてはわりと専門的なニッチなものです。

1.法人住民税均等割について

均等割は要はショバ代

法人住民税均等割(以下、単に「均等割」とします)というのは、その自治体に事務所や事業所など(事業所等)がある以上、自治体から何らかの行政サービスを得ているであろうことから課されるものです。都道府県に払う分と、市町村に払う分とがあります。

事業所等がある法人は、たとえ所得がなくとも均等割は払う必要があります。俗っぽく言えば、ショバ代ですので。

均等割額の決まり方

都道府県民税の均等割は資本金等の額(資本金等の額の詳しい説明は割愛)によって税額が異なりますが、市町村民税の均等割は資本金等の額の他に、従業者数(50人以下か、超か)によっても税額が異なります。例として群馬県と、前橋市の表を下記に示します。

法人住民税均等割の表(群馬県及び前橋市)(ただスクショして貼り付けて並べたもの)

ちょっと見ていただくとわかるかと思いますが、向かって右側の前橋市は50人以下or超でだいぶ違う額となります。たとえば資本金等の額が4億円の会社があった場合、従業者数が50人以下であれば192,000円ですが、50人超であれば480,000円です。

この差異は、前橋市以外でも同じような感じになっています。(もとの地方税法がこんな感じで、そこから各自治体で変えているので)

市町村民税の均等割は、事業所等がその市町村にある以上発生します。事業所等とは何かということを見ていくとこれはこれでちょっとした論点があったり(モデルハウスは事業所か、等)しますが、割愛します。

2.従業者数に無給の非常勤役員を含めるかは自治体によって異なる取扱いの模様

本題に入っていきます。

この従業者とは何か(どこまで含めるのか)ということに関し、タイトルにある無給の非常勤役員につき、自治体によって異なる取扱いをしているようです。

含めないとする自治体

例えば静岡県浜松市では、無給の役員は従業者には含まれないことを明らかにしています。ちなみに、ここでは常勤・非常勤は問うていないため、社長だろうと無給であれば従業者数には含めないと解することになるかと思います。

なお、会社の役員は従業者には一般的に含まれませんが、上記のような給与の支払を受ける役員は従業者数に含まれます。給与の性格を有するものの支払を受けない役員は、均等割の人的設備となっても、ここでいう従業者には含まれません

浜松市Webサイト「均等割の従業者数について」(太字筆者加工)https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/shiminze/zei/siminze/kintou-houjin.html

これは、愛知県豊橋市も同様です。

会社役員は、一般的には従業者には含めませんが、給与の支払いを受ける役員は、従業者数に含められます。

豊橋市 法人市民税Q&A Q7
https://www.city.toyohashi.lg.jp/secure/8333/hojin_q_a_2.pdf

両市とも、会社役員は一般的には含めないが、その例外として給与の支払いを受ける役員は含める、と取り扱っていることが分かります。原則-含めない、例外-含める という関係性です。

含めるとする東京都

一方、特別区を持つ東京都では、都税のガイドブックを読み解いていくと、無給の非常勤役員も従業者数に含めると明記されています。

均等割の従業者の範囲は分割基準に用いられる従業者と同意義のものです。ただし、均等割の従業者の数については、寮等の従業者数を含みます。(取扱通知(市)第2章11)
 従業者とは、原則として当該事務所等に勤務すべき者で、俸給、給料、賃金、手当、賞与その他これらの性質を有する給与の支払を受けるべき者をいい、常勤、非常勤の別は問いません。したがって、従業者には、派遣労働者や、アルバイト、パートタイマー、日雇い者、役員等も含まれます

都税Q&A 法人事業税・法人都民税 Q14
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/tozei/index_a1.html#q14d

従業者とは、給与支給の有無に関わらず、また、常勤、非常勤の別を問わず、給与の支払いを受けるべき労務等を提供している者が対象になります。
具体的には、役員(無給の非常勤役員を含みます。)のほか、アルバイト、パートタイマー、派遣社員等も含みます。

東京都主税局 分割基準のガイドブック(平成29年7月) P8
2 従業者の数(1)従業者とは

「均等割の従業者の範囲は分割基準に用いられる従業者と同意義のものです」と説明され、ではその分割基準に用いられる従業者とは何かを見ていくと、「具体的には、役員(無給の非常勤役員を含みます。)…も含みます。」とあるわけです。

ということは、東京都では無給の非常勤役員も従業者の数として取り扱われるということになります。

※分割基準と出て来ましたが、要は法人市県民税、事業税を分割するための基準です。これも説明しだすとちょっと面倒なのでこれ以上は割愛します。

3.各自治体の条例と地方税とで文言が微妙に違う

自治体の条例(浜松市 東京都)

浜松市の市税条例を見てみます。

従業者(俸給、給料若しくは賞与又はこれらの性質を有する給与の支給を受けることとされる役員を含む。)

浜松市税条例 第31条 表(1)オ (太字筆者)

次に東京都の都税条例を見ます。

従業者(俸給、給料若しくは賞与又はこれらの性質を有する給与の支払を受けるべき役員を含む。)

東京都都税条例 第106条 表 一 ホ(太字筆者)

浜松市は「受けることとされる」
東京都は「受けるべき」

という違いです。似ているようで、ちょっと違います。

地方税法ではどう規定されているか

仕方がないので、大元の地方税法でどのように規定されているかを確認します。

従業者(政令で定める役員を含む。)

地方税法312条 表 一 ホ

(法第三百十二条第一項の表の第一号に規定する政令で定める役員)
第四十八条 法第三百十二条第一項の表の第一号に規定する政令で定める役員は、俸給、給料若しくは賞与又はこれらの性質を有する給与の支給を受けることとされている役員とする。

地方税法施行令(太字筆者)

「受けることとされている」と、これまた違う表現が出て来ました。

浜松市:「受けることとされる」
東京都:「受けるべき」
地方税法施行令:「受けることとされている」

微妙なようですが、確かに表現が違います。

4.私見では、東京都が踏み込みすぎで、法令解釈の誤りをしていると思う

東京都は、無給の非常勤役員も従業者数に含めています。

役員である以上、給与の支払いを受けるべき存在であるはず、と解釈しているのだと思われます。

ではありますが、
役員は会社とは委任の関係(会社法330条)であり、民法上、受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができないと規定されてる(民法648条1項)ことから、会社役員であるからといって給与等の支払いを受けるべき者、とはならない
と私は考えます。

つまり、会社役員は無給であることが原則なわけです。役員であれば当然に報酬をもらえる、というものではなく、株主総会決議がなければ報酬は発生しません。

東京都は「役員は潜在的に給与等の支払いを受けるべき資格を持つ者である。無給であってもそれは同様。」などと主張するのかもしれませんが、さすがにちょっと牽強付会な感が否めません。

5.どこか正面切って争ってくれないかな…

大きな会社の子会社といったところは、謄本を見ると結構な数の役員がいて、社長以外は名前だけで報酬なし、などというパターンをよく見ます。そのような場合に50人の間際を巡って含めるか、含めないかで税額が変わってくることは、往々にありえます。

というより、そもそも、なんでこんな記事を書いているかと言ったら、これまでこのような事例経験があるからです。

もしかしたら、現場レベルでは「東京都のガイドラインを見ていくと、無給の含めると書いてあるから含めとくか」ということで、含めているのだと思います。(あるいは、特に意識せずに、含めないとするところが多いことから、含めないでいるか。)

上記の通り、東京都の規定ぶりは強引な感があり、正面切って争えば覆るのではないかと思うので、どこか争ってくれないかな、と思うところです。割には合わないとは思いますが。

本日は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

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