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よんのばいすう8-16 2021.8.16

アレサ・フランクリン~ソウルの女王、再び降臨

8月16日はアメリカのソウルシンガー、アレサ・フランクリンの命日です。2018年に76歳ですい臓がんのために死去。バプティスト派の有名な牧師だった父と、才能あふれるゴスペルシンガーの母のもとに次女として生まれて、14歳で最初の録音をし、19歳でレコードデビューしてから亡くなる年の3月にコンサートツァーの中止を発表するまで、ブラックミュージック界の第一線で活躍しました。

私がアレサ・フランクリンの名前を初めて知ったのは、1985年にヒットした『Freeway of Love』という曲です。

幼い頃から父の教会でゴスペルを歌い、シンガーとしての才能を開花させた彼女がポップスの世界での人気を不動のものにするまでは、なかなか苦労したようです。80年代といえば、MTV華やかなりし頃。1970年代のディスコブームではイマイチ波に乗り切れなかったのは、やはりゴスペルシンガーとしてのイメージがそうさせたのでしょうか。アレサにとっては会心のヒットだったような気はしますが、ビジュアル先行な音楽づくりの枠には何となくご本人も収まりきれていないない感じがしますね。ジョージ・マイケルとデュエットして全米1位となった『I Knew You Were Waiting (For Me)』ではさらにあか抜けたPopsフィーリングが炸裂しています。上手い!確かに上手いのですが、それにしても、私はこの頃、やや独特の声も含めてアレサ・フランクリンのことがそれほど好きではありませんでした。どれほどのDIVAだったか、まだよく知らなかったんです。それは最近までそうでした。

恥ずかしながらその認識が変わったのは、合唱仲間が熱く紹介していた映画『アメージング・グレース』を観てからでした。1972年1月13日、14日の2日間にわたり、ロサンゼルスの教会で撮影されたドキュメンタリー映画です。すでにヒット曲も持つスターなのに、アフロヘアの彼女はどことなく所在なさげで、周りの興奮とも一線を画したような寡黙な佇まい。幼い頃から父親の薫陶を受けゴスペルシンガーとしての成功はあったものの、その実とてもシャイな人だったそうで、画面からもそれがありありとしていました。しかし、ひとたびピアノの前に座ると、詰めかけた聴衆をたちまちとりこにしてしまう。どこまでも続く圧巻の歌声、どんどんハイになり、ついには神様との交信とでもいうような境地になり、聴衆が涙するほど。この映像は当時、録音とのシンクロが技術的にできない撮影手法だったため、お蔵入りになっていたそうです。撮影した監督は、私が大好きな映画『追憶』のシドニー・ポラック。彼自身、アレサのファンだったそうですが、日の目を観ることなく既に故人となり、幻のままになっていたものをアラン・エリオットという若きプロデューサーが現代のテクノロジーによって音源と映像を同期させることに成功させたことで、映画化にこぎつけたとか。小さな映画館で、観ているお客さんも私を含めて数人という状況ではありましたが、いやぁ本当に観てよかった。


彼女の私生活はしかし、なかなか波乱に満ちていました。父親は聖職者でありながらも不貞を繰り返し、両親は離婚、母親も早世、わずか12歳で最初の子どもを身ごもり、夫からは暴力を受け、彼女自身もアルコール依存に陥りと、宗教の厳格さとは真逆な環境だったようです。そういえば、先日Amazonプライムで、実在する伝説のゴスペルグループの母娘の葛藤を描いた『クラークシスターズ』という映画を観たのですが、5人の姉妹が神様への祈りを捧げるゴスペルを母に教えられ、グループとして成功する一方で母からの束縛に悩み、姉妹の愛憎をも生んでしまうという、黒人としての生き方も生々しく描かれていました。アレサもきっと、教会と家族とアーティストとしての成功のはざまで翻弄されてきたのでしょう。しかし、結局は晩年まで歌を忘れることはなく、公民権運動の先頭にも立ち、晩年は闘病中でもステージに立ち続けていたようです。いぶし銀ながらも衰えない歌声のパワーには驚かされます!

『アメージング・グレース』はライブのドキュメンタリーですが、彼女自身の半生が映画になり、秋には日本でも公開されるとのニュースが飛び込んできました。タイトルは『リスペクト』。主役のアレサは『ドリームガールズ』で一躍有名になったジェニファー・ハドソンです。予告編も公開されています。

アメリカに数多いる歌手の中でも、アレサは2008年にローリング・ストーン誌が「史上最高のヴォーカリスト100人」という特集で、なんと第1位に選ばれています。映画化によって、ソウルの女王のドラマティックな人生と作品に再びスポットが当たることでしょう。ご本人は亡くなっても、作品や歌声が残っている限り、アーティストは永遠ですね。この予告編を観る限り、歌声はジェニファー・ハドソンでしかなく、やっぱりあの声は唯一無二のものだったんだなぁと再確認しました。でも、公開の暁には、また映画館で観てみたいと思います。

歌とは「訴える」から来ていると聞いたことがあります。ゴスペルとはまさに歌を通して神様を賛美する行為そのもの。歌う人もそれを聴く人も、教会の中では幸せに充ちていますよね。コロナ禍の今だからこそ、より一層歌の素晴らしさが感じられます。しかし、『アメイジング~』のパンフレット表紙のアレサ・フランクリンの横顔、誰かに似てるなぁと思ったら、そう、ゴッド姉ちゃんと呼ばれている和田アキ子さんでした(笑)。





今年、日本で公開された『アメージング・グレイス』。

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