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ヨンゴトナキオク 2024年8月14日

ケルン大聖堂 -聖地の怖い悪魔伝説-

8月14日は、日本では終戦記念日前日でありお盆の真っ只中。死者の御霊と向き合わざるを得ない中にある。お墓参りに盆まつり、五山の送り火。とはいえ、お盆=帰省、夏休み。なので、旅行に出かける人も多いだろう。本当はコロナも蔓延しているけれど、最近は何のその。異常に超絶暑い日本を逃れて、海外へ出かける人の数も増えている。乱高下する株価、為替に一喜一憂しながらも、「知らない町を歩いてみたい」衝動は、あらゆる人にあるだろう。いや、帰省も海外にも今のところ縁のない私は、久しぶりに8月14日を何気に紐解いてみた。

私の目に留まったのが、ドイツで4番目に大きな都市、ケルンの街のシンボル、ケルン大聖堂。カトリックの聖地として、4世紀に初代の大聖堂が建てられ、13世紀に3代目の建設計画がもち上がってから約600年後の1880年8月14日にようやく今の大聖堂が完成したと記録されているのだ。ドイツはライプツィヒとベルリンにしか行ったことがないけれど、以前、夫が出張でドイツを訪れた時にそこでオーデコロンを買ってきたことがあり、「コロンの水」という語源から香水のオーデコロン発祥の地だと知ったり、youtubeでチャンネル登録しているバリトン歌手の寺田マイケルさんがケルンの歌劇場に所属し、活躍されている姿を見ていたりするので、何となくケルンは遠からぬ存在でもあった。今度ドイツに行く機会がたまさかあったら、私はケルンを選ぶだろうと思っていたくらいだ。そんなケルンのランドマーク、ケルン大聖堂。ゴシック様式の建築物としては世界最大を誇り、尖塔の高さは長らく世界第1位を保ってきた。1984年にアメリカのワシントンD.C.にできたワシントン記念塔の誕生によってその座を明け渡したそうだが、ドイツ三大聖堂の1つであり、中央祭壇の奥には黄金の聖棺「東方三博士の聖棺」が置かれ、東方三博士の聖遺物が納められていることもあり、中世より巡礼者が絶えなかったそうだ。巡礼といえば、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の巡礼が有名だけど、ケルンへの巡礼も健在なのだろう。

前置きが長くなった。創建から現在の姿になるまで600年もかかった大聖堂だが、それは度重なる火災や宗教革命の中での財政難などが理由だったようで約300年間完成を見なかったそうだ。グリム童話に代表されるように、ドイツには「悪魔と契約して、欲望や死後の魂を得る」ファウスト伝説がある。ケルン大聖堂の歴史にも、設計した一人の男の悪魔伝説があるのだ。その男は設計依頼を受けたものの、さまざまな問題が起きてなかなか前へ進まず、悶々としていたある日、ライン川のほとりにある「悪魔の岩」の上でうっかり眠ってしまう。目を覚ますと、見知らぬ紳士が河原の砂に大聖堂の設計図を描いていた。今まさに自分が想像していたような設計図そのもの。男は対価を払ってでもその設計図を手に入れたいと思った。しかし紳士は男に言った。「お前と妻子を差し出すなら、大聖堂の建設を終わらせてやろう」と。その瞬間、男は悟る。こいつは悪魔だと!男は自分の思いを遂げるためにその提案を呑んでしまうのだった。それ以来、建設はあまりにも早いスピードで進んでいく。そのことに疑問を感じた妻から問いただされ、男はうっかり「悪魔との契約」を告白してしまうのだった。しかし、「完成最終日の明け方に雄鶏が鳴いた時にまだ出来上がっていなければ、自分たちは解放される」ということも話すと、完成の朝、妻は必死になって練習していた雄鶏の鳴き声を真似て、神に捧げるように叫んだ。すると、町中の雄鶏が鳴き始め、男と妻子の命は助かった。しかし、大聖堂の尖塔は崩れ落ちてしまった。

話には続きがある。悪魔は再び男の前に現れ、大聖堂の下に水道管を通したら再度命を悪魔に捧げる約束をとりつける。とても実現しないと思い、約束してしまった男。しかし、ある日、大聖堂の地下に水は流れ、約束通り、悪魔は男を掴んで地獄へ帰っていったという。実は、この悪魔伝説をもとに、漫画家・水木しげるが『コローンの悪魔』という妖怪譚を発表。ケルン大聖堂の設計図を描くために悪魔に魂を売る約束をしてしまった男が、十字架を鼻先につきつけて悪魔祓いを試みるが、怒った悪魔はその男に呪いをかけ、彼の名前はこの世から消し去られたという物語だ。妖怪好きな水木しげるの創作意欲を掻き立てたこの伝説。しかし、その背景には、苦難に満ちたケルン大聖堂の建設の歴史とは無関係ではないのだろう。1880年8月14日にようやく完成を見た大聖堂を実際に設計したのは、フランスの大聖堂建築を研究したゲアハルト・フォン・ライルという男で、建築途中の1271年4月24日、建築現場の足場から不可解な転落事故によって命を落としている。それがドイツ特有の悪魔伝説と結びついたのだろう。水木しげる作品のように名前が消えることはなさそうだ。

呪いだの悪魔との契約だの、おどろおどろしい話が、聖なるキリスト教の世界でも、厳然としてあることは、もはや驚きもない。今もこの世から戦争がなかなかなくならないことを見ても、明らかだろう。水木しげるだけでなく、現在放映中の大河ドラマ『光る君へ』にも、安倍晴明という怪しげな陰陽師が「呪詛」なる呪いや祈祷で天地を揺り動かしている。こうしてみると、ケルンに限らず、今でもきっと、悪魔と契約を結んで、この世を操っている者がどこかにいるに違いない。

日本では、「2位じゃダメなんですか?」と言った方は、東京都知事選であえなく3位に落ちて政界からも消えてしまったけれど、高さ157mという世界第2の高さを誇るケルン大聖堂、正式名称はザンクト・ペーター・ウント・マリア大聖堂(Dom St. Peter und Maria「聖ペトロとマリア大聖堂」)は、ケルン中央駅の前に今もすっくと建ち、第二次世界大戦の戦禍でも建物は壊されなかったため、ゲアハルト・フォン・ライル設計当時の威光がそびえている。ステンドグラスも美しいのだとか。1996年には世界遺産にも登録されている。ただし、あまりに大きくて高いために、駅から全景を写真に収めることはできないのだそうだ。
けるんへ行きたしと思へども、けるんはあまりに高くて遠し…。




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