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よんのばいすう6-8  2021.6.8

直感を信じてみる

友達がFacebookで紹介していた展覧会が気になっていたのですが、今日はいつもより早起きできたので、「そうだ今日行ってみよう」と思い立ち、そうは言いつつももっと早く出るつもりが、ダラダラと遅れ、家を出たのはもう11時を過ぎていました。暑い1日になりそうだとわかっていたので、車で出発。ドライブも兼ねたお出かけとなりました。行先は神戸です。なんだかんだ言って、神戸にはつい車で行ってしまうのですが。

美術館に到着したら、もうとっくにお昼は過ぎていました。お目当ての展覧会はこちら。六甲アイランドにある神戸ファッション美術館でただいま開催中の特別展「吉村芳生~超絶技巧を超えて~」です。決して有名な人気作家とは言えない吉村芳生さん。私も何の予備知識もなく行ったのですが、実は凄い方だというのは、会場に一歩足を踏み入れた時からわかりました。

どんな絵なのか、百聞は一見にしかず。息子さんの吉村大星さんによる動画をご覧ください。

まず、延々と続く金網のドローイングに度肝を抜かれました。はじめは色のない世界が続きます。写真をもとにしながら、あまりにも精巧な引き写しの技法は、元々の出発が広告デザイナーからということもありますが、タイポグラフィーにも似た緻密さで、「細かすぎる~」と言うほかありません。「友達シリーズ」なんて、もう写真にしか見えません。なんでもない風景をそこまでコツコツと描けることそのものが、もう誰にも真似のできない才能だとわかります。地元山口で一人、そんなコツコツ人生を歩んで来た吉村さんが、一躍表舞台に登場するのは、57歳になったときだったそうです。

後半は色鮮やかな作品が登場しますが、それがすべて色鉛筆で描かれたというのは、実際に作品を肉眼で見てもにわかに信じがたいのです。でも、よく目を凝らして見ると、色鉛筆らしい筆の運びが微かにわかります。代表作がこの藤の絵でした。動画を見ても、正直この凄さは実物を見てこそわかるのかもしれませんね。あれほどの大画面にむらなく色鉛筆を塗り続けられる技術と集中力は唯一無二のもの。下書きもなく左から描き進めるというやり方がいかに凄いか、絶筆の作品を見るとわかります(いや、見たとしてもどうしてそんなふうに描けるのかは分からないのですが)

ようやく高い評価を受けたのもつかの間、吉村さんは63歳でこの世を去ってしまいます。しかし、息子の大星さんが一子相伝の技術を見事に受け継がれ、また画家として活躍なさっているとか。門前の小僧習わぬ経を読むとは、このことなのでしょう。

展覧会場でも異彩を放っていたのが、新聞と自画像シリーズでした。新聞の一面を文字から写真から下の広告に至るまですべて引き写しし、その上に自画像を載せるという手法は、政治問題、オリンピック、新型インフルエンザと、どれもまさに2021年の「今」にも通じる社会現象を映し出していて、過去のニュースなのに少しも古くないのです。動画にも出てきましたが、このコーナーのトップを飾っていたのが、2008年6月8日に東京の秋葉原で起きた無差別殺人事件が生々しい写真とともに報道されている朝日新聞でした。そう、今から13年前の今日起こったあの忌まわしい事件です。まだ記憶に新しいと思っていたけれど、もう13年もたっているのですね。

スマホのLINEを開くと毎日星占いの画面が現れるので、ついつい毎日見てしまうのですが、今日は「直感が冴える日。あなたの欲求のままに行動しても大丈夫。あなたがやってみたい!と思うことは、あなたに向いていることです。直感があなたに教えてくれているのでしょう」となっていました。たまたま思いついて神戸まで行ったのですが、あの事件と同じ6月8日に、一人の画家がそれを報道する新聞記事を使って創作した作品に出合ってしまったことに、直感ならぬある種の啓示を与えられたような気がしました。しかも、そこからさらに遡ること7年前の2001年6月8日には大阪府池田市での大阪教育大学付属小学校での無差別殺人も起こっていました。6月8日というのは、そういうショッキングな事件が2度もあった日でもありました。池田の事件があった2001年は娘はまだ保育園児でしたが、翌春に小学校入学を控えていましたから、「学校が安全な場所ではない」ことを思い知らされ、他人事とは思えないそら恐ろしさを感じたことを覚えています。社会が閉塞感に包まれていく時代の始まりでもありました。

「描くことは人生そのもの」とひたすら色鉛筆の細密画にこだわった吉村芳生さんの一筆一筆に心を動かされ、何かを気づかされた気がします。しかも吉村さんのお誕生日は1950年7月24日。なんとヨンゴト仲間ではございませんかぁ、とまた勝手にご縁を感じてしまった私なのでした。もともと直感人間ではあるけれども、今日こそは、嗚呼、直感を信じて足を運んでよかったです。ささ、6/20まであと2週間足らず。「不要不急の外出は避けろ」とは言われますけど、ディスタンスを守って観れば大丈夫。お近くにお住まいで、ご興味のある方はぜひぜひご覧くださいませ。

さて、6月8日をひもといていたら、私の大好きなカール・オルフの『カルミナ・ブラーナ』が1937年6月8日にフランクフルトの劇場で初演されたという、記念すべき日でもありました。当時のドイツもナチズムが台頭する不穏な時代で、この作品はオルフにとって自己の再生のきっかけにもなったと言われています。不可思議で不条理に充ち満ちた傑作です。え?まさかご存じない?いやいや、曲名は知らなくても、これを聴けばお分かりいただけるはずです。ではどうぞ。








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