自叙伝「#車いすの暴れん坊」#4 喧嘩の連鎖とナンパ修行
そんなことがあったすぐ後のこと。学校帰りに、この前公園で喧嘩した奴らとばったり会ってしまう。
学校も結構近くにあったものだから、帰り道、そこの学校の生徒とよくすれ違ってはいたけれど、まさかそいつらとこんなところで出くわすとは思ってもいなかった。そのときはひとりで帰っていて、その学校の連中4、5人に取り囲まれて、空き地に呼び出された。
もう覚悟するしかなかった。さすがに1対5でやれば、ボコボコにされるなと。それも人が集まって来る中で、商業で番はっとる奴とか、工業で番はっとる奴、あいつらも連れて来いとか言い始めて、うわー最悪や、もうこれで俺も終わったかと思い諦めた頃、相手が、
「お前はどこの高校か」
と、聞いてきた。
「俺は博多工業や」
「博多工業か、何年生や」
「1年たい」
「1年、お前本当に1年か」
「ああそうや」
と、言い返す。どうも俺と喧嘩したのは2年だったけど、後の3人は3年らしく、
「お前、ほんなごと1年か」
「1年や」
「おー分かった、ほんなら帰ってよか」
「なんでや」
「お前が3年やと思っていたから俺らも、ちょっと絞めちゃらんといかんと思っていたけど、3年が1年いたぶってもしょうがなかろうが」
という結末である。あの先輩も格好良かった。奴らは後でこっぴどく先輩たちに絞められたらしい。
「お前1年坊主に負けてから、なんで俺らに声かけて仕返ししようやら思うんか。お前の根性をたたき直すぞ、こらっ」
と言われよった。
結局、カツアゲされた相手と友達になったことで、その後3回も喧嘩をする羽目になった。まあこういうことが日常茶飯事なのが、あの頃のヤンキー高校生の生態だ。
そうそう俺にマクドナルドを紹介してくれた奴のことにも触れておこう。奴は中学の同級生で、中学のときから、ナンパのテクニックには長けていた。学校は私立の良い学校に入ったのだが、真面目に勉強するタイプではなかった。45度のメガネをかけて、ビーバップハイスクールでいうと、北高の前川、イメージ的にはそんな感じだ。
それで、たまに会うと、
「仁、天神のマクドナルドに来いや。女いっぱいおるし」
「行ってなんするとや」
「バカ、良い子おったらナンパして付き合うんや」
その頃、まだ俺はナンパをしたこともなく、でも女性に興味がないこともないわけで、当然、誘われるがままに、ときどき遊びに行くようになった。女とあまりしゃべり慣れていなく、ぼーっとしていることが多かった。でも逆にそれがクールに見えたらしく、そこそこに人気があった。
人間とは不思議なもので、毎日そういう具合に、大勢の女の中で囲まれて、キャーキャーしゃべっている間に、段々と女と話すことにも慣れてくる。そして、いよいよ友達とお互いに初めてナンパというものを経験するわけである。
バギーのパンツに白のエナメルのシューズ、オープンシャツを着て、頭はリーゼントでキメて、ふたりで天神の地下街で待ち合わせる。あの頃のヤンキー女子は、大概が軽い茶髪に百恵(山口百恵)ちゃんカットだった。
そうして、ふたりのヤンキー女子を発見。友達とふたりでトボトボと後ろから着いて行く。声をかけるタイミングを狙っているのだ。女たちも俺たちが付いて来ているのは分かっていて、チラチラとこちらを見ている。でもなかなか、
「彼女、お茶飲みに行かない」
この一言が言えない。
1時間も付け回したろうか。すると、シビレを切らした彼女たちのほうから、
「あんたら私たちを引っかけようと思うとるんやろ、どこに行きたいん」
「はっ、あの、喫茶店でも」
「どっかいい喫茶店知ってる」
「いつも行くところがあるけん、そこに行こうや」
と言って、新天町の外れにある「その」という喫茶店に行く。
しかし、若葉マークのナンパ師は、既に彼女らに主導権を取られていることにも気付かないまま喫茶店に入るのであった。
この「その」という喫茶店がまた面白い喫茶店で、1階でオーダーを取って、1階と2階で飲んだり食べたりできる。2階はほとんど店員も登って来ない。注文したものだけは持って来る。学生服で煙草は吸えるし、当然、溜まり場となる。
朝から5・6人集まって、交代でナンパに出かける。コーラ1杯で夕方までいることもあった。
まだ当時は携帯、ポケベルもない時代、アドレス帳に電話番号を書いてもらって、うきうきしながら別れる。ただこれからが大変、この電話をするという行為、これが結構、根性を試される。
先方は両親と一緒に住んでるのは当り前で、運悪く父親が出たら、間違いなくブチっと切られるし、母親でもどういう関係か根掘り葉掘り聞かれるのがオチだ。
ただ、当時は連絡の取りようがそれしかないので仕方がない。意を決して電話をかけると、
「はい、○○警察署ですけれども」
と。やられた。ナンパ一発目はおまわりさんと愛を語ることにはならなかったが、あえなく撃沈ということになってしまった。
YouTubeチャンネル↓