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自叙伝「#車いすの暴れん坊」#3   マクドナルド抗争とサチコ

そう、あれは高校1年の夏。天神の新天町にもマグドナルドができていた。友達数人と女の子数人で涼を求めて集まっては、他愛もないことを話していた。ところが、その他愛もない話が、事の発端になろうとは思いもしなかった。


友達のひとりが、あるグループからカツアゲをされて、それはそれは悔しい思いをしたと話し始めた。今度会ったらタダじゃおかないと言ったとき、不思議なこともあるもので、ふっと顔を上げると、そのカツアゲの話題の登場人物たち、そう、カツアゲをした張本人のグループ数人が、汗を拭きながらエアコンの効いた店内に涼を求めてやって来たではないか。

2階のこのフロアもそれほど広くはない。当然、こちらをチラチラと見ている。普通ならバツが悪い程度で目を反らすくらいで済むのだろうが、こちらも話を聞いてムカついて、今度会ったら任せとけみたいな感じになったばかりの頃合いだから、いきなりガンの付け合いから一触即発の状態へと沸騰する。案の定、厳ついのが向こうから鼻息も荒く歩み寄ってきた。

「お前ら、なにガンつけよっとや、なにか文句があるとや」
すかさず俺は言い放った。
「お前ら、こいつからカツアゲしとろうが、ちゃんと金返せや」

「なにぃ、お前ら、1階に降りれ、付いて来い」
相手の人数は6人くらい、こっちは3人だった。さすがに人数的に分が悪いと思ったが、女の子の手前もあって格好をつけた。相手に向かって、
「今、楽しみようけん、先に降りときやい」
と言ってしまった。まあそうすれば時間が経ったら熱も冷めて、相手は帰るのではと思っていたら、10分くらい経った頃、期待に反して、また上がって来やがった。

「下で待っちょっるけど、降りてこんとや」
というではないか。もうこうなると引くに引けない。マクドナルドを出るなり、地下のファーボ(地下街)に降りて来いという相手に向かって、
「お前、誰に言いよるか分かっとうとや、博多暴連坊ぞ」
と、啖呵を切った。

相手は、きょとんとした顔をしている。そらそうだよ、まだ売出したばかりで、ほとんど誰も知らない業界駆け出しのグループ暴連坊だった。ただどうしたことだろう。迫力に負けたのか、ちょっとビビっているのが表情の変化で見て取れた。

ここで躊躇してはいけない。間髪を入れず、
「お前ら、こいつから巻き上げた金、ちゃんと返しとけよ。お前らの顔、忘れんけんな」
と、そう言うと、相手は6人もいるのに逃げるようにして帰って行った。

痛快だったね。そいつらが帰った後、余所で遊んでいた仲間が応援に駆けつけて来て、どげんなったとやと聞いて来る。まあ、斯く斯く云々だと経緯を説明すると、おうそうや、ほな良かったねということで一件落着。こうしてまたひとつ武勇伝が増えていくわけだ。

それから何週間経っただろうか。天神を男4人と女2人でうろちょろしていると、この前、マクドナルドで喧嘩した相手のひとりが入っているグループと出くわした。

後で分かったことだが、福岡でも結構ワルの多い学校で、相手はそこの2年だった。そして、その同級生らしき、この前いたメンバーとは違う連中が3人、数的には4対4だが、学年はひとつ上。

高校生というのは1学年違うと、もうそれは大変な差があるわけだが、同じ学校でもないし関係ない。

こちらは女連れ、万が一負けたときに、女に危害が及ぶとたまったものじゃない。女を帰そうとするがなかなか帰らず、後ろからトボトボついてくる。

少し経って、女の方も心細くなったのか、なんとか帰ってくれた。それで天神のビルとビルの間の公園に着いて、さて1対1のタイマン勝負となった。

向こうから、
「誰が出て来るとや、一番強い奴は。そこのひょろっとしたお前、出て来いや」
と俺が指差された。

そして殴り合いが始まった。何発か殴り合ったところで、相手が倒れ、馬乗りになって2、3発どついたら、もう相手は交戦不能。

そこで止めが入り、1回戦終了。次の奴らの順番かと思いきや、勝ち抜き戦だという。

それでも仕方なく次の奴と取っ組み合っているところに、ビルから見ていたサラリーマンあたりが警察に通報したのか、警察が走ってやって来た。

喧嘩している相手の4人は、素早く逃げたけど、俺たち4人は逃げ遅れて、警察に捕まった。

「お前ら、なにしとったとや」
と尋問され、学生服のポケットには煙草も入っとるし、ヤバイなと思いながら、
「喧嘩売られたんで買いました」
と応えた。すると、

「おおそうか、お前ら勝ったんか負けたんか」
「はい一応、勝ちました」

「まあ、そんならお前ら、恨みつらみはないんやな」
「はい、ありません」
「よし、ほんなら今日は帰っていい」

と、こんなやり取り。その警官も度量がいいというか、男前というか。そうして俺たちは、身体検査もされることなく難を逃れた。

そして帰っている途中、さっき帰した彼女たちが待っていてくれたようで、合流した。男が上がった瞬間だったかも知れない。その後、そのままいつものたまり場の喫茶店に行って、レモンスカッシュをオーダーした。

ところで、俺はその頃、隣の看護学校に通うサチコという名前の女と付き合っていた。ちょっとそばかすのある美人だった。その頃、何人かから付き合ってと言い寄よられていたのだが、言い寄る女たちを尻目に、俺はサチコに一目惚れして付き合うようになった。

サチコは産婦人科でアルバイトをしながら、そこで寝泊りして学校に通っていた。夜な夜な、そこに遊びに行ったりもしていたのだが、同級生が3人いて、ひとりは年上のハコスカに乗った兄ちゃんと付き合っていた。

もうひとりは、俺の中学のときの同級生と付き合っていた。ところが、その中学の同級生が遊びに行っているのが見つかり、それが原因で奴の彼女は高校を退学になってしまった。

それで、サチコも心配になった様子で、このまま仁ちゃんと付き合っていると、遊びに来るなとも言えないし、退学になるのが怖い。でも私は看護師になりたい。だから別れてくれという。

じゃあ、そんなに病院に遊びに行ったりしなきゃいいんじゃないかと、随分と言ったのだが、聞き入れてもらえなかった。

そして、その代わり高校を卒業するまで誰とも付き合わないと女だてらに仁義を通すような一方的な約束事も言った。もしかすると別れるいい口実だったのかも知れないなと、そのときは思った。

しかし、高校卒業前に電話がかかってきて、その約束を果たしたという。そして、もう一度会うということになったのだが、どうにも予定が合わず会えず仕舞いになった。きっと縁がなかったのだろう。

その日はむしゃくしゃしながら、なんで好き同士なのに別れなきゃいけないのか、釈然としない思いを雨よ洗い流しておくれと願いながら帰った。

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