自叙伝「#車いすの暴れん坊」#13 サバイバルな自衛隊生活
自衛隊での花形というと、1級バッジにレンジャーバッジ。1級というのは、種目が6つくらいあって、1500メートル走、土嚢をかついで50メートル、ソフトボール投げ、懸垂などを距離や時間で、1級から5級くらいまであるのだが、そのすべてで1級を取った者がもらえるバッジだ。
レンジャーバッジというのは、レンジャー教育隊に3か月行ってレンジャーの資格を取ると貰えるバッジである。このレンジャーというのが、特に厳しい教育で、戦闘ズボンに一本でもシワがあれば腕立て伏せ10回、半長靴というブーツが磨かれていなければ、腕立て伏せ10回とか。
とにかくもうその3か月は地獄のような生活で、懸垂も戦闘服に半長靴を履いたまま懸垂をし、ふたりでバディを組んで、ふたりとも懸垂ができて1回、片一方ができなかったら、それを懸垂したまま待つという過酷な訓練だった。
マラソンも当然、銃を前に持ったまま、掛け声をかけながら走るのだが、小銃の重さが4・3キロある。走っていると段々と腕が落ちて、小銃を離しそうになるのだが、それをビニールテープでぐるぐる巻きにし、小銃が手から離れないようにする。
体力強化もひとつだが、一番重要なのは精神力で、俺ら同期も何人か入ったが、それは大変だった。俺もチャレンジしたかったが、視力が規定に満たないため幸か不幸か入ることができなかった。
自衛隊の演習は、究極のアウトドアである。戦闘服を着て半長靴を履き、リュック サックの中にテントから生活用具一式を入れて演習場に出かける。そこでテントを張 って生活をするのだ。
演習場ではいろんな訓練があるのだが、まず壕というものをス コップで掘らされる。表面の草をキレイに剥いで、人間がしゃがんだり隠れたりでき る穴を掘り、敵が攻めて来るのを監視したり、その壕で相手と戦ったりするのである。
夜間は煙草を吸うこともできない。なぜなら煙草の灯りというのは、何百メーター先からも認識できるからである。
人間用の壕はさほど大きくはないが、戦車や大砲といったものも壕に入れて草などでカモフラージュして隠したりすることもある。俺たちは普通科連隊小火器部隊なので、人間の壕だけでいいが、ときどき手伝いに行く戦車大隊などは、戦車が入れるスロープになった壕を掘らなくてはいけない。
重機を使って掘るのだが、これも大変な作業だ。壕は演習が終わると、キレイに土を埋め戻し、上から剥いだ草を載せて、そこに壕があったことが分からないようにする。
ある日、演習場で他の部隊に加勢に行って 帰る途中、山の中で道に迷い、真っ暗にな ってしまった。耳を澄ますと微かにジープが 道を通る音がする。
手さぐりで道をかき抜け、やっとジープの音が聞こえたと思ったら、そこは崖で、崖を10メートルも滑り落ちて、擦り傷だらけになったこともある。
食事は給食隊というのが、調理ができる車を持って来て演習場で作る。飯盒メシにおかずに味噌汁、立ちながら食べたりするときもある。ご飯の上におかずを入れて、その上に味噌汁をかけて食べるようなこともある。
雨が降ればいつまで経っても、味噌汁がなくならないというか、雨で薄まることもあった。面白いのは配給される缶詰で、ピラフや赤飯、ウインナーにたくあんの缶詰なんてのもあった。これがなかなかいける味で、ときどき余ったものを持って帰って、友達などに食べさせると喜んでくれた。
そんなこんなで自衛隊に1年もいると、元来、強靭で順応性の高い俺はマンネリ化してきた。
演習がないときは、朝の点呼からマラソン、中隊内での作業、射的場に行って、小銃の練習などと続く。ただ結構辛いのが歩哨だ。自衛隊の駐屯地に行くと、門に立っている自衛隊員がいると思うんだが、あれがそれである。
きちんとした姿勢をとり、お客さんや自衛隊の人が通る度に敬礼をする。もちろん不審者が入るようなことがあれば、それを阻止する。
これがひとり1時間か2時間の交替なんだが、じっと立っているというのが予想以上に疲れる仕事である。
それと夜の見まわりは中隊内 で当番が決まっているのだが、中隊のまわりを見まわったり、宿舎の中を見まわって、不審者がいないかどうか、これも1時間か2時間おきに交替する。順番が決まってい て、前の人が後の人を起こすのがルールである。
それで大失敗をしたことが一度ある。自分の番がきたときに、ついうとうとしてひとりすっとばして、次の人のときに起き てしまった。当然、次の日、呼び出されて、大目玉を食らうのである。
もうひとつ、射撃訓練のこともよく覚えている。射撃訓練は、小銃で300メートル先の的に実弾を発射する。小銃を撃つと強い反動があり、射撃音もとても大きい。
ドラマや映画で見ると、格好良くポーズをつけて打っているが、銃底と呼ばれる銃の一番下の木の部分を肩にしっかりあてていないと銃がぶれて狙いが定まらない。
機関銃を撃つ練習もしたが、機関銃は反動で銃身が上を向く、つまり連射すると段々、上の方に玉が逃げようとする。それをしっかり左手で押さえて打つようになる。まあこんな経験も自衛隊員でなければできる経験ではないだろう。
他には行軍という訓練がある。前期の新隊員教育で10キロ行軍、後期で25キロ行軍がある。 25キロ行軍は、夜間2時頃に非常呼集がかかる。
まあ事前に行軍があるということは分かってはいるが、何時になるかは発表されていない。作業服を着て半長靴を履いて、背負い嚢、銃、水筒、ヘルメットを装備し、宿舎前に集まる。
それから行軍が開始される、大体、人が歩く速さが時速4キロといわれているから、25キロ行軍だと、休憩を入れて7、8時間になる。夜間の行軍はもちろん、懐中電灯で電気をつけることができないので、真っ暗な山道を歩くことになるのだが、作業服はカーキー色の濃い緑でどうしても見にくい。
なので、襟のところにちょこんと白いキレを貼って、後ろの隊員がそれを目印に前について行って行軍をする。
背負い嚢の中にはいろんなものが入っているので、約10キロから10キロ、小銃だけでも4・7キロある。途中から機関銃を持って行軍したが、機関銃が10キロ以上ある。
それが肩に食い込むのだ。そのままじゃ肩が腫れあがるので、中にタオルなどを押し込んで、和らげる。肩の痛さ、きつさもさることながら、夜間行軍は眠気との闘いでもある。山
道を黙々と歩くのだが、歩きながら寝ているというか、あっと気が付くと沢の方に落ちそうになったこともある。しかし、行軍も25キロ達成すると、山登りにも似た、やり遂げたという爽快感がある。
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