デューデリジェンスのQ&A記載時に留意していること(基礎編②)
はじめに
<自己紹介>
・主に財務デューデリジェンスに従事して1年超(@どこかのFAS会社)
・財務デューデリジェンス経験は数件
・Q&Aやレポートをレビューするケースもあるくらいのポジション
・公認会計士
<本noteの趣旨>
デューデリジェンス(以下DD)におけるQ&Aは、対象会社の情報や資料を入手できる限られた機会の一つです。その重要性にも関わらず、記載方法や留意点についてしっかりとレクチャーを受ける機会はあまりない印象です。
あくまで個人の感想ですが、Q&Aを適切に行える人はDD全体の流れを最低限意識できており、Q&A以外の各業務のレベルも一定程度信頼できる方が多い感じています。
そこで、DDのQ&A記載時に留意している点をまとめることで、自分自身の備忘として、また今後新たにDDに携わる方々、そのプロマネの方々の何かの参考として機能してほしいと考えています。
<以前公開済みのnoteとの関係>
両noteの関係は下記のようにイメージしています。
・基礎編①:Q&A作成時の基本動作及び入社後すぐに身に着けたい内容
・基礎編②:入社後、半年程度以内には身に着けたい内容
<本noteを読む上での留意点>
もしお読みでない方は基礎編①からお読みいただければと思います。
基礎編①は形式的内容である一方、基礎編②はやや抽象的な内容となり、具体例が少なくなっています。
「QAは基本を抑えることが重要であり難しい」という持論に基づき、基本的な内容に終始しています。
留意していること
① QA(情報収集)→分析→レポーティングの流れを意識する(質問の意義の話)
DDは大まかには「情報収集→分析→レポーティング」という流れで進んでいきます(もちろん、実務上は上記のような綺麗な流れではなく、行ったり来たりと忙しない)。
QAは上記の流れの中では情報収集のフェーズに該当します。ということは、そのQ&Aは分析・レポーティングのために行われるべきものですから、当然レポーティングを意識しながらQ&Aを行う必要があると考えています。
<犯したミス>
DDの経験を形式的に積んでしまい、他PJで見聞きしたQ&Aや書籍で読んだ内容を盲目的に入れ込んでしまうミスを犯した経験があります。
もしこのミスを犯している場合、「何のためにこの質問をするの?」とプロマネからストレートに聞かれることになります。冷静に問われれば問われるほど怖いですね。でもおっしゃる通りというケースが多かった記憶があります。(ただ本当に必要なら説明して押し返しましょう。)
<留意点>
自分が記載しているQ&Aは「何を分析し、どういったレポーティングを想定しているのか」を自問するようにしています。
もちろん一般的に聞くべき基本的質問は各DDに存在します。ただ、PJごと論点ごとの濃淡をつけなければ期限内に報告することは難しいので、現場レベルの最終ゴールとしてどのようなレポーティングを想定しているかを事前に脳内で整理しておくのは重要な動作かと思います。
<具体的に考慮していること>
・何を分析したい or 確かめたいQ&Aなのかを明確にする
・想定回答パターンごとの想定レポーティングを整理したうえで、回答パターンの大部分を網羅できる質問を一回で行う。(※基礎編①noteの1点目です)
・レポーティングの想定に当たっては、ディールブレイカー、Val、SPA、PMIのどれに影響する質問なのかを整理、最終的にどのようなメッセージを伝達することになるかを想像する。
② 情報としてMustなのか、Nice to haveなのかを考える(質問の重要性の話)
(※Nice to haveという言い方はあまり一般的ではないと思います。印象に残るかなと思いこの見出しにしております)
DDの実施にとって、必要な情報なのかそれともあったら嬉しいという温度感の情報なのかを事前に頭の中で整理しておくように留意しています。
この留意点は「どのくらい重要な質問か。そもそも聞くべき質問か」という視点で重要な留意点だと考えています。
DDは比較的短期間に膨大な情報量をさばきつつ、クライアントの意思決定に影響を及ぼす情報をレポーティングしていく性質を持ちます。そのため、DD実施時において論点ごとの重要性を考慮する必要があると考えています。
<犯したミス>
PJ全体から考えるとそこまで金額的・質的重要性のない個別の事象に関する背景事象や理由を詳細に聞いてしまう質問をドラフトするミスを犯したことがあります。
<留意点>
もちろん詳細な内容を把握すること自体に意味がないとは思いませんが、クライアントの意思決定に影響を及ぼさない、もしくは他に重要な論点が存在する場合に劣後させるべき質問かを判別するように留意しています。
レポート全体の構成を考えたときに、自分の質問しようとしている内容が下記のどれに該当するのかを想像しておくようにしています。
①エグゼクティブサマリに記載されうるものか
②主要検討事項に記載されうるものか
③補足情報に記載されうるものか
<具体的に考慮していること>
・現状認識しているPJのトピックは何か、質問内容はそのトピックと関連するのか
・重要性の観点から、新たにトピックとなりうる重要性をはらむQ&Aか
・(金額的重要性の観点から)正確な金額が算定できなくとも、既存情報である程度の金額を計算できないか(=概算で事足りる重要性か)
・質問数が限定されているか(限定されていないのであれば、重要度を低めにしたうえでQ&Aを行う対応をする場合が多い)
・(質問しない場合には)備忘としてQ&Aの内容を残しておく
③ Q&Aの文章をすべて端から端まで読んでもらえることを前提に記載しない(形式面の話)
そもそもQ&Aの受け手は、DDの各アドバイザーからの膨大な質問をさばくのに相当の労力を費やしていますので、Q&Aを端から端まで丹念に読んでもらえる前提でQ&Aを記載しないように留意しています。
<よくあるミス>
・1セル内で、5行以上の文章を連続で記載してしまう(※個人的に読む気をなくすのがこのくらいの文章量が続いた場合なので、5行以上としています。業界や会社内でプラクティスが存在するわけではありません。)
ちなみに私がQ&Aドラフトの社内レビューを行う際やQ&Aの受け手となる場合には、長いQ&Aは読む気をなくしています、うん。読みはしますけど。長いなあって思います(ボキャ貧)。
・「A資料とB資料を見て、こういう金額になると予想していたけれど、C資料にはこの金額とあって、なぜ相違するんですか?」というようにだらだらと記載してしまう(読み手はこちらのやったことなどには興味はなく、「何を聞きたいのか」という点のみに焦点を当てようということです)
<留意点>
上記背景から、ぱっと見で概要を理解してもらえるよう文章量や太字・下線といった形式的な部分に着目してQ&Aを記載するよう意識しています。
<具体的に考慮している点>
①Q&Aの最初に対象会社名と科目名と質問の概要を入れる(Q&Aのフォーマットに会社や科目等を記載する列がない場合)
→対象会社の回答フローに乗せやすくする効果があると考えています。(関連会社・関連部署にQ&Aに展開する際に判別しやすくなる)
② 質問したい点をまず最初に記載すること
③(質問項目が複数ある場合)箇条書きにすること
④ 文章を簡潔にできる箇所がないかを見直すこと
⑤ 1セル内のQ&A内容の構成がわかりやすいよう、項目(e.g. 会社名、科目名、質問内容、参考資料名、趣旨)分けを行いつつ、太字や下線を使用すること
これらを留意することで、比較的読まずとも概要が理解でき、冗長な文章や質問内容が不明瞭なQ&Aとならないようにできると考えています。
おわりに
内容を読み返すと、今回のnoteも非常に基本的な内容に終始していますね。とはいえ陥りやすいミスについて言及できたように思います。
①「QA(情報収集)→分析→レポーティングの流れを意識する」については、Q&Aの回答~レポーティング、その後のクライアント対応まで想像することで防げるミスですので、スタッフクラスの方々は、なるべく早くレポーティング・クライアントフォローまでやり切る経験をすると、精度の高いQ&A作成ができるようになると思います。
②は「どの程度重要な質問なのか考える」という留意点ですが、視野が狭くなると陥りやすい点ですので、私もまだ陥ることがあります。意識的に視野をズームイン/アウトする癖をつけることや、プロマネとコミュニケーションをとることでミスしないように留意しています。
③は読みやすさに主眼を置いた留意点です。単純に「読みやすくしようぜ」という形式的なものですので、すぐに取り組めるものかと思います。私自身も、上司や先輩のQ&Aを見つつ、自分なりの工夫を入れ込むことで改善していきたいと思います。
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Q&Aの留意点については、前回noteと今回のnoteでおおよそカバーできている気がしていますが、まだまだ改善余地は多くあると思います。書きながら思いましたが「想定される回答パターンが多すぎたり、仮定が多すぎたりする場合には、そもそもQ&Aではなくインタビューで回収するべき内容ではないか」等々ありそうですね。
ただ言語化できるのは本noteあたりが限界では?という思いを抱いています。また、「いつまでQ&Aについて語っているのか」というのもありますので、おそらくQ&Aについてはもう記載しない気がします。
まだまだ勉強中の身ですので、自分なりの基準を更新し続けられるよう、上司先輩のQ&A記載のポイントを盗み出せるよう業務に励んでいこうと思います!
ではでは。
(基礎編①も貼っておきます)