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red_tambourine
【パロディ】高村光太郎「あどけない話」
智恵子は東京に空が無いといふ、
――いきなり変なこと言うなよ。空はあるだろ。
ほんとの空が見たいといふ。
――もっともらしいこと言ってんじゃないよ。向こう行きなさい。
私は驚いて空を見る
――え、あるよな。なに言ってんだ。
桜若葉の間に在るのは
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
――はい、空ありま~す。論破っと。もしかして宇宙のことソラって読んでんの? 歳バレるからやめたほうがいいよマジで。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
――聞いたか、智恵子。「地平のぼかし」なんだよ「朝のしめり」なんだよ。惚れ惚れするだろ。分かったらもう言うなよ?絶対言うなよ?
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
――またはじまった。
阿多多羅山〈あたたらやま)の山の上に
――どこだそれ。
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
――まだ言ってんのか、効いてるわ。はいはい思い出補正乙。ちょっと昼寝するから、その話二度とすんなよ。
あどけない空の話である。