後天性毛髪不良性皮膚炎について
後天性毛髪不良性皮膚炎、通称「ハゲ」
それは世の男性・女性に限らず人類の最大にして最悪の敵である。
そもそも、毛髪とは何か考えたことがある人は、この世にどのくらいいるだろう。
彼らは、1日に100本抜け、そしてまた生えてくるという。
それは、生命の輪廻を超越した生産サイクル。
「ちょっと!洗面台に毛がスゴイんだけどっ」
冷たい言葉が響く脱衣所。
不可抗力の脱毛によって降りかかる妻からの冷淡な声
俺のせいじゃないっ
俺のせいじゃないっ
力のない、俺の毛根のせいなんだ!!
父は思う。
何故、こうも抜けるのかと。
しかし、毛根は輪廻の申し子である。
諦めなければ、彼らのサイクルを活性化することさえできれば、そこに愛が芽吹き、黒黒とした双葉を咲かせるだろう。
そうなのだ・・・・お気づきの方もいるかと思うが、
父の毛はもう、一本の毛として生えてくる余力はないのである。
しゅっしゅっ
二本に割れて、ほそぼそと生えてくる。
「毛」
大切な分身であり、友。
そんな父に、娘は「ポンポン毛髪」を進めた。
叩くと毛が増えたように感じるという魔法の粉だ。
これは、育毛の始まりにすぎない。
枯れたオアシスがあれば、水を差せばいい
パンがなければ、ウィダーインゼリーを飲めばいい!
毛がなければ、ふりかければいい!!
パッパッ
理想と現実は違う。
何かが乗っている。
砂鉄のような何か。
父は悟った。コレは、髪ではないのだと。
後天性毛髪不良性皮膚炎。通称ハゲ。
毛根たちは常に我々とともにあり、脇毛、下の毛、眉毛、髭、耳毛、ギャランドゥ、どんな毛根たちよりもか弱く繊細な生き物だ。
わき毛が叫べば、頭部は冷え
頭部が白く染まれども、下の毛は黒
父は思う。
俺の友は、もういないと。
後部まで反りあがった、かつてたわわに実った穂がうなだれるように、毛量の波がそよいでいた大地は、今では冷え切り、光を放つ。
わずかな寂しさと供に去っていった友を思う。
「ありがとう」
父は、娘にポンポンを返した。
後天性毛髪不良性皮膚炎。
通称「ハゲ」「はげちゃびん」「スキンヘッド」「つるピカ」
数多の名で呼ばれるこの病にも救いの終わりがやってくる。
ファサ~~
「どうしたの?それ・・・違和感しかない」
父は満足げに笑った。
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