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アストル・ピアソラ~Ausencias(不在)

バンドネオン×ギターDuo「タンゴ・グレリオ」の新しいYouTube演奏動画をアップしました。
今回はアストル・ピアソラ作曲の「アウセンシアス」をお送りします。

アウセンシアス(Ausencias)は1985年のフェルナンド・ソラナス監督の映画『ガルデルの亡命』の挿入曲とし作曲されました。
映画では軍事政権時代にアルゼンチンを逃れてパリに亡命していたアーティストたちの望郷の想いと葛藤が描かれています。

1976~1983年のアルゼンチン軍事政権時代はアーティストたちも厳しい監視下におかれ、自由な表現活動が制限されていました。
この時代には身の危険を感じて国外に脱出した亡命者も少なくありませんでした。
実際にそういう経験のあるミュージシャンに会ったこともありますが、警察に不当逮捕され拷問を受けるなど芸術活動はまさに命懸けだったそうです。

さて、この『ガルデルの亡命』とは背景は異なりますが、今まさにコロナ禍の時代を経験している私たちにとって、この曲はこれまでとは違った意味で訴えかけてくるように演奏しながら感じていました。

この曲に漂うもの悲しさ、やるせない雰囲気は、この半年間で私たちが直面してきた不条理な状況にもそのまま通じるようです。
しかもそれは現在も続き、まだ終わりが見えない状態……

「不在」という意味のタイトルが示すものは、社会・政治・経済といった個人では抗いがたい巨大なものに翻弄され、行き場を失った人々の孤独な想いのように感じます。
つい1年前まで自由に行動し、発言できていたことが、今は周囲の顔色をうかがいながら恐る恐る行わざるを得ません。
コロナの本当の怖さは病気そのものではなく、それが生み出す分断され閉そくした社会なのかもしれません。

「物理的な接触は可能な限り避けるべき」「自由な行動・移動は避けるべき」という今の状況は、人間の本来のあり方からかけ離れているように思います。
私たちがそれに少しでも抵抗できるとすれば、生演奏・YouTube・ライブ配信‥‥どんな表現方法を取るにせよ「人とのつながりを絶やさない努力」を音楽を通じて行っていく事でしょう。

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