わたしのいれもの
小さい頃、なぜ私はお母さんになることが出来ないのか真剣に悩んだことがあった。
成長して母になるという訳ではなく、その場で母に成り代わるという意味で。つまるところ当時は言葉を知らなかったが精神は入れ替わることが出来ないのかということである。
なかなかの哲学者だな、と今の私は小さな私にニヤリと笑う。
小さな私はなぜそう思ったのか少し考えてみると、あの頃の母の香りがふわりとした。石鹸とも知らぬ、優しくほのかに甘い香り。もしかしたらその香りを纏ってみたかったのかもしれない。小さな私よ、しおらしいな。
けども今でも考える。私はなぜ私なのか。なぜ私は誰かになり得ないのか。哲学者はまだここにいる。