BEASTスポンサーの日常⑥【プロアマ麻雀大会自戦記Ⅴ】
第四回戦 「本田卓」
嫌な予感
優勝を目前としている状況だが、意外と緊張はしていなかった。ただ、ひとつだけ祈っていた。あのプロとだけは同卓になりませんように・・と。そのプロの名は、本田朋広である。
2022-2023シーズンの本田プロの強さが、強く記憶に残っていた 。MVPこそ逃したものの、レギュラーシーズンで46.4%という驚異のトップ率を誇り、チーム雷電の解体の危機を阻止した立役者である。序盤で失点してもいつの間にか回復し、気が付いたらトップ目にいるというシーンを、嫌というほど観ている。
しかし、嫌な予感は的中するものである。最終となる4回戦 J卓、僕の対面には、北陸の役満プリンスが待ち構えていた。卓組みされている時から既に決まっていたとはいえ、4戦連続でプロが対家となった。
もう一人の強敵
4回戦は南家スタートだった。僕も麻雀歴はそれなりに長いので、麻雀の強者は対局が始まって一巡もすれば、大抵は分かる。上家の親は、正にその強者に分類される。牌捌きと空気感が違う。さっそく、挨拶代わりのリーチが親から入った。
河が強く手が読みづらい。振り込んだのは、安全牌に窮した下家の方であった。リーチ・平和で2,900点。裏ドラが乗らなかったのが救いだった。東1局1本場、またもや親からリーチが入った。今度は流局で一人聴牌。
そして、東1局2本場、僕は配牌に恵まれた。無駄ヅモも少なく、6巡目でリーチを打った。
早いリーチなので、何とかツモってアドバンテージを取りたい。ところが、対家の本田プロが一発で、平然と5萬を切った。『ロン!8,000は8,600』供託のリーチ棒も含めて、9,600点の収入である。実は本田プロから出ると思わず、見逃すところだった。
『何で五萬を切ったのですか?』僕は本田プロに尋ねた。本田P「四萬が早かったから」確かに四萬は4巡目に切っているが、6順目リーチなので、相対的に早いとは言えない。また、八萬を切っている訳でもない。釈然としないが、本田プロのBEASTスポンサーへのサービスと思うことにした。
せっかく同卓したので、例によって本田プロに質問を浴びせた。『苦手なMリーガーは誰ですか?』
本田P「やっぱ、寿人さんですね。めっちゃ強いです。出来れば(試合で)当たりたくないです」
『この前の熱闘Mリーグ、優さんと野外デートしてましたが、ずっと雨だったのですか?』
本田P「撮影は丸1日っすよ。雨に濡れて、酷い目に合いましたよ」
本田プロはやんちゃ坊主のように、答えてくれた。天然と言われているが、噂ほどでも無かった。多分(笑)。
そして東ラス、本田プロの親番。二の矢を放つべく、果敢に仕掛けて手牌4cm。本田プロが面前なので、いつリーチが飛んでくるか、正直ヒヤヒヤしていた。
13巡目、またもや本田プロから和了牌の二萬が河に放たれた。『ロン。3,900』おそらく、一向聴からの打牌だろう。親番を死守するために、1牌だけ押したに違いない。僥倖な和了だった。
南場の試練
そして、最もマークすべき存在となった、上家の方の南場の親が回ってきた。上家の方だけ ツモ切り、手出しを注意深く観た。ツモが良さそうだ。有効牌をどんどん手牌に引き入れている感じだ。案の定10巡目にドラの2筒を横に曲げてリーチ。僕の手牌の3筒・4筒は通ってない牌で、打牌候補にはならないので、一発消し及び向聴を進めるためのチーをした。上家の親は、僕の小賢しいチーを嘲笑うかのように、「ツモ」と和了牌の6筒を卓上に晒した。リーチ・ツモ・平和・ドラ・裏の4,000オールである。一撃で東場に築き上げたリードを捲くられた。
そして、南1局一本場。捨て牌3段目で、親と下家の方から同巡でリーチが入った。ここが正念場である。僕は両面・カンチャンの一向聴。幸いにも、二人の共通安全牌しかツモって来ない。流局直前、親の最後の捨て牌をチーして、形式聴牌が取れた。ハイテイを下家の方に廻してしまったが、無事に流局。本田プロの一人ノーテンでこの局を乗り切った。
南1局二本場。そろそろ親を落としたい。配牌で中が対子。赤五萬塔子も有った。手牌はまだ整っていなかったが、果敢に中を一鳴きした。そして9巡目、下記の聴牌を入れた。
その3巡後、生牌のドラの2筒をツモって来た。親が2巡前に3筒を切っている。そして、僕も序盤に3筒を切っている。万が一親がドラの2筒を対子で持っていて、ポンでもされようなら、目も当てられない。仕方なく、4索・6索を落とし、一旦聴牌を崩す選択をした。索子のカンチャン塔子落としを完了した次巡、幸運にも3筒を引き戻し聴牌を復活させた。
和了点が倍になったが、ドラ跨ぎなので、出にくい待ちである。1筒もドラ表示牌を含めて、3枚場に見えている。ドラを切らずに上手く打ち廻した僕に、麻雀の神様は、またもや僕に試練を与える。南1局、3度目の親リーチが掛かった。
ここは真っ向勝負である。無筋の危険牌を含めて、全てツモ切った。そして16巡目、念願の和了牌、最後の1筒をツモった。『1,000-2,000は、1,200-2,200』供託のリーチ棒も3本入り、トップを再逆転した。ちなみに、親のリーチは4筒単騎だった。4筒を切りきれず、止むなくリーチをしたと仰っていた。流石は強者。僕の手の内はしっかりと読まれていた。
最後の攻防
南2局に入った。東場、南場と上家の方が連荘したことにより、結構な時間を費やしたので、この局がおそらく最後になる。2着の上家の方とは、4,700点差。流局して伏せられる点差だ。配牌を取った瞬間、降りを選択した。両面塔子が一つもない四向聴だった。ひたすら安全牌を溜め込んだ。捨て牌が2段目に入り、下家の方からリーチが入った。満貫ツモまでは、トップを維持できる点差だった。
しかし、上家の方は本当にしぶとい。またもや追い掛けリーチを掛けて、再逆転を狙いに来た。再びお祈りタイムである。二人とも和了牌をツモらない、掴まないまま、無事にこの半荘の最終局は流れた。ノーテン罰符1,500点を払ったが、供託のリーチ棒はトップ取りなので、差し引き500点の収入となった。なんとか、4回戦をトップで終えることが出来た。一番苦しいトップだった。
激闘を終え、本田プロに最後の質問をした。『雷電の中で一番仲の良いのは誰ですか?』
本田P「瀬戸熊さんと黒沢さんとは良く話をしますね」
『萩原プロとはどうなんですか?』
本田P「あの人は別格ですね。恐れ多くて、まともに話し掛けられません。話をする時、未だに緊張しますね」
Mリーガー達と4戦続けて同卓という、夢のような麻雀大会は、残すところ結果発表と表彰式のみとなった。気分が高揚したせいか、疲労感はほとんど無かった。僕の心は、やり遂げた感で満たされていた。
(続く)