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2022年私的ベストアルバム!

ごあいさつ

音楽を聴くのをストリーミングサービスに頼るようになって5年が経った。
買ってもあまり聴かなかったCD倦怠期に比べれば、今の方がよっぽど音楽を(特に新譜を)聴いている。縁のなかった旧譜やK-POPの激しいカムバに気軽にアクセスできるのも喜ばしいことだ。
ただし難点もある。好んで何度も聴いたアルバムや曲でも時がたてばスマホの画面上から消え去り、存在そのものを忘れてしまう。去年親しんだアルバムも記憶から消えかけている。みんなどうやって整理しているのだろうか。
Twitterにその都度感想を残しているがどうにも探しにくい。
これはいかにももったいないことで、ハマったその時の興奮をはっきりと残しておきたくなってきた。ということで今年の私的ベストアルバムを選定し、思うところをしたためることにする。
2022年の音楽シーンを揺るがしたとは全く思えないが、個人的に記録と記憶に残しておきたい4作品。単純にいちばん回数を聴いた4つでもある。2023年に出会ったとしても愛聴しただろうと断言できる。


Picnic in the Dark / Renata Zeiguer

ブルックリンのSSWによる2nd。くぐもったレトロなバンドサウンドをバックに、控えめだが伸びやかな歌声が聴こえてくる。古いオルゴールから流れてくる調べのような懐かしさがある。
楽曲はバラエティに富んでいて、The Beatles、Sonic Youth、Al Green、Peter Ivers、Crosby, Stills & Nash、Led Zeppelinなどを勝手に連想してしまう。といっても優秀なポップス職人による名品というより、きわめてパーソナルな作品集という色合いが強い。どの曲もしっかり彼女自身の歌として聴こえてくる。時に打ち込みを用いたリズムアレンジはシンプルだが、むしろ自由奔放なメロディを際立たせている。生き生きとしたメロディは本当に独特で、一緒に口ずさむと分かるが息継ぎが難しい。豊かな声量をもっているのだろう。作曲と歌唱が本当に自然に結びついているのだと思う。


Estrela Acesa / Sessa

この夏圧倒的に聴いた(効いた)ブラジルの魔法。真夏の気だるさやうら寂しさと見事に合っていた。特に8月の夕暮れ時に外で缶ビール片手に聴くとたまらなく甘美で退廃的な気分になった。甘さとほろ苦さのブレンドが絶妙な弾き語りと、その上空を舞う幻想的なストリングスやフルートに女声コーラス。最小限の手数で異様にファンキーなノリを感じさせるリズムセクション。特にベースが最高(Marcelo Cabralという人らしい)。レゲエや、飛躍してしまえばThe Stone Roses的なリズムのセンスも感じる。
ほろ苦いメロディと頼もしいリズムと不穏なウワモノ。そいつがあれば生きていけると教えてくれたのは97年のフィッシュマンズ『宇宙 日本 世田谷』である。思えばあれを狂おしく聴いたのも夏であった。2022年の夏もSessaと共に記憶されるのだろう。


Glorious Miscellanea / Ruru

フィリピン出身カナダ在住SSWの1stフル(ちなみに上述のRenata Zeiguerもフィリピンにルーツがあるらしい)。とにかくカラフルでポップでシティソウルな作品。ファンキーなキメや凝った仕掛けも多く、楽しく聴ける(Frank Zappaみたいな瞬間もある)。可憐なボーカルも魅力的だ。
ただこのアルバムの最大の注目はドラムである。この手の音楽にしては妙に重いというか、ちょっと鈍臭い。そしてところによりしゃべり過ぎなのである。リズムキープ時の妙な騒がしさというか悪目立ちぶり、そこ大丈夫なのとツッコミのひとつもいれたくなる危ういオカズなど、たまらなくスリリングだ。例えるなら、仕事中の私語のボリュームが大きくて目立つ人みたいな感じ。しかしこのドラムの愛らしい憎めなさこそが、今作をシティソウルの佳品から私にとって唯一無二のポップアルバムにしている。


Free Time / Jerry Paper

Bryan Ferry、Brian Eno、Kevin Ayers、John Caleらの歌声が好きである。何というか、地声に近そうな音域で脱力気味にポップな曲を歌う声。ブラジルでいうとJoão DonatoやMarcos Valle。Jerry Paperは間違いなく彼らの後継たるシンガーだと思う。
中期Roxy Musicのようなダル目のロックチューンで始まる今作。意匠としては上記の先人たちの70年代の名作に連なるモダンポップといったところで、本当にポップでメロウ、バウンシーな曲が詰まっている。自身のシリアスなテーマをそうした楽曲で聴かせる心意気には感動を覚える。デトロイトテクノへみたいな⑧につながる終盤の流れは特に胸を打つ。ちなみに私が年間通して最大の時間聴いたアーティストはこの人。初期はふにゃっとした宅録風アンビエントフォークでこちらも大変よろしい。


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