NCT 127、SHINee、EXO。SMエンタに狂わされた一年を振り返る───2023年私的ベストアルバムに代えて
私にとって2023年はK-POPの年、正確に言えばSMエンタテインメントの男性グループの音楽にやられた年でした。
よって年間ベストアルバムのほとんどをそこから選ぶことになるのは必然。
おそらくそれらは「年間ベスト界隈」ではまったく話題にも上らない作品たちでしょう。仕方のないことでです。
とりあえずSMエンタの音楽にハマった経緯から振り返りつつ、2023年のベストアルバムを発表しようと思います。
※ちなみに私がK-POPを聴き始めたのは2020年。当時小6の娘がTWICEにハマり踊っていた「Heart Shaker」の振り付けに衝撃を受けたことに始まります。翌21年にTWICEとRed Velvet、BTSを集中的に聴き、22年は第4世代のガールズグループを浅く聴いていた、くらいのライトリスナーです。
※本稿では便宜上ほぼNCT 127、SHINee、EXOのみを「SMエンタの音楽」として語ることをお許しください。
SMエンタのお兄さんたちにハマる
Stickerの衝撃
2023年3月。シャッフルでとんでもない曲に出会いました。
珍妙に鳴り響く尺八のような笛、粘っこい歌声、無愛想なピアノとストリングス。それらが矢継ぎ早に飛び交うも奇妙な調和をみせる異空間。低音はえぐいのですが全体的に音数は少ないので歌が目立ちます。メロディはどこかブルース臭さもあって違う惑星のゴスペル? とでも言いたくなる感じ。懐かしいけど聴いたことない。変な曲!
NCT 127の2021年発表「Sticker」であります。衝撃を覚え下記のようにつぶやき、いいね2を獲得しました。
かっこいいから見てください。
聞いてください。 聞いてください。 楽しんでください。
※Stickerを楽しむには下記の記事が大変参考になります。
ただこの時点では楽曲単位での興味のみでNCT 127およびSMエンタの音楽への興味には至りませんでした。aespaを聴いていたくらい。
あるミックスとの出会い
決定的だったのは5月です。Twitterで流れてきたこの投稿。
このミックスとの出会いが私の2023年リスナーライフを狂わせたといっていいでしょう。
冒頭のスモーキーな「Forever Only」にまずやられました。NCT 127のメンバー、JAEHYUNのソロ曲です。靄の向こうから聴こえてくるスネアの鳴りがクールなネオソウル。絶妙に揺らぐグルーヴが気持ちよく、そして何よりハスキーで色気のあるボーカルがたまらない。じっくり空気を作っていく、一曲目として実に好ましいナンバーです。
このミックスには特徴がありました。全18曲のうちBLACKPINK & Selena Gomezの「Ice Cream」以外はすべてSHINeeやEXO、aespaなどSMエンタテインメント所属アーティストによる楽曲で、中でもNCT 127のナンバーは7曲にも及びます(メンバー関与の楽曲も含めるとさらに増えます)。「Sticker」もしっかり入っています。
DJ Quietstorm氏のインスタによればNCT 127の曲がダントツに多いのはファンだからということですが、全編通して冷ややかさと暑苦しさが同居した不思議に統一感のある世界が構築されています。
このミックスとの出会いで、どうやらNCT 127およびSMエンタの音楽が本当にヤバいぞと肌で感じるようになります。
リズムの面白さ、冒険的なトラック、巧みなラップスキル、優れたボーカルワーク、奇妙な構成の楽曲…。自分が音楽に求めるほとんど全てがここにある! とおかしなことまで思い始めました。
ものすごく雑な言い方をすると、それぞれヒップホップを通過していてもBTSにはパンク/ニューウェイヴ、SMエンタ勢にはソウル/ファンクの香りを感じます(要検討)。
もう一曲だけ紹介させてください。2021年発表の「Focus」。現代のハイ・サウンド、現代のアル・グリーンといいたくなるような極甘ソウルバラッド。ギターが気持ちいい。
KWANGYA訪問、そしてSHINee
そんな中、私事ですが7月に家族でソウル旅行という機会に恵まれます。
夏のソウルは暑すぎ、屋外の観光予定を早々に縮小したわれわれは地下鉄に逃げ込みました。K-POPゆかりの地めぐりでもするかと思い立ち、SMエンタのショップKWANGYAを訪ねました(その後HYBEのビルにも行きました)。
GOT the beatの「Stamp On It」が爆音で鳴り響く店内。
NCT 127のサイン入りグッズなどを拝み聖地巡礼気分に浸っていると、突然あのピアノのイントロが聞こえてきました。そしてファットなビートにエモーショナルな歌声。
電撃が走りました。「HARD」との出会い、SHINee先輩との出会いであります。
この出会いで2023年の方向性が完全に決定づけられました。以下、年間ベストアルバムです。
2023年私的ベストアルバム
HARD / SHINee
というわけでSHINee『HARD』です。2023年最も聴いたアルバム。
何よりも最年長メンバーONEW(ジャケット向かって左端)の歌声に撃ち抜かれました。声量、艶、音域、音程、どれも素晴らしい。表題曲「HARD」0:32あたりの「Lights on us~」で聴ける爆発力と保湿量は尋常ではありません。
その昔、Pファンクにグレン・ゴインズというギタリストがいました。
ギタリストというよりボーカリストしての存在感が大変なもので、宇宙船を呼ぶのに彼の宗教的ともいえる歌声は必要不可欠でした。私はONEWに彼と同じものを感じます。声質というより、場の支配力という点で。
そういえば「HARD」は脱力気味なラップパートも魅力で、ジョージ・クリントンを思わせたりします。モーグのシンセみたいな音も聴こえる(アビイ・ロードのどれかみたいにも聴こえる)し、Pファンクの孫なのかもしれません。曲を4倍くらいの長さにして堂本剛aka.ENDLICHERIに長尺ギターソロを弾いてほしいものです。
JBのハネるホーンのようなイントロがかっこいい2曲目「JUICE」もパワフルなONEWボーカルを堪能できます。
アルバム全体のトーンとしてはダークな抑圧の先の美しい解放といいますか。前半に並ぶ緊張感のあるナンバーから中盤「The Feeling」でのエモーション大爆発を経て後半緊張が穏やかに収束していくという非常に感動的な流れになっています。
しかしONEWさん、このアルバムを発表して間もなく休養に入り、現在も活動休止中です。十分に休養して戻ってきてほしいですね。このアルバムのライブを観たいというのが本音ではありますが。
他の3人のメンバーがONEWパートを割り振りながらライブをこなしているのを見るとその対応力に頭が下がる一方で寂しさもあります。ハマり出したころに一番観たいメンバーが不在というのは、92年のガンズにおけるイジーを思い出しつらいものがあります。
Circle / ONEW
そんなONEWさん、『HARD』の少し前にソロアルバムも発表していました。これがまた古典的にまで美しく痛ましいソロアルバムといった趣きで愛聴せずにはいられませんでした。
過剰なテンションのSHINeeの世界とは一線を画す、穏やかで静謐ながら確かな核をもつ音楽です。
全体的にどこかUKのロックを想起させる楽曲、プロダクション。冒頭の「O (Circle) 」はゴスペル調を取り入れたナンバーで、デイヴ・メイソンからプライマル・スクリームまでに至る英国ポップからの影響を感じさせます。
レディオヘッドのファーストのような危うい美しさもあり、それは「Rain On Me」「No Parachute」といったナンバーに顕著。「Caramel (feat. GIRIBOY)」はマッカートニー風ポップ。
と素晴らしい楽曲が並ぶポップアルバムです。
この後数ヶ月で『HARD』って、そりゃ疲れるよねと思います。休養の理由は分かりませんが。
★嬉しいニュースが飛び込んできました!
ビルボードの選ぶ「The 25 Best K-Pop Albums of 2023」の1位になんと本作が選出されたとのことです! ONEWさん、やったね!
EXIST / EXO
今年特によく聴いたSMエンタの男性3グループ(SHINee、EXO、NCT 127)の作品の中では最もオーセンティックな仕上がり。K-POPらしからぬ(?)耳触りのよいプロダクションで気づけば何度もリピートしていました。甘くて苦くて軽くて重い最高のファンク「Hear Me Out」が出色の出来ですが、随所で聴こえるハンドクラップこそがこのアルバムの主役。ドラムの音もかっこいい。てな感じで真っ当なソウル/ファンクアルバムとして楽しみました。言うなればThe Internetの不在を埋めてくれるような存在だったといえます(「Cream Soda」で聴こえる乾いたギターのストロークとハンドクラップに「Come Together」を思い出したものです)。
Fact Check / NCT 127
NCT 127も傑作を投下してくれました。各楽曲カラーはバラバラですがその分振れ幅がすごい。お得意のワッショイ奇祭系、デトロイトテクノ風歌謡、ヴァン・ヘイレンなスタジアムロック、しっとり叙情派シティソウルなど…。中でもNCT 127流ルーツロックレゲエ「Parade」の珍妙さは面目躍如といったところで、よそ者レゲエ感はどこかツェッペリン中期のいくつかのユーモラスな楽曲を想起させます。NCT 127というフィルターを通したポップミュージックの見本市のような32分で、メンバーおよび制作陣の高いポテンシャルを存分に楽しめる作品です。
MY WORLD / aespa
こちらもSMエンタ第4世代のaespa。優れたトータルアルバムである以前にとにかく2023年ベストハードロック「Spicy」が入ってる時点で外せません。ハードロックというかグランジ? ストーナー? クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジと共演してほしいです。難解なコンセプトの序曲「Welcome To My World 」も曲としてはロックでそこが好き。「Spicy」「Salty & Sweet」「thisrty」という曲名も楽しい。6曲20分でもコンセプトアルバムってできるんですね。
と、ここまでがSMエンタのアーティストによる作品です。2024年もこの興味が続くのか、飽きっぽい自分ですが楽しみです!
とりあえず1/7のNCT 127@バンテリンに行くことになりました。
年間ベストアルバム、残りは下記4枚です。
wonderego / Crush
韓国R&Bシーンを牽引してきたソロシンガーCrushの3rdアルバム。こちらは一転19曲58分というボリューム満点の一大音楽絵巻です。スムースライクバターなR&B/ソウルが楽しめます。歌唱や楽曲のクオリティはもちろん、曲の繋ぎも十分に練られていて優れたミックスのような快適な聴き心地で何度もリピートしました。
SICHIMI / SUMIN
同じく韓国R&Bを代表するシンガー/プロデューサー、SUMINの最新作。前作もそうでしたが、スカスカなのに濃い読後感のあるサウンドが魅力です、この方。声も好き。そして「Closet (feat. Uhm Jung Hwa)」のポール・マッカートニーのようなベースがかっこいい。
IN THE NAME OF HIPHOP II / tha BOSS
われらがBOSSの2ndソロ。中年の年齢の重ね方を示してくれる羅針盤みたいなアルバム。豪華客演でも話題になりましたが、私は断トツでこの曲派。
SHINGO★西成の魅力を再発見しました。サム・クックやどんとと並べるべきソウルシンガーだと思います。ライブでの共演も最高でした。
いや、それを言い出したらこれも最高でしたね。
wave to earth / 0.1 flaws and all.
存在を知ってまだ10日ほどしか経っていない韓国のバンドの1st。乾いたギターサウンドで湿ったメロディを爽やかに聴かせるというジョージ・ハリスン的世界がとても好みです。スーパー・ファーリー・アニマルズにも通じるところあるかも。今後も聴き続けるはずとの期待も込めて選出しました。
毎年何かしら南米の音楽にハマるのですが今年は全く聴けてません。あれだけ楽しみにしていたペドロ・マルチンスの新作もまるで聴けてないので選べませんでした。気になって聴けてないものは多いので半年後を目処に2023年ベストおかわりを発表するかもしれません。