暗記をしない監査論
1.はじめに
なんと2作目。
タイトルについて補足です。
暗記をしない監査論、暗記をしないというだけであって、暗記できるのならばした方が良いのは確かです。が、私自身、非常に暗記が苦手ですので、そんな自分でも監査論乗り切れたんだよ、こんなふうに本試験乗り切ったよ、というのを書いてみようと思いました。
暗記をしないというのなら、じゃあ作文で解答するのか?と言われたら、それは全く違います。作文要素はほとんどありません。監基報フル活用です。監査の実務は監基報に則って行われます。監基報が監査論の試験に使えないわけがありませんよね。
ちなみに、本試験の監査論は大問1、大問2ともに偏差値60くらいでした(Twitterで画像公開してます)。2月から監査論を学び始め、半年後の8月に受けたと考えれば、上出来でしょう。
最後に、予備校の模範解答は一応確認はしていますが、その他の下調べ等はしていないため、内容に不正確な部分が含まれる可能性はあります。本稿は問題解説ではなく、思考方法の記録ですので、その点はご了承ください。監基報ってこんなに使えるんだ!こんなふうに監基報って使うんだ!ということを実感してもらうのが目的です。
2.第1問 純理論問題と監基報
題材は令和4年度監査論です。現役生の方はまず解いてみることをオススメします。本試験のイメージがあれば勉強の方針も立てやすくなるはずです。
問題1 問1
【問題文】監査人は,財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルで重要な虚偽表示リスクを識別し評価することが求められている。財務諸表全体レベルで重要な虚偽表示リスクを識別し評価することが求められている理由を説明しなさい。
(1)問題文を分析する
まず最初にすべきことは、問題文の整理です。
本問は何を問うているのでしょうか。簡単です。「財務諸表全体レベルでRMMを識別し評価する理由」です。
余談ですが、問題文をよく見ると、前段で「アサーションレベル」と「財務諸表全体レベル」を対比しつつ、「財務諸表全体レベル」で重要な虚偽表示リスク(以下「RMM」)を識別・評価する理由を問うてますね。
問題文の特徴を把握することは、出題趣旨(なぜその出題をするのか、試験委員は何の知識を問いたいのか)を把握することに繋がります。
本問では、重要な虚偽表示はアサーションにおいて現れることから、一般的にはアサーションレベルにおいて識別・評価するのが監査手続の一番の近道っぽいですが、それにもかかわらず、財務諸表全体レベルでの識別・評価も重要なんだよ、というメッセージが込められているように感じます。意識すると試験委員に「わかってるな」と思ってもらえるかもしれません(知らんけど。みんなも考えてみてね。)。
(2)解答を一言でいう
次に、解答を一言で言い表します。論理がぶれがちな理論問題では、結論を収束させるために、この作業は必須だと思います。
なぜ財務諸表全体レベルでRMMの識別・評価が必要なのでしょう?それは当然、財務諸表全体レベルでRMMの識別・評価をしなければ、RMMの識別・評価において不十分となるからです。この程度で十分です。
単純に思えますが、解答における根幹となります。これを解答欄に書いていなければ問いに答えていないも同じです。
(3)解答を膨らませる
ここから、多少の問題慣れが必要となります。(2)だけで解答としては一応成り立っているのですが、試験ですので、行数の許す限りわかりやすく説明することを心がけます。
財務諸表全体レベルでRMMを識別・評価する理由はなんでしょう…?
何となく方向性は見えていますが答案を書けるレベルではないため、財務諸表全体レベルのRMMについて、①そもそも財務諸表全体レベルのRMMとは何なのか、そして②なぜその識別・評価が必要になるのか、を監基報で調べてみます。答案においては正確な表現を心がけましょう(この点、暗記をしていればその手間を省けますね…)。
①は、RMMの識別・評価の話なので監基報315にありそうですね。監基報315をパラパラと見てみると、27項、29項にそれっぽいことが書いてありました。要求事項の方が項数が少ないので、まず要求事項で関連しそうな規定を探し、そこから当該規定で参照されている適用指針に飛ぶと楽です。例に従い、27項、29項で参照されているA180~186項を見てみましょう。厳密な定義はよくわかりませんが、特徴はつかめました。財務諸表全体レベルのRMMとは、財務諸表全体に広く関わりがあり、アサーションの多くに潜在的に影響を及ぼすようなRMMのことのようです(A182参照)。
②もだいたい同じ箇所にありましたね。
A180.監査人は、重要な虚偽表示リスクが財務諸表に広範な影響を及ぼすことで、監基報330 に従った全般的な対応(監基報 330 第4項参照)が必要となるかどうかを判断するために、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを識別する。
A181.財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、個々のアサーションにも影響を与えることがあり、当該リスクを識別することは、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価し、リスク対応手続を立案する際にも役立つことがある。
A182.(前略)財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが潜在的に多くのアサーションに影響を及ぼす場合には、監査人によるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価に影響を及ぼすことがある。
解答の材料は揃いました。3つの観点から書けそうですね。一つは「全般的な対応が必要になるかを判断するため」、二つは「アサーションレベルのRMMの評価やリスク対応手続に役立てるため」、三つは「アサーションレベルのRMMの識別・評価の影響を判断するため」。二つ目と三つめはだいたい同じかもしれません。
(4)解答にまとめる
解答の構成としては、以下のようにするのが良さそうです。
全体レベルのRMMの内容 → 全体レベルのRMMの識別・評価の必要性 → アサーションレベルのRMMの識別・評価のみでは不十分であるというニュアンス → 帰結
前述のように、アサーションレベルにも少し触れられると好印象かもしれません。
「財務諸表全体レベルのRMMとは、財務諸表全体に広く関わりがあり、アサーションの多くに潜在的に影響を及ぼすようなRMMである。そのため、直接的なリスク対応手続は立案できないことから(※1)、財務諸表全体レベルのRMMの識別・評価を行うことで、補助者増員といった全般的な対応が必要になるかを判断することができ、また、アサーションレベルのRMMへの影響を考慮し、その評価やリスク対応手続の実効性を確保することができる(※2)。よって、財務諸表全体レベルのRMMの識別・評価が必要となる。」
※1 「直接的なリスク対応手続は立案できないことから」というのは、つなぎです。財務諸表全体レベルのRMMというものがあるのなら、直接リスク対応手続を取ればええやん!全般的な対応とかいらんやん!っていう反論を封じ込めるために、アドリブで追加したものです。
※2 「アサーションレベルのRMMの評価の実効性を確保できる」と書くことで、「全体レベルのRMMの識別・評価がなければ、アサーションレベルのRMMの評価の実効性が確保できない」というニュアンスを込めてます(伝われ)。
(5)小括
こういう純理論問題は暗記してなければ何も書けないよという意識を持っている人がかなり多いと思います。が、監基報からの抜粋でも守りの答案を作ることはできます(あくまで「守り」の答案です)。
ただ、くれぐれも「嘘を書かない」ことは意識しましょうね。雑に監基報から抜き出すだけでは、理解の無さを露呈することになり、試験委員はキレます(多分)。
問題1 問2
【問題文】近年,アサーション・レベルにおいて,重要な虚偽表示リスクを構成する固有リスクと統制リスクを分けて評価することが求められ,特に固有リスクの評価が重視されるようになった。このように固有リスクの評価が重視されるようになった理由を説明しなさい。
(1)問題文を分析する
問われていることは、単純明快、「固有リスクの評価が重視されるようになった理由」ですね。
問題文の前段では、固有リスクと統制リスクを分けて評価することについてが触れられており、少し前の時代の「固有リスクと統制リスクを統合評価する」方法との対比が見て取れますね。そこらへん監査基準の改定の背景を知っていて答案に反映できればかなり有利かもしれませんが、私は詳しく覚えていないので今回はスルーします。
(2)解答を一言でいう
これはよくわからないです。RMMの評価に役立つからですね?
明確な答えが思いつかないときは「やばいな」という意識を持ちつつ、監基報に全てを懸けます。
(3)解答を膨らませる
そもそもなぜ固有リスクの評価が重視されることの説明が難しいのかというと、当たり前すぎて難しいんですよね。
そういう場合は、まず①固有リスクとは何かを確定させたうえで、②固有リスクの評価はなぜRMMの評価に役立つのか、を考えていきましょう。的を絞ったら、あとは監基報とのにらめっこです。
①について、監基報315の定義の11項を見ても固有リスクの定義が載っていないため、RMMのより一般的な規定である監基報200を見てみます。
3項(10) 関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、取引種類、 勘定残高、開示等に係るアサーションに、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が行われる可能性
ようするに「重要となる虚偽表示が行われる可能性」ですね。
固有リスクの評価は固有リスク要因を加味して行われるので、固有リスク要因が何かも見ておきましょう。これは監基報315が参照できますね。
11項(6) 関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう。固有リスク要因は定性的又は定量的な要因であり、複雑性、主観性、変化、不確実性、経営者の偏向又はその他の不正リスク要因が固有リスクに影響を及ぼす場合における虚偽表示の生じやすさを含んでいる。
ようするに「虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴」ですね。
次に、②について、監基報315を見てみると、30~32項に固有リスクの評価に関する規定があります。30項は参考になるかもしれません。
30.識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、監査人は虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価することにより、固有リスクを評価しなければならない。その際、監査人は、以下の事項を考慮しなければならない。 (1) 固有リスク要因が、どのように、そしてどの程度、関連するアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響するのか。
固有リスクの評価とは、虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価することであり、その際に固有リスクが考慮されるようです。
上記の要求事項は、適用指針のA191~202が参照されているので、こちらも併せて読みます。
A191.固有リスクは、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合いの組合せの重要度に応じて評価され、当該評価はリスク対応手続の立案に役立つ(後略)。
A192.識別した重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクを評価することは、監査人が特別な検討を必要とするリスクを決定する際にも役立つ。
A193.固有リスク要因がアサーションの虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす程度を考慮することは、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクを適切に評価し、当該リスクに対してより的確な対応手続を立案するのに役立つ。
ようするに、リスク評価手続の立案、特別な検討を必要とするリスクの決定に役立つということでしょうか。これだとあまりにも味気ないので、統制リスクと比較した場合の固有リスクの特徴として、固有リスク要因というものがあるため、そこに着目してもよいかもしれません。固有リスク要因は、上述のように「虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴」ですので、固有リスク要因を勘案することで、より精密に評価できるということですよね。その点でも固有リスクは統制リスクよりも優れていそうです。
(4)解答にまとめる
「固有リスクの評価は、重要な虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価することであり、その際には虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴を示す固有リスク要因が考慮される。そのため、固有リスクを評価することで、固有リスク要因を通してRMMの評価を精密に行うことができ、より効果的なリスク対応手続を立案することができる。また、特別な検討を必要とするリスクの決定にも役立つ(※1)。よって、固有リスクの評価が重視されている。」
※1 なぜ特別な検討を必要とするリスクの決定に役立つことが有益とされているのかについても触れられるといいですね。
(5)小括
監査基準改定意見書の内容はもちろん山張りしていましたが、「ここ問われる!?」という内容でしたので全く対応できなかったですね。ただ、監基報に書いてあることを書いているだけなので嘘は書いていないですし、予備校の模範解答を見ても最低限必要な要素は含まれているように思います。
The守りの答案という感じで、とても誇らしいです(?)
予備校の模範解答 → https://cpa-net.jp/CMS/wp-content/uploads/2022/08/abcde7120ba10dc496f5bec5a25d3d74.pdf
問題2、問題3について
きっとみんな同じようなこと書いているだろうから割愛…
3.第2問 事例問題と監基報
事例問題難しかったですね。問題文の状況を正確に把握することがとても大事でした。また、監基報を上手く使えた人と使えなかった人で大きく差がついた大問だったことは間違いないでしょう。
問題 → https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/r4shiken/shikenmondai/03.pdf
問題1
【問題文】P社(上場会社,製造業)の金融商品取引法に基づく監査を担当する監査人Xは,P社の第 21 期(2021 年 4 月 1 日から 2022 年 3 月 31 日まで)の第 1 四半期連結財務諸表に対する四半期レビュー手続を実施し,四半期レビュー報告書における結論として,どの類型が適切かを検討している。ここで【状況 1 】を踏まえて,監査人Xの監査及び四半期レビューにおける証拠の入手状況を二つ仮定し,それぞれに基づいて監査人Xが選択し得る四半期レビューの結論の類型及びその根拠を説明しなさい。
(1)問題文を分析する
初見だと冷や汗ですよね。こんな時こそ冷静に、何を問われているのかを正確に把握します。
本問では、①証拠の入手状況の仮定と、②それを前提とした四半期レビューの結論の類型及びその根拠です。
この時点で、①が②の前提であることがわかるため、①を間違えると終わりだな、①に時間を使うべきだな、ということまで考えられるとグッドですね。
(2)状況を整理する
まず、①を検討するに当たって、証拠を入手する背景を問題文から読み取りましょう。
P社の子会社S社で不正が生じたが、P社によれば、当該不正はS社CEOの独断専行により行われた行為であり、S社を含むP社グループの他部門及び他の拠点において類似の行為は起き得ないから安心してくれ、とのことですが、第三者委員会の調査は完了しておらず、その真偽はわからないみたいです。ようするに、S社の不正と同様の不正が各拠点で発生しているのならば連結財務諸表上の数値も変わる可能性がある、ということですよね。
ここまでほとんど全てが問題文にそのまま書いてあります。内容は難しいですが、日本語の問題です。上述のように①が肝要なので、状況把握に時間を使っていいと思います。
そして、証拠を入手する背景としては、最終段落です。
P社の経営者に当該不正に関して説明を求めるとともに, S社の監査人に,当該状況について伝達の上,追加の作業を依頼し,S社を含むP社グループの他部門及び他の拠点における類似の行為の有無に関する追加の監査手続を実施している。
ようするに、証拠を入手する背景としては、太字部分を参考にすると、「S社の不正と同様の不正が各拠点で生じていたかどうか」に関する証拠が必要とのことですね。
これを整理してみると、今後起こり得る未来としては以下の3つの未来が考えられそうです。
「S社の不正と同様の不正が各拠点で生じていた」ことを証拠により確認できた
「S社の不正と同様の不正が各拠点で生じていていない」ことが証拠により確認できた
「S社の不正と同様の不正が各拠点で生じていた」ことが証拠により確認できなかった(結局よくわからんかった)
①については、これらの3パターンのうちどれかを書けばよさそうです。が、どれを書くのが一番楽なのかは判断材料がないためいったん留保し、とりあえず先に進みます。
(3)監査上の影響を考える
②を考慮して、①を決定することにします。
パターン1の場合、否定的結論ですかね。
結論の根拠はどういう観点で書けばいいのかわからないので、とりあえず監査証明府令(基準集の一番最後に載ってる)を引いてみます。が、否定的結論(4条17項3号)の根拠に書くべき内容は、4条18項4号において「財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況を重要な点において適性に表示していないと信じさせる事項が認められた理由」と規定されており、答案を作成する上で役に立ちません。そのため「~という事実があるため、虚偽表示は重要かつ広範」とか適当に書くしかなさそうです。
パターン2の場合は、正直よくわかりません。
無限定結論か限定付結論かで悩みますし、なんか難しそうなので回避するのが得策です。限定付結論とする場合も、範囲制約なのか結論に関する除外なのかよくわかりませんし、そもそもS社の財務諸表が訂正されたのかもわかりませんし、、、
パターン3の場合、結論不表明でしょうか。
これも監査証明府令4条22項には「結論を表明しない旨及びその理由」としか規定されていないため、結論の根拠は自分の言葉で書くしかありません。パターン1を参考に、なんか未発見の虚偽表示がやばそうだから結論不表明、と書く感じで良いと思います。適当です。
上記を見て、①はパターン1とパターン3を採用し、問題文を参考に証拠の入手状況の仮定を詳しく書けばいいと思います。これは日本語の問題なので最低限合わせたいですね…
(4)小括
後半だいぶ適当な感じで締めてしまいましたが、題材が難しいため、日本語の問題である仮定の設定を死守することが肝要かと考えたためです。
結論の根拠についてどのように守るべきかというと、問題文の事情の引用を多くすることで「嘘を書かない」答案が作れて、上手く守れる気がします。大問1で監基報を用いるのと同様、守るときは決して「嘘を書かない」。
本問でいえば、「疑われた不正行為の内容は,S社のCEO がS社においてペーパー・カンパニーに対し架空発注を行い,そのペーパー・カンパニーを通じて,自らに資金還流させ,不正に利得を得ていたというものであり,その金額はP社グループにとって重要性がある。」という点を上手に引用できれば、虚偽表示の質や金額的影響を評価しやすかったかもですね(もちろん当時の私にそんな余裕があるはずもなく…)
問題2 問1
【問題文】監査人Xは,P社の求めに応じ,P社の訂正後の連結財務諸表の監査業務を新たに受嘱することを検討している。この場合における監査人Xのとるべき対応を説明しなさい。
(1)問題文を分析する
監査業務を新たに受託する場合の対応ですね。監査法人側で何かしらの手続が必要になるようなので、監基報の出番ですね。
(2)状況を整理する
【状況2】を見ると、以下の事実が認められたようです。
結局S社以外において同様の不正は見つからなかったものの、本件不正の背景として「P社からの業績達成のプレッシャーがあり,S社の CEO は業績達成の見返りを得ることを正当化するとともに,それが許される立場にあった」
P社やばいですね、親会社ハラスメントです(?)。
なんとなく方向性は見えましたね。P社はS社の不正の一因となっていたことが判明しましたが、監査法人としてそんなP社と契約を継続してもよいのでしょうか。ようするに、「P社がやばいやつのままだったら契約を締結するべきではないから、心入れ替えたかどうかを調査するべき」という感じになりそうです。
(3)監基報を参照する
どの監基報が参考になりそうでしょうかね。
どの監基報を引けばいいのかがわからない場合は、どういう規定を探したいのかという点を具体的にイメージすると上手く探せることがあります。
本問では、監査契約更新の前にP社について調査するための規定を探しています。なぜP社について調査する必要があるのかというと、前述のように「P社がやばいやつ」だからです。監査法人は監査契約の前に経営者の誠実性とかチェックする的なこと学びましたよね。本問では品質管理基準が関係しそうです。
品質管理基準はあまり見たことがないので、とりあえず監基報の品質管理基準を一から読みます。パワープレーです。
すると、25項(改訂後30項)から契約の締結及び更新という章が設けられているのが見つかりました。F26-2項(改訂後F30-2項)が関連しそうです。
F30-2JP.監査事務所は、監査契約の新規の締結及び更新の判断に関する方針及び手続に、不正リス クを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価すること、並びに、当該評価の妥当性について、新規の締結時、及び更新時はリスクの程度に応じて、監査チーム外の適切な部署又は者により検討することを含めなければならない。(FA68-2JP項参照)
また、当該項で引用している適用指針FA17-2項(改訂後FA68-2JP項)では、やはり「関与先の誠実性に関する理解」も大事とのことです。
FA68-2JP.監査契約の新規の締結及び更新の判断における不正リスクの考慮には、関与先の誠実性に関する理解が含まれる。 また、監査契約の新規の締結及び更新に伴うリスク評価の妥当性を検討する監査チーム外の適切な者には、例えば、審査担当者などが該当する。
「関与先」というものがよくわからないのですが、とりあえず経営者に置き換え、「子会社に圧力をかけるようなP社経営者の誠実性に関して、経営者の交代等の措置がなされているかも調査する」とか適当に入れてもよいかもです。
これらを良い感じにまとめたらいけそうですね。
(4)小括
問題1が難しかったことから、この問題は正答したいですね。特に「とるべき対応」の問題は監基報を写すだけでという場合が多いので、監基報を引ければ勝ちです。
監基報の引き方について、先ほども述べましたが、詳述します。監基報から初見の規定を探したい場合、「どんな規定を探したいのか」を先にイメージすると探しやすいです。
なぜでしょう?監基報を「作成する立場」になってみましょう。監基報というものは、「こんな規定が欲しいな」という実務上の要望を織り込んで作られています。つまり、監基報に存在するすべての規定は、実務上の要望をもとに作られています(もちろん理想論ですが)。そのため、「こんな規定があったらいいな」と思ったら、だいたいあります。あとは、その規定がどんなところにあるのかを考えるだけです。
逆に、ダメな探し方としては、明確な規定のイメージをしないまま探し始めることです。本問に即して言えば、「監査業務を受託する際にとるべき対応」を探そうという頭で監基報を眺めることです。勘のいい人は品質管理基準にたどり着けるかもしれませんが、監基報210「監査業務の契約条件の合意」の森に迷い込んでしまう可能性もあります。きちんと「P社がやばいやつかどうか調査する規定」を探しに行きましょう。
だいぶ雑な説明となってしまいましたが、法律の条文も同じです。「こんな請求権の規定がほしい」「こんな取引の規定がほしい」と具体的にイメージできたら、法令や条文は探せます、多分。
問題2 問2
【問題文】監査人Xは,訂正後の連結財務諸表の監査業務を受嘱した。訂正後の連結財務諸表の監査を実施するに当たり,P社の第三者委員会の調査結果を利用する場合における監査人Xのとるべき対応を説明しなさい。
(1)問題文を分析する
P社の第三者委員会の調査結果を利用する場合の手続が問われていますね。「とるべき対応」の問題なので、監基報引ければ勝てそうですよね。
⑵状況を整理する
第三者委員会の調査結果と言われたら、真っ先に思い浮かぶのは専門家の業務の利用の規定です(第三者委員会は専門家によって組織されています)。たしか、専門家の適性とかいろいろ調べるんでしたよね。
ただし、本問において、その専門家を選んだのはP社です。P社の選んだ専門家が、P社グループの不正を調査する、という点は違和感ありませんか?第三者性(独立性)は十分に確保されているんでしょうか?(まあ実務上はよくある話なんですが…)
見えてきましたね。P社の組織した第三者委員会の調査結果を監査証拠として用いる場合には、やはり上記の専門家としての適性のほかに、「P社と専門家との間に癒着とかないの?」という点を疑った方が良さそうです。「P社と専門家との間に癒着とかないの?」という点を調査する規定が欲しいですね。
⑶監基報を探す
とりあえず専門家の業務の利用に関する監基報620を一から読んでみます。私たちが監査論で学ぶいわゆる「専門家の業務の利用」は監査人が選任した専門家の場合の話ですが、もしかしたら企業が選任した専門家に関する話もここに書いてあるかもしれません…
と思うのもつかの間、2項⑵において、経営者の利用する専門家の話は監査証拠に関する監基報500ですよと記載されています。
(2) 企業が財務諸表を作成するに当たって、会計や監査以外の分野において専門知 識を有する個人又は組織の業務を利用する場合の当該専門知識を有する個人又は組織(経営者の利用する専門家)の業務を監査人が利用する場合(これは、監査基準委員会報告書500「監査証拠」のA34項からA48項で取り扱う。)
ご丁寧に適用指針の項まで書いてくれてるので、言われたとおり監基報500の適用指針A34~A48項までを読んでみます。すると、以下の規定を見つけました。
A35.監査証拠として利用する情報が経営者の利用する専門家の業務により作成された場合、第7項の規定が適用される。
適用指針から要求事項に飛ぶのは珍しいですが、7項を見てみます。
7.監査人は、監査証拠として利用する情報が経営者の利用する専門家の業務により作成されている場合には、監査人の目的に照らして当該専門家の業務の重要性を考慮して、必要な範囲で以下の手続を実施しなければならない。(A34項からA36項参 照) (1) 経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性を評価すること(A37項からA43項参照) (2) 経営者の利用する専門家の業務を理解すること(A44項からA47項参照) (3) 経営者の利用する専門家の業務について、監査証拠としての適切性を関連するアサーションに照らして評価すること(A48項参照)
やはり経営者の利用する専門家の客観性の判断が必要となりそうですね。これを良い感じに抜粋すれば良さそうです。
(4)小括
専門家の業務の利用に関してはみなさん詳しいかと思います。ここで大事なのは、いわゆる「専門家の業務の利用」で利用される専門家は、監査人が選び、雇った専門家ということを理解しているか、という点に尽きます。そして、経営者が雇った専門家の業務を利用する場合、監査人が雇った専門家の業務を利用する場合と比較して、どのような問題が生じるのかを考えます。「経営者が雇った専門家だったら、経営者と専門家との間で癒着がある可能性があるよなぁ」と想起できれば、専門家の客観性を調査しなければならない、という具体的なイメージにたどり着きます。
監査論を学ぶ際には、その規定が前提とする状況をきちんと理解したいですね。
※ちなみに、最後の問題は何もわからず白紙だったため割愛。
4.終わりに
疲れたので、追記事項あればいつかここに追記します。
監基報を引ければ理論問題・事例問題問わず最低限の答案は作れるよ、ということを伝えられれば幸甚です。
もちろん暗記した方が早いです。しかし、監査論にリソースを避けない人も多いと思いますし、なにより実務にいったら監基報を自ら引く能力は必ず必要になります。今のうちに監基報を上手く使えるようになっておいて損はないです。
また、監基報を引く練習をするなら、その点注意してください。これまでを見てのとおり、「監基報を引く前に」どれだけ状況理解ができるかが重要です。監基報をむやみやたらに引いても上手くなりません。
監基報、法律、会計基準とは末永く仲良くしてあげてください。
頑張れ!
おわり
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