自己紹介/夜の声
僕は、許してもらえなかったことがない。
忘れ物や無くしものが多くても、課題未提出者が居残る中で残らなくても、再試を受けなくても、怒られなかったし、「次からね」と許してもらっていた。
ろくに練習をせず不完全な状態で迎えたアンサンブルの発表会で適当に誤魔化して弾いた時も、友達が主役のコンクールでどうしようもないくらい間違えた時も、作曲のコンサートなのに即興で終えた時も。
私立高校からエスカレーターで受験した私立大学には一度も通わず、中退したいと言った時、親は反対しなかった。それから入学した専門学校はほとんど欠席して、評価のつけようがないのに、成績通知書には当たり障りないアルファベットが並んでいた。卒制を出さなかったのに、卒業させてもらえた。
僕がお世話するからと言い張って飼った生き物は母が世話をした。
待ち合わせの時間にはいつも間に合わなかった。
学校や家での決まりごとも、頼まれごとも、友人との約束も、自分の言ったことも、守らなければ覚えてさえいなかった。
最後は全部、許してもらっていた。
嫌なことや都合の悪いことから逃げて責任を放棄しても咎められなかった。
僕は、みんなが僕を許す理由をわかっていた。
学校も習い事も、趣味も人間関係も、僕の人生だから、誰にも関係ないことだから。
わかっていたから、僕は許してもらっていたんだ。
僕はずっと無気力で、なにもかも面倒で、いつも漠然と、僕の人生を生きるのが嫌だった。
その場凌ぎをすること、嘘をつくことをなんとも思わなかった。
この人生から逃げられたら良かった。逃げて、どうにかなればよかった。どうにかなりたかった。いつでも、逃げた先で上手くことを期待していた。逃げた先で始まるのだと、始められるのだと思っていた。逃げた先に、僕の人生ではない他の人生があってほしいと願っていた。
僕の人生ではありえないような他人の成功が、今すぐ欲しかった。
今もずっと
今年で24になる。
何もかもが自分のせいなのが明らかな、どうしようもない人生を、これからも続けるつもりなのか。
変わらなくてはいけない、助かりたいと思うのに、積み重ねた過ちに追い詰められるだけの現実や、歪んだやり場のない気持ちと向き合うために必要な自信や強さは何一つも持っていない。
何もない。
何もしなかった。
何もできなかった。
何も成し遂げられなかった。
何もないから逃げてきた。