Kintoneを使ったDXで高知の農家が年収1000万円を達成するには
高知県が推進する「IoP(Internet of Plants)」プロジェクトは、農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の先進的な事例として注目を集めています。このプロジェクトにさらに、Kintoneのような柔軟なプラットフォームを活用することで、農家の収益性を向上させる可能性があると考えています。
IoPプロジェクトの概要と最新の展開
高知県は2018年から「もっと楽しく!もっと楽に!もっと儲かる!農業へ」をモットーに、IoPプロジェクトを推進しています。このプロジェクトは、植物の生育環境をデータ化し、インターネットを通じて管理・制御するシステムを構築することを目指しています。高知大学などとの産学官連携により、経験と勘に頼る従来の農業から、データに基づき判断し管理する農業への転換を図っています。
最新の展開として、2024年2月20日に東京都内で開催された「IoPプロジェクト国際シンポジウム~農業DXの現状と未来~」において、濵田省司高知県知事が農業データ共有基盤「SAWACHI」を中心としたIoPプロジェクトをさらに進める意向を示しました。また、同日にIoPプロジェクトが内閣府の地方大学・地域産業創生交付金「展開枠」への採択の内示を受けたことが明らかになりました。これにより、事業の加速、強化、拡大へ今後さらに国費が投入される計画となっています。
高知県は、83.4%が森林におおわれており、森林面積率が全国一です。逆に耕地面積率はわずか0.6%と非常に限られています。この少ない耕地で収益を上げるために生産性向上に注力した結果、水稲を除いた1ha当たりの農業生産額は全国で断トツの1位となっています。1ha当たり約640万円で、2位の山梨県(548万円)、3位の和歌山県(427万円)を大きく引き離しています。
オランダ技術の活用
高知県の園芸農業の生産性を大きく向上させるきっかけとなったのは、2009年にオランダのウェストラント市と締結した「友好園芸農業協定」です。オランダとの交流で高知県の農業関係者が得た重要な気付きは以下の2点です:
データに基づく環境制御:温度、湿度、CO2濃度などの環境データを計測し、データに基づく環境制御を徹底する。
IPM技術の有用性:天敵昆虫などを利用した総合的病害虫管理(IPM)技術を導入し、殺虫剤の使用を減らしながら高品質な野菜を生産する。
これらの技術を高知県の環境に合わせてアレンジし、導入することで生産性の向上を実現しています。
SAWACHIの導入と効果
2022年9月から、高知県は農業データ連携基盤IoPクラウド「SAWACHI」の本格運用を開始しました。SAWACHIは、生産現場のデータをリアルタイムで蓄積し、生産者や指導員が活用できるシステムです。
SAWACHIは、以下のような機能を提供しています:
出荷実績確認機能
全国市況チェック機能
SAWACHIニュース
局地気象チェック機能
環境データモニタリング機能
警報機能
これらの機能により、農家は効率的な栽培管理を行うことができ、収量の増加や品質の向上につながっています。
IoPがもたらす成果
IoPの導入により、以下のような成果が得られています:
生産性の向上:SAWACHIを利用した施設園芸農家の出荷量が、使っていない農家より最大5割程度多くなっています。
品質の安定
労働時間の削減
データ駆動型農業の実現
若手農業者の増加
持続可能な農業の実現
特筆すべきは、一部の農家では年収1000万円を超える成果を上げていることです。高知県の試算によると、SAWACHIを最大限活用している農家の所得は、従来の農家と比較して大幅に増加しています。具体的には、以下のような結果が報告されています:
ピーマン(平均面積30アール):従来の農家の所得が809万円に対し、SAWACHIを最大限活用している農家は1333万円
シシトウ(同15アール):646万円に対し1050万円
ミョウガ(同25アール):807万円に対し1174万円
Kintoneを活用したDXのアイデア
Kintoneは、サイボウズ社が提供する業務改善プラットフォームで、農業分野でも活用が進んでいます。Kintoneを使用することで、以下のような機能を実装し、SAWACHIと連携しつつ、より詳細な農場運営の管理が可能になります:
シフト管理:季節労働者や臨時スタッフを含む人員配置の最適化
生産管理:作物の生育状況、収穫予測、在庫管理などの一元化
作業工数管理:各作業にかかる時間と人員の記録、分析
顧客管理:取引先や直売所の顧客情報の管理
販売管理:出荷情報、売上管理、請求書発行の自動化
品質管理:収穫物の品質データの記録と分析
設備管理:農業機械や施設の保守スケジュール管理
これらの機能をKintoneで実装することで、農家は日々の業務をより効率的に管理し、データに基づいた意思決定を行うことができます。さらに、Kintoneの柔軟なカスタマイズ性を活かし、各農家の特性に合わせたアプリケーションを開発することも可能です。
製造業での成功事例から学ぶ
kintoneは製造業でも広く活用されており、その成功事例から農業分野での応用のヒントを得ることができます。以下の事例は、農業分野にも適用可能な貴重な洞察を提供しています:
基幹業務の一元管理:ある製造業企業では、商談、見積、受注、出荷、請求という工程ごとにアプリを作成し、kintoneで一元管理しています。これにより、「Excelファイルのバージョン管理問題」が解決され、発注ミスや製造ミスが減少しました。農業でも、作付けから出荷までの一連のプロセスを同様に管理できます。
業務進捗の可視化:別の企業では、受注から請求まで管理できる販売管理アプリをkintoneで作成し、部署間の進捗管理と情報共有を徹底しました。その結果、正確な納期回答や短納期の実現、余分な在庫の削減が可能になりました。農業でも、栽培から販売までの進捗を可視化することで、効率的な経営が可能になります。
モバイル活用:FAXで受信した図面をkintone上にアップロードし、iPadで確認できるようにした企業もあります。これにより、FAX確認のためだけに帰社する必要がなくなりました。農業でも、圃場でのデータ入力や確認にモバイルデバイスを活用することで、作業効率を大幅に向上させることができます。
負荷分散と多重入力の解消:ある企業では、見積から出荷までのステータスを把握できるプロジェクト管理アプリを作成し、受注時に使用予定在庫を引き当てる機能を実装しました。これにより、予想外の作業による残業を削減し、多重入力の手間を解消しました。農業でも、作付け計画から収穫、出荷までを一元管理することで、同様の効果が期待できます。
これらの事例から、kintoneを活用することで、部門間の情報共有や進捗把握が容易になり、会社全体の業務効率化につながることがわかります。農業分野でも、栽培部門と販売部門の連携強化など、同様の効果が期待できます。
今後の展望
高知県のIoPプロジェクトの成功を受けて、全国から注目が集まっています。濵田知事の発表によると、現在、全国13の自治体がSAWACHIの利用に向けて関心を示しています。今後の展開として、以下の点が挙げられています:
自治体間の連携を深め、構築したIoPクラウド(SAWACHI)のシステムを全国展開すること。特に北海道や九州各地との連携が検討されています。
IoPクラウド(SAWACHI)を他の産業にも利用できるようにプラットフォーム化を進めること。
GX(グリーントランスフォーメーション)with IoPという脱炭素化に向けた取り組みを推進すること。
AIやビッグデータ解析技術の導入により、より精度の高い予測と意思決定支援を実現すること。
ブロックチェーン技術を活用した生産履歴の透明化と信頼性の向上。
システムの維持・管理、関連機器やサービス・アプリの開発を進める県内産業の拡大。
さらに、高知県ではSAWACHIの運用に加えて、生産者が提供した作物の生育データや出荷データなどを分析・診断し、生産性や収益性の向上に結び付ける「データ駆動型」営農指導体制の構築も始めています。これにより、農業普及指導員の役割がより重要になっていくと予想されています。
結論
高知県のIoPプロジェクトは、農業におけるDXの先駆的な例です。KintoneやSAWACHIのような先進的なシステムを活用することで、農家は生産性を向上させ、年収1000万円も現実的な目標として捉えることができます。ただし、成功のためには技術の導入だけでなく、データを活用する能力や新しい農業手法への適応力も重要です。
農業のデジタル化は、単に収入を増やすだけでなく、持続可能で魅力的な産業としての農業の未来を切り開く鍵となります。これらのシステムの導入と活用が、日本の農業の競争力強化と農家の所得向上に大きく貢献することが期待されます。さらに、こうした取り組みは、食料安全保障の強化や地域経済の活性化にも寄与し、日本の農業全体の発展につながる可能性を秘めています。
参考文献
高知県農業振興部 農業イノベーション推進課 (アクセス日: 2024-08-06)
IoPクラウド(SAWACHI) (アクセス日: 2024-08-06)
もっと楽しく!もっと楽に!もっと儲かる!農業へIoPクラウド「SAWACHI」でデータ駆動型農業の普及に挑戦する高知県 (アクセス日: 2024-08-06)
業務改善を『kintone』で行うDX推進術 (アクセス日: 2024-08-06)
【ここに注目!IoT先進企業訪問記】第80回 オランダ技術の活用で断トツの生産性を実現した高知県の園芸農業 (アクセス日: 2024-08-06)
ピーマン農家の所得1000万円も 高知、DXで出荷1.5倍 (アクセス日: 2024-08-06)
kintone導入支援・開発 | 株式会社ゼンク (アクセス日: 2024-08-06)
高知発の農業データ活用システム「SAWACHI」、全国へ プロジェクトへの国の支援延長 (アクセス日: 2024-08-06)
年収1000万農家も誕生した高知県のIoPがすごい (アクセス日: 2024-08-06)