見出し画像

年収1000万農家も誕生した高知県のIoPがすごい

高知県が推進する「IoP(Internet of Plants)」プロジェクトが、農業界に革新をもたらしています。このプロジェクトは、最新のテクノロジーを活用して農業の生産性と収益性を向上させることを目指しており、その成果として年収1000万円を超える農家も誕生しています。

IoPとは

IoPは、植物の生育環境をデータ化し、インターネットを通じて管理・制御するシステムです。高知大学のIoP共創センターによると、IoPは「作物の生産を決定づける生理生態情報を『見える化』し、合理的な営農支援情報として『使える化』し、それらの情報を産地で『共有化』する仕組み」と説明されています。センサーやAI技術を駆使して、温度、湿度、日照量、土壌の状態などを常時モニタリングし、最適な栽培環境を維持します。高知県では、「もっと楽しく!もっと楽に!もっと儲かる!農業へ」をモットーに、2018年からIoPプロジェクトを進めています。

高知県の取り組み

高知県は、IoPを活用した「Next次世代型施設園芸農業」を推進しています。この取り組みにより、以下のような成果が得られています:

  1. 生産性の向上:従来の方法と比べて、収穫量が20〜30%増加

  2. 品質の安定:環境制御により、年間を通じて高品質な農産物の生産が可能に

  3. 労働時間の削減:自動化により、作業時間が約30%削減

高知県は83.4%が森林におおわれており、森林面積率が全国一です。逆に耕地面積率はわずか0.6%となっています。この少ない耕地で収益を上げるために生産性向上に注力した結果、水稲を除いた1ha当たりの農業生産額は全国で断トツの1位となっています。1ha当たり約640万円で、2位の山梨県(548万円)、3位の和歌山県(427万円)を大きく引き離しています。

オランダ技術の活用

高知県の園芸農業の生産性を大きく向上させるきっかけとなったのは、2009年にオランダのウェストラント市と締結した「友好園芸農業協定」です。オランダとの交流で高知県の農業関係者が得たのは、生産性向上につながる重要な気付きでした:

  1. データに基づく環境制御:温度、湿度、CO2濃度などの環境データを計測し、データに基づく環境制御を徹底

  2. IPM技術の有用性:天敵昆虫などを利用した総合的病害虫管理技術の導入

これらの技術を高知県の環境に合わせてアレンジし、導入することで大きな成果を上げています。

IoPクラウド(SAWACHI)の本格運用

高知県は2022年9月21日に、農業データ連携基盤IoPクラウド「SAWACHI」の本格運用を開始しました。SAWACHIは、生産現場であるハウス内の温度、湿度、CO2濃度、カメラ画像、機器の稼働データ、それからJA高知県が持っている日々の農作物出荷量や等階級などのデータがリアルタイムでアップロードされ、時系列的に整理された形でクラウド上に蓄積されます。

SAWACHIの主な特徴は以下の通りです:

  • スマートフォンやパソコンからログインし、圃場環境データを簡単に確認可能

  • メーカーや機種によらず、SAWACHIとの連携設定ができる測定機器が対象

  • 出荷量や気象など、営農に関連する様々な情報を一括確認可能

  • 環境データモニタリング機能:ハウス内の温度、湿度、炭酸ガス濃度などを表示

  • 警報機能:ハウス内環境が異常となった時に、警報・緊急連絡メールで通知

データ駆動型営農指導体制の構築

高知県ではSAWACHIの運用に加えて、生産者が提供した作物の生育データや出荷データなどを分析・診断し、生産性や収益性の向上に結び付ける「データ駆動型」営農指導体制の構築も始めています。これにより、より効果的な農業経営が可能になると期待されています。

年収1000万円農家の実現

IoPの導入により、一部の農家では年収1000万円を超える成果を上げています。これは、農業の平均年収と比較すると非常に高い水準です。

最新の統計によると、農業の平均年収は個人経営で約331万円、法人経営で約450万円となっています。この数字と比較すると、年収1000万円を達成している農家がいかに優れた成果を上げているかがわかります。

年収1000万円農家の共通点

年収1000万円以上を稼ぐ農家には、いくつかの共通点があることが分かっています:

  1. 消費者への直販:直売所やネット販売、スーパーへの直接卸など、利益率の高い販路を活用しています。

  2. 積極的な挑戦:加工品の開発、クラウドファンディングの実施、メディア出演など、新しい取り組みに積極的です。

  3. データ駆動型農業:IoPなどの先端技術を活用し、科学的なデータに基づいた農業を実践しています。

  4. 品質と生産性の向上:環境制御技術を駆使して、高品質な農産物を効率的に生産しています。

これらの要素を組み合わせることで、従来の農業の概念を超えた高収益を実現しています。

IoPがもたらす変革

IoPの導入は、単に収入を増やすだけでなく、農業のあり方自体を変えつつあります:

  1. データ駆動型農業:勘や経験だけでなく、科学的なデータに基づいた農業が可能に

  2. 若手農業者の増加:先端技術の活用により、若い世代の農業への関心が高まる

  3. 持続可能な農業:資源の効率的な利用により、環境負荷の低減にも貢献

  4. 産学官連携:SAWACHIのデータは、県の普及員やJAの指導員による営農支援、研究機関による製品開発にも活用

今後の展望

高知県のIoPの成功例は、日本の農業の未来を示唆しています。2024年2月に開催された「IoPプロジェクト国際シンポジウム」で、濵田省司高知県知事は今後の展開について以下のような方針を示しました:

  1. 自治体間の連携を深め、構築したIoPクラウド(SAWACHI)のシステムを全国展開すること

  2. IoPクラウド(SAWACHI)を他の産業にも利用できるようにプラットフォーム化を進めること

  3. GX(グリーントランスフォーメーション)with IoPという脱炭素化に向けた取り組みを推進すること

  4. システムの維持・管理、関連機器やサービス・アプリの開発を進める県内産業の拡大

さらに、IoPプロジェクトが内閣府の地方大学・地域産業創生交付金「展開枠」への採択の内示を受けたことが明らかになり、今後さらに国費が投入される計画となっています。これにより、北海道や九州各地との連携も視野に入れた展開が期待されています。

これらの取り組みにより、高知県の農業はさらなる発展を遂げ、他の地域のモデルケースとなることが期待されます。

農業はもはや「3K(きつい・汚い・危険)」の仕事ではありません。IoPのような先端技術を活用することで、魅力的でやりがいのある職業として再評価されつつあります。高知県の取り組みは、日本の農業の明るい未来を示す先駆的な例と言えるでしょう。

参考文献

  1. もっと楽しく!もっと楽に!もっと儲かる!農業へIoPクラウド「SAWACHI」でデータ駆動型農業の普及に挑戦する高知県 (アクセス日: 2024-07-22)

  2. 高知県 IoP(Internet of Plants)が創る「Next次世代型施設園芸農業」 (アクセス日: 2024-07-22)

  3. 高知県のIoPクラウド(SAWACHI)の利用農家数が1,000戸を突破 (アクセス日: 2024-07-22)

  4. 農業の年収はいくら?年収1000万円は可能? 農家の平均年収や作物別の収益を調べてみた (アクセス日: 2024-07-22)

  5. 農林水産省:農業経営統計調査 (アクセス日: 2024-07-22)

  6. 高知発の農業データ活用システム「SAWACHI」、全国へ プロジェクトへの国の支援延長 (アクセス日: 2024-07-22)

  7. 農家さんで年収1000万以上稼ぐ事例と共通点2つ【稼ぎたいなら】 (アクセス日: 2024-07-22)

  8. IoPクラウド「SAWACHI」本格運用開始セレモニー – IoPが導くNext次世代型施設園芸農業への進化プロジェクト (アクセス日: 2024-07-22)

  9. 【ここに注目!IoT先進企業訪問記】第80回 オランダ技術の活用で断トツの生産性を実現した高知県の園芸農業 (アクセス日: 2024-07-22)

いいなと思ったら応援しよう!