第3夜  ここを見てほしい!町と住宅の関係 TOPIC4|街のリビングスペースとなる建築を目指して(伊藤州平さん/81A-)

この記事は、よなよなzoom#3 「ここを見てほしい!町と住宅の関係(2020年4月25日(土))」でのプレゼン内容です。

街のリビングスペースとなる建築を目指して

私は2017年に「81A-」という設計事務所を設立し、それまでは9年間Catにいました。左側が軽井沢に竣工した高校のホールで、右が埼玉県で竣工した住宅です。今日は、後者の住宅作品をベースにお話をし、それに伴って他の建築家の作品についてもお話したいと思います。

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私は「住宅」という言葉にすこし堅苦しいイメージをもっていました。設計者とクライアント=日常的なユーザーとの限定的な関係で出来ていような感覚です。
一方で、私が学生の時、せんだいメディアテーク(2001年)、安中アートフォーラム(2003年)のコンペがあり、その時から「都市のリビングスペース」という言葉をよく聞くようになりました。その後現在に至るまで、図書館や美術館、公民館、学校、庁舎など公共施設で、日常を過ごすことができるプログラムがどのように含まれてくるかを考える建築が増えているような印象があります。そういった「街と日常生活の豊かな関係に建築が貢献していく」ということにこれからの建築の未来を感じる部分があると考えています。都心部は地価が高いので、今後は、公共のリビングスペースに機能依存しながら住まいが物理的にも機能的にも極小化していくというケースも増えてきていると思います。

街のリビングスペース

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今日紹介するのは「日清での立ち方 Case in Nisshin」というプロジェクトです。これは個人のための住宅ではあるのですが「街につながる、敷地全体が一つのリビングスペース」として成り立つ建ち方を考えた住宅です。
敷地はさいたま市北区、日進駅から300mぐらいのところにあります。6mと交通量の多く歩道がない道路と4m未満の私道に挟まれた敷地です。
敷地が447m²とこのあたりでは大きな敷地ですので、敷地全体で過ごすための建築の在り方を考えることで、街との関係がそのまま建築になるのではないかと考えました。「街のリビングスペース」は、誰しもが使えるという意味ではなく、個人的な要望や条件よりも敷地や周辺の状況に対して心地よく過ごすことができる敷地と建築の関係、という意味になります。

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平面的には、10枚の壁を並べて建てるという図式です。壁の長さ・配置は、2つの道との関係と採光から決定されています。敷地全体の場所をつないでいくように間隔を調整して壁を配置することで、壁が領域を囲むのではなく、壁の周りに場所ができて敷地全体に住まいの場所ができるというようなことを考えています。

視線の広がりと外への認識 -葉山の小屋・土橋邸・原広司自邸-
ここで、妹島和世さんの「葉山の小屋」を紹介したいと思います。この建築は断面操作が素晴らしいです。まず、外から見ると3層に見えますが、階高が5mくらいあり、2層となっています。1階にいると外にある煉瓦の壁に視線が行き、敷地の外まで平面的な広がりを感じます。2階のスラブの上下に1500㎜ずつの垂れ壁と腰壁があり、2階に向かって階段を昇っていくと途中から建築にすぽっと入っていくような状況になります。階段を上がりきると腰壁から頭がでてくるので、また外に視界が抜け、海にまで広がっていくというようになっています。敷地との関係が簡単な図式でトライされていて、感覚としてはすごくいろいろな広がりをつくっているという断面構成が素晴らしいと思います。

妹島和世さんの「土橋邸」も私の好きな建築です。ドーナツ状の回廊を持つ、東京都内の狭小地住宅です。吹き抜けが斜めに上がりながらも平面的に反転している状態がおきていて、敷地境界に対しギリギリに建っていますが外に広がっていく。さらに階高が2000㎜くらいしかなく5層つながっていますが実際には3階建てなのです。2000㎜という階高で吹き抜けを意識しなければいけない状況とし、縦の認識がつながっていくのですが、その圧迫感が吹き抜けたときの平面の反転が起きているように感じるということが面白いと思います。

次に紹介するのが原広司さんの自邸です。各個室が背中を向けていて裏返しているような状況が、位相的な反転が起きています。「見えない、行けないという状況と同時に、イメージで外を認識することで感覚が広がっていく」というような設計になっています。

位相的反転と場所の連なり
それでは自作のプランの話に戻ります。敷地の境界に対して壁の周りに場所ができていき、居場所がチェーン状につながっていくということがつくれないか、位相的反転のように自分の今いる場所が外側のにも連なることで、次に行く場所が常に感じられるような効果があると考えました。

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これは実際の写真です。右奥に居場所があってそれが左の空間にもつながっています。壁によって仕切られながらもつながっていく感覚が連続していくことで場所の領域がどんどん広がっていきます。本作を通して、内側から外にストレートにぬけるというより壁を介して戻ってくるような感覚を発見しました。

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小さな子が左の場所で1人遊んでいて、右の空間にご飯を食べるところがありおやつを食られるといった関係性が、壁を介し形成されることが面白いと考えています。

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外観には3角形のヴォリュームが乗っていますが、床をはっていないので行くことはできません。壁の高さが2650㎜なので頭を出すこともできません。壁で横方向に隔てられている中、音や気配を上部から感じさせるような状況をうんでいます。

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以上のようにこの建築では、敷地と建築が持つ図式のようなものが建築の中で終わらないように配慮しています。敷地との関係で建築の図式が形成され、敷地全体に街のリビングスペースがあるという感覚が得られる住宅を考えました。


編集:服部琴音(名城大学3年)、佐藤布武


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