第7夜・自らも作る建築家 TOPIC4|多国籍のコラボレーションで建築を考える(佐藤直樹/如是アトリエ)
夜も更けてきましたので、サクサクといきますね。佐藤です。よろしくお願いします。
こちらは2019年度のスタッフで、真ん中が妻です。妻は中国から日本に留学してきた経緯を持つのですが、同じく中国から日本にきた留学生で、大学に入る前に日本語学校に通っている学生が、アルバイトスタッフとして協力してくれています。海外から日本にきた留学生が多く集まる、多国籍な体制で事務所を運営しています。当初は主にインテリアの仕事が多かったのですが、2019年のプロジェクトを境に、大きな建築に携わるような機会が増えてきました。
©如是アトリエ
SHENTANGHONGMEI
こちらは中国旧満州の瀋陽市のプロジェクトで、AAarchitectsと共同で設計した作品になります。調味料を生産する国営工場が経営破綻して使われなくなった土地ををディベロッパーが買収し、エリア一体を開発したもので、そのうちの4棟を担当しました。今日は、#2(中央)を紹介しますね。
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こちらは我々が担当した建物#2の南側のファサード写真です。現地調査が2018年11月、竣工が2019年10月の、すごくタイトなスケジュールの中で計10棟の設計を進めたうちの一つになります。
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プログラムが決まっていない状況でしたのでプログラムを考えつつ、既存の工場状態を残しながらも中身をどう変えるのかを検討しました。最終的にはショップが入りました。バシリカの中にどのように光を差し込むかというイメージで検討を重ねました。
©如是アトリエ
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既存の朽ちゆく状態の構造体を修繕し、塔屋を灯台と見立ててプロフィリットガラスのタワーをたて、トップライトを落とし込んでいくような設計をしました。当初新築等が南側に建築される計画でしたので広場を介しての呼応を意識し、ボリュームを挿入しました。
面積500㎡高さ9mの空間に内包できるような都市のスケールからプロダクトまでのプログラムをスタディし、インテリア自体がその状況に呼応するようなことを意図しています
BOOK+FREITAG
続いて、2017年に上海にて店舗の改修を行ったプロジェクトです。「リサイクル」や「ローカリティー」、「偶然・必然の交差」といった切り口から、都市の歴史や形成にブランドが入りこむ、という極めて高度な企業戦略の下でのプロジェクトでした。
通りに対してブランドが二つ交差するようなショップを目指しました。周辺を調査しつつ、混在するようなあり方を目指したもの、というものを現しています。
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このプロジェクトでは、インテリアや素材、規模などの基本的条件を抑えた専属のショップデザイナーがいました。我々は既存建物の構造体と照らし合わせて、内部の空間の調整をする形で設計を進めていきました。 視線のつながりを持ちつつ動線では分けられている、上海の里弄(りろう)というメゾネット住居のような居住形態を参照しつつ内部空間を設計しています。
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SHENZHEN G.H.ART CENTER
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これは僕達の初めてのプロジェクトで、2016年に実施したものです。クライアントの意向はプ
ライベート美術館として彫刻や絵画を展示する空間を作ってほしい、という依頼でした。
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この作品を作る上で、部分と全体というデザインコードを考えました。その際に、Y字路という形が持つコンセプトを決め、部分的なデザインを考えるためのキーワードを16個を検討しました。
デザインを進めるための、そして、ディテールの決定につながる、道標のようなものです。僕はこれをフォーメーションと呼んでいますが、これを組むことで、全体の構成とディテールを行ったり来たりしながら、大文字のコンセプトに昇華させていくいような印象です。
野尻湖の旧プリンスホテルの改修
1984年竣工(設計:清家清)のホテルの設備・機械等の更新を実施設計で行っています。冬季営業もできる設備やバリアフリー対応などの設備更新をしつつ、それに付帯する内装の躯体工事があります。空間自体は、湖畔に向けた開口部などの清家さんの空間構成やコンセプトを守りながらも空間を設える、というような設計としています。
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このプロジェクトはスパ棟を新築したいとの要望がありましたので、その設計もしました。建物の高さを抑えつつ、周辺に配慮した設計としました。が、今、コロナもあって、スパ棟は残念ながら保留状態になっています。
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最後に、コンペ設計案を紹介します。なかなか取るのは難しいのですが、チャレンジを続けています。中国のコンペは規模が大きくスピーディーなものが多いのですが、プログラムの自由度が高いものもありますので、我々日本の建築設計事務所にもチャンスがあるのではないかと思っています。
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(以下全体ディスカッション)
廣岡|佐藤さんに初めてお会いした際に、「作ること」に対する情熱をお持ちなのかな、という印象を持ったのですが、今日はとっても建築家的というか、そういうプレゼンテーションでした。
佐藤|実は僕は施工現場出身なんです。事務所の作風は必ずしも僕の意志だけに帰結していませんが、「ものづくり」や「環境配慮」といったところへの感度は高いですね。
廣岡|中国のリノベーションと日本のリノベーションは違うなと思いながら聞いていました。中国では「残す」ことに対して、どういう思いがあるのでしょうか。過去のものが良いとして保存されているのですか。
佐藤|中国ならではのスピード感の影響はあります。僕が紹介したプロジェクトでは、元々保存建築物として残したいという話がありましたが、竣工というゴールに向かうエネルギーに乗っかるというように割り切って考え、クライアントの意向でレプリカ保存建築を作りました。
建物のレンガのモジュールを基準に再設計したのですが、当たり前の事ですが、既存時の曖昧な数値が明確になって設計はしやすかったです。
廣岡|指の話から都市までという話も面白かった。作ることの視点というより、モノに対する信頼があるように思いました。プロフィリットガラスのこともそうですし、どれもギリギリのディテールを狙っているように見えました。元々できているものや、ものができ上がる意図の読み解き、レンガのモジュールからの設計という話から、作ることに対しての精密さを感じました。あとは、僕と同世代で、ここまで大きなプロジェクトを個人のアトリエでやっている人がいないので、とにかく規模の大きさに驚きました。
佐藤|大きなプロジェクトに携わっていますが、その中で、プロジェクトに関わる上でのチーム力が大切だと痛感しています。現場監督時代に、建築を建てることに職人さんも現場監督も心持に違いはないのだということを学びました。ですので、私は建築家に関わる建築家というスタンスでいるようにしています。大文字の建築家の裏には、色んなスペシャリストとしての建築家がいると思うのです。技術者としても、次の時代の建築を創る立場としての所員さん、大工さん、現場監督さんと立場は違いますが、まだまだ教えてもらう事が多いと思います。
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編集:伊藤萌(名城大学3年)、佐藤布武