第10夜 TOPIC4|民間主導と行政支援による「まちづくり」(大山宗之さん/仙台市役所/転勤族チーム)

出身は埼玉県です。僕の父親は公務員ですが、父親の趣味で、実家の庭に家族みんなで竪穴住居を作ったことがありました。とても不思議な経験ですが、今ではいい思い出です。そんな父からは、「店で売っている商品を一回自分で作れるか考えて、作れなかったら買え」と言われて育ちました。
大学は東洋大学で藤村龍至研究室の一期生として建築を学び、建設コンサルト会社で5年間働いていました。そして、2年前に仙台市役所に転職して現在に至ります。

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ライフステージ別にみた関わった地域と活動
まずは自分が関わった地域に絡めて、これまでの活動のお話をしますね。大学までは地元の埼玉、東京あたりが活動の中心だったのですが、母方の実家が大船渡市で祖父が気仙大工だったこともあり、その後、徐々に東北との関わりも増えていきます。大学院時代にアーキエイドのメンバーとして石巻市を訪れ、社会人になると入社一年目から気仙沼市の復興事業に関わりました。その後、復興事業が少し落ち着いた頃、仙台市内で国連防災世界会議という防災の世界会議の第一回があり、それの業務もかねて仙台市に転勤しました。現在の業務では、リノベーションまちづくりやまちづくり協議会、エリアマネジメントの活動の効果的かつ持続的なあり方を、仕組みから検討しています。計画・営繕・都市計画の間を結んだ、町内の営業職みたいな立場で仕事をしているようなイメージです。
街の様々な情報を知っている街の営業職としての「転勤族チーム」

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2015年より仙台市に地下鉄東西線が開業しました。仙台市は、地下鉄ができる前に市民が関われる土壌を作ろうと、オンデザインの西田さんやライゾマの齋藤さんらと事業を推進していました。ちょうどその頃に仙台市に転勤してきたこともあり、面白そうだと思って応募したのがきっかけです。
仙台市は政令指定都市の一つで人口が108万人いますが、その内の2,3割が転勤族と言われています。転勤族は3~5年で街を移動するので地域コミュニティとのつながりができづらい状況にありました。一方、転勤族にヒアリングすると、みなさん馴染みの店を持っているものの、転勤族同士のコミュニティは形成されていないこともわかりました。また、馴染みの店のママさんからはボトルキープしても全然次来ないからボトルがすごく増えてしまうという意見も見られました。そこで、行きつけとなっている個人経営の居酒屋を認定してマップ化し、転勤族専用のシェアボトルを始めました。また、10月の毎週金曜日は転勤族の日として飲み歩くというのをずっとやっています。
他にも、仙台市のバスの無料貸し出し事業を利用した、キリンビール工場とゴミ処理場の見学をする転勤族限定のエコバスツアーの企画・実施などもしました。転勤族は実は、街の情報を知ろうとしている人も多いんです。転勤族チームの活動は、様々な情報を知っている、街の営業職のような存在であると思いました。

民間から行政へ。仕事を選んできた理由。

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ここで、なぜ僕が大学院進学から民間企業を経て行政に至った理由について、少し説明させてください。大学の卒業式の年がちょうど東日本大震災でした。東日本大震災に関連して多くの建築家が様々な関わり方を模索していましたが、自分の中では、建築家不要論がもう一度持ち上がったような感覚にも苛まれました。その後の建築分野では、リノベーションの普及に伴う“活用”や“稼ぐ”という概念の重要性が広まってきます。でも同時に、計画するのと稼ぐことの間が無いまま、コミュニティを介してリノベが重視されるという流れにも違和感を感じ始めました。そんな中、都市計画家と行政の間に入る“コンサル”という職能に魅力を感じ、建設コンサルタント会社に入社しました。
働いた結果、民間企業にも、いいところと悪いところがあるなぁ、と感じました。まず、色んな街について真剣に考えることができるのが建設コンサルタント業の良さだったと思います。同時に、最ももどかしさを感じたのが、9割にのぼる官公庁の業務が年度ごとに区切りを迎えること、まちづくりに対して単年度で従事することでした。また、業務の傍ら転勤族の活動をしていたら、行政の方から「転勤族ってどうせ地域に興味ないし土日とかまちづくり活動とかやらないでしょ。それなのにコミュニティ大事とか言わないで」と言われたこともありました。転勤族がネガティブに捉えられている状況を知り、制度から抜け落ちる部分で当事者として活動することが重要だと感じました。
こういった経験から、一つの街でまちづくりを見届けたいと思い、行政へ転職しました。



民間主導と行政支援による「まちづくり」
さて、ここからは仙台市で試みている内容です。簡単に言うと公共空間をどうやったら面白く使ってもらえるかという取り組みをしています。仙台市はインフラが碁盤の目のように綺麗に揃った戦災復興により街が再形成されています。現代は、そんな街をいよいよ使って行く段階に来たというところです。
例えばこの歩道を使ったマルシェイベントについてです。これを行政的な視点からみると、どう捉えられるのかをまとめると、以下のようになります。
・誰がそれをやっているのか
・後援名義があるか
・何を売っているのかから保健所の許可が必要なのかどうか
・歩道であれば道路管理者(行政)や交通管理者(警察)の許可を取らないといけない

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まちづくり活動は将来像に向かって何か実行して、それが日常的な風景になってその効果を得て行くことだと思っています。一方で、イベントは実行が優先され、日常化されず風景が変わらないことに問題があると考えています。80年代、90年代の高度経済成長期は行政が補助金を入れて場所を貸してイベント的にやればよかったんですけど、これからは財政も厳しくなっていきます。民間主導で推進しそれを行政が支援する体制が出来て行くのではないかと思います。
今年、コロナがいい意味で課題を与えてくれたとも思います。

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今年、歩道に出てテイクアウトで売って少しでも利益を上げないといけない状況が生まれました。行政は、この状況をどうしたら実現できるかを考え、コロナ以降も続いていくような、未来へ向けた動きにする必要があると思っています。
まちづくりは、短期的なイベントで人を集めないことが大前提になってきたと感じています。これからは、中長期的な視野をもち、徐々に慣れ親しんでいってどれくらい効果が出るのかを検証するというトライアンドエラーの蓄積が重要になってくると思います。まちづくり協議会と連携しながらどういう活用をすると売上がどれくらい出るのかという検証をして、実測化できればと考えています。

標準設計の向こう側
ものが出来上がって終わりじゃないと思うんです。行政も標準設計で作って終わりじゃなくて、その向こう側の「作りたかったけど諦めた部分」を、作ったあとも補っていかないといけないと思っています。
そのためには実験を重ねる必要があるのですが、仙台市のように組織が大きいとなかなか難しい部分もあります。まずは、自分でやれるところから実験しようと思い、「おばんデスク」を作りました。

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“おばんです”は宮城の方言で“こんばんは”という意味です。既存の木杭の上に塩ビ管をかぶせ、現場のアルミ板を使い、真ん中にソーラーパネルを入れた修景装置としてデザインしました。
屋外利用を促進するには、諸々の許可申請が面倒だというハードルがあると思っています。私は、同じ単純作業を3回行うような場面に遭遇したら、それは自動化した方がいいのではないかと思っています。なので、これまで分かりにくかった、申請を自動化するために、グーグルアンケートフォームに入力すると自動計算で出店可能エリアが出せるというのを、後輩と一緒に開発しました。今、最長20年占有できる歩行者利便性増進道路というのを国が考えていますが、この考え方はそれにも応用できるのではないかと企んでいます。支援ツールがあれば、出店したい人は、すでにどこに出店できるのかがわかるわけです。その上で、事業者がどう使いかだけを考えられるようになると街はもっと面白くなるのではないでしょうか。

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最後に

行政は作品としてものを発表することがない故に、どこかゴーストライター的な印象があります。でも、行政がいないと自治体は存続できません。自分が自治体という長い歴史のタイムラインの一部で何をやったか日々積み重ねて行くことが明日のモチベーションにつながるのではないでしょうか。私は、個人活動でできる範囲で実証を重ね、まちづくりに生かす小さなサイクルを作ることを面白いなと感じながら取り組んでいます。

(以下、ディスカッション)
廣岡|自分が社会を作っている実感があるからこそやられているというか、自分の街だから自分でやらなきゃといったように自ら実践されているということが一番すごいと思いました。現代は、富の再分配が結局何に使われているのかわからないというか、再分配されることでこういった意欲的なチャレンジが街をつくっていて循環していることに気づけない社会にいると感じています。そんな中で、声にならない声を拾い上げてさらに自分で物質化しているというのはすごいチャレンジだと思います。
佐藤|事例を作ることでしか未来は作れない部分はあって、作って行くことの重要性をとても感じますね。どんな信念に基づいて活動をしているのかというところをもう少しお聞きしたいです。
大山|再分配されたものがどう使われて、自分が投資したお金がどう効果を得ているのかをできるだけ分かりやすくしたいと思っています。特にまちづくりは効果が「賑わいづくり」っていうのが多くて、「賑わいって何だ」というところをもう少し因数分解したいなと思っています。そして、その一つがこういう形でもいいよね、というのをもう少し作っていきたいと思っています。あと、やったことに対して行政も民間も、ちゃんと相互評価する仕組みをつくりたいと思っていて、改善して次にどうなったかをずっと効果検証していきたいし、それを生活しながら検証できることを伝えたいですね。

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編集:佐野朱友那、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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