第9夜 TOPIC 2|ハイブリッドを軸に建築を考えること (伊藤維/伊藤維建築設計事務所)

私は「ハイブリッド」を軸に建築をつくることを試みています。何かと何かを組み合わせるという考え方はもちろんなのですが、1つのものの中に様々な意味や役割を見出すことができれば、それもハイブリッドと捉えることができます。その2つの視点から建築を作ることに挑戦しています。

画像1©伊藤維建築設計事務所

一対一対応の物事でできる建築よりもハイブリッドの建築は少ない要素で様々な関係を持つことができるのではないかと思います。そんな関係性を積み重ねることで建築が作られていくイメージです。

画像2©伊藤維建築設計事務所


「郊外空間」の生産|北越谷の住宅

画像3©奥田正治

北越谷の住宅は、プラン上は単純に見えるのですが、4*8版の平面を基盤としつつ、立面は3*6版のプロポーションとし、それにより多様な空間を創出することを目指した住宅です。そのときに、住宅に街との関係性を存在させられないかという試みもしています。経済性や施工合理性というもの以外に、近所を歩いて見える風景の断片もハイブリッドの中の触手として捉え、設計に反映させました。どこか北越谷の街との連動性を生めるといいな、と思うんです。快適で素敵な空間になることはもちろんですが、建築を構成している要素一つ一つが街の経験と連続していくことを考えました。

画像4©伊藤維建築設計事務所

U35の展示では、いろんな要素をどう構築したかの図面と、どんな空間が立ち現れたのか、街の中の風景の3点を同時に展示しました。

画像5図面:伊藤維建築設計事務所 写真:奥田正治

モノのハイブリッド|KOPPAシリーズ、夷川サローネ

北越谷の住宅にも現れていると思いますが、私自身、モノの関係性といったことに興味があります。マテリアルに向き合うようなプロジェクトが続いているのですが、いくつか紹介したいと思います。
「K O P P A」は、U-35の展示什器をつくるプロジェクトでした。展示什器を会期後に捨てるのはもったいないという思いから始まりました。展示後には家具に転用し、材料も大工現場で日々出ている端材を活用することにしました。 

画像6©伊藤維建築設計事務所

画像7©奥田正治

続いてのプロジェクト「旅するKOPPA」は、展示をみた方からお声がけいただきました。移動して組み立てられるデザイン求められ、スーツケース2個分までコンパクトにしたKOPPAをデザインしました。続いて同じお施主さんからイベントステージの依頼があり、ステージやプロジェクションができる仕様の、パブリックファーニチャーの寄せ集めのような可変性のあるデザインを行いました。

画像8 ©Toru Kurihara

「夷川サローネ」という美術館の企画展示プロジェクトでは、京都のある美術館で行っていた展覧会の端材を譲ってもらい、素材の組み替えでできるようなデザインをしました。スノコ状の部材を90度回転させ曲面形状にした展示として転用しました。展覧会後は、KOPPAシリーズのステージの材料になる予定です。
わたしの岐阜事務所のリノベーションにも、同じ美術館の展示から頂いた材料を活用しました。夷川サローネとわたしの事務所の材料は兄弟のような関係で、一つの企画展示から、二つのプロジェクトにマテリアルが移動したことになります。

画像9©伊藤維建築設計事務所


人のハイブリッド|コミュニティハウスプロジェクト

「Poppenbüttel Community House」は、ドイツのハンブルクで行ったコンペなのですが、コンペ自体がとても面白いプログラムでした。対象地はドイツの団地で、シリアやアブガニスタンの難民を受入れたことにより建設された場所でした。そのコンペはただ案を出すというだけでなく、1週間ワークショップを開いて、建築家が所長となった建築家・学生・難民のチームによる案をつくります。そのデザインプロセスも含めコンペの評価対象となりました。

画像10©伊藤維建築設計事務所

参加する方々は建築の専門家ではないのですが、様々な職業経験を有した人々でした。まずはみんなで「ファミリーネットワーク」というものを書き、チーム一人一人を知ることから始めました。制作時には、模型が得意なひと、モックアップを作ることが得意な人、キッチンに詳しい人など得意な分野で個々がそれぞれ能力を発揮できるような場となりました。

画像11©伊藤維建築設計事務所

2日目はそれぞれの祖国での間取りを聞き取りドイツ式のソーシャルハウジングとの違いを確認しました。ドイツではベッドルームを優先させる傾向にあるのですが、彼らの祖国ではリビングルームが優先されるというような文化的背景の違いがみえ、コミュニティセンターのプランに反映させました。
1週間の間にみんなで模型を作ったり設計事務所で行うような業務を行いつつ、散歩をしたり、子供と遊んだりしていました。意外だったのが、人によって得意なスケールが違うということ。1/10になると途端に解像度が上がったり、1/1の施工が得意な人もいました。

私はこのように、「モノのハイブリッド」、「人のハイブリッド」に関する試みを続けてきました。現在岐阜で事務所をリノベーションしているのですが、今後は、東京と岐阜の二つの地域を拠点に、海外とも連携しながらプロジェクトを進めていければと思います。

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市川竜吾さんのレクチャーに続く

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編集:中井勇気、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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