第3夜 ここを見てほしい!町と住宅の関係 TOPIC1|居場所の連鎖や閾の連鎖、地域・産業の系の編集、仕事場と住まいと街との関係(廣岡周平さん/PERSIMMONHILLS Architects)
この記事は、よなよなzoom#3 「ここを見てほしい!町と住宅の関係(2020年4月25日(土))」でのプレゼン内容です。
今回は、自分以外の方が設計した建築作品について熱く語る会です!僕からは以下の作品を紹介しますね。
・フィン・ユールハウス:フィン・ユール
・houseT/salonT:木村松本一級建築士事務所
・五本木の集合住宅:仲建築設計スタジオ
町のタイポロジーとの応答の中で、居場所/閾を最大限に増やし、家族の中に様々な距離をつくる|フィンユールハウス
まず、「フィンユールハウス」についてです。町と住宅の関係で言うと少し意外に思われるかもしれません。
デンマークのコペンハーゲンから少し北上したところにオードロップゴー美術館があり、その脇にフィンユールハウスはあります。ここは一度訪れたことがあり、とても感動しました。まず、敷地面積に対する庭の広さがかなりゆったりとしていています。ここは郊外なのですが、この住宅は「周辺の住宅の配置を読み込んでうまくつくっている」という印象があります。
カーブする車道からすこし中に入ってフィンユールハウスはあるのですが、ストリートビューで見るとひっそりと建っているのがよく分かります。
©PERSIMMON HILLS Architects
何より僕が訪れて思ったのは、プランが意外なことです。まず、玄関を入ってすぐにアトリエがあります。そこからまっすぐ入っていくと談話コーナーがあり、リビングに行くと暖炉があり、その奥の開口にベンチがあります。暖炉と一体にも見えるし独立しても見える不思議なプロポーションになっています。
暖炉とその周りにはソファがあり、開口側にベンチがあります。ベンチに座って外を眺めながら何かすることもできますし暖炉にむかって一体的につかうこともできる。さらに、開口部が大きくあくことで、外と一体的に過ごせる場所を展開していきながら、リビングの横には書斎や隠れたコーナーがあります。隠れたコーナーや開かれた場所、さらに書斎もあるというリビング構成は今まで考えてこなかったので、驚きました。
書斎は光が入ってきて本を読みたくなるところがあったり、天井を下げて隠れたコーナーがあったりと、本当に単純な家形の屋根なのですが、豊かな場所の違いができていて不思議でした。また、寝室はリビングぐらいの広さがあります。
さらにこの全体の配置と一緒に見ると、
庭があることでほかの家からも眺めがよく見えますが、開口の高さが人の頭ぐらいの高さになっているのであまり中の様子が見えなくてすごく居心地が良い。人体寸法に合わせて設計されていると感じました。
また、談話のコーナーとダイニングの間の棚が、絶妙な距離感をうんでいます。一体的にも見せながら、場所の連鎖や閾の連鎖があるように感じ、良いプランだと感心しました。
フィンユールハウスから学んだこととしては、「街の立ち方との応答で居場所や閾を最大限増やすことで、家族の中で様々な距離感をつくっている」という点です。家族がもし喧嘩しても逃げる場所があり、親密な時は一緒にいたりすることができます。来客があってもその来客の性格の違いにあわせて様々な居場所が用意されています。広さはとれないけれど「居場所の数」や「質の多様性」が大事だと教えてくれる本作から学ぶことは実に多いと思います。
地域の系や産業の系を編集しながらつくる|houseT/salonT
次は「house T / salon T:木村松本建築設計事務所」です。
一見すると、開口部が大きく「構造をどれだけシンプルにするか」とか、「ローコストなことのみに集中しているのか」と思われがちですが、この作品ではいろいろな状況と重ねて町のことが考えられていると感じます。
開口量を多くして町との関係を取ろうとしても、ただカーテンを閉められて失敗しがちです。しかし、この住宅は「側面は隣地の高い塀があるため気にならない」「背面も高い雑草があり、気にならない」また「車の交通量が多く、歩道もないため、車の速度が,一瞬で視線が気にならない」ということをよく分かっていらっしゃる。もしくは店舗併用住宅なので、「店舗として目に留まる」というようにできていると思います。
外周部の建具はすべて引き違い窓でできているため、「自分の領域が拡張され、隣地の家の外壁が自分の家の壁のように感じる」と思います。また、背面の雑草が自分の家の庭のように感じ、横の人の生垣ですら内部から見て借景的に取りこまれている感じがして面白いと思います。
ストリートビューで見てみると、前の道路はおそらく京都と福井を結ぶ街道で、京都の人たちが京都市内に通うのに利用し、かなり車通りが多い場所だと推察できます。そのため、周りの建物は道側に駐車場を設け、塀があり、奥に家があるというタイポロジーなのですが、それ自体はある程度踏襲しながら、「店舗として開いているときは目に留まり、住宅としてみるとそこで何をしているかまでは見えない」という構成となっていると思います。
©PERSIMMON HILLS Architects
プランニングを見ますと、「お風呂が塀側にあり、うまくトイレで道路と距離をとっている」。お風呂は浴槽だけを置いていますが、トイレがあることで道から微妙に奥が見えない、隣地の外壁があることで人の視線を遮ることができています。
また、「水場とキッチンが住まいと仕事のどちらでも使える」という点も巧みです。浴室の洗面所としても使えるし、仕事場の洗面所としても使えるようになっています。例えば、仕事場のサロンと書いているところでも、何かを出してご飯を一緒に食べることが出来ます。つまり、打ち合わせコーナーにも住宅にもなりえます。
以上のように、内部のプランが町と一緒にシンプルに解けていて感動しました。
建物全体としては、ローコストにするために、「住宅自体が建売住宅でつかわれていそうなもので構成」されていて、かつ「いろんな産業の安いものを転用している」のが面白かったです。
この「house T / salon T」から僕が学んだのは、「地域の系や産業の系を編集しながらつくる」ということです。建売住宅など住宅産業がもっている産業を逸脱しない範囲で、かつ、お施主さんの持っている産業をそのまま別のものに転用して安くつくる凄さがありました。
生業・住む・生きるということの柔軟さ・五本木の集合住宅
次に、「五本木の集合住宅:仲建築設計スタジオ」についてお話します。これは事務所兼自宅ですね。
図面を見てまず驚いたことは、リビングが無いことです。かなり衝撃でした。そこから「そもそもリビングってなんだ」と考え始めました。「ソファセットが置かれている場所」なのか、「ゆったりとした椅子が置かれている環境のことを呼んでいるのか」、ヘルツベルハーの本の「社会的機能がある広い場所」をリビングと呼んでいるのだろうかと色々考えました。
改めて図面を見ていると、たくさんの椅子が置かれていることに気づきます。段差が机になったり、ダイニングテーブルやスタジオにあるたくさんのテーブル、そして打ち合わせコーナーと、机の周りにたくさんの椅子が散りばめられています。おそらく仲さんは、「ユニットで活動を起こせる設え」をたくさん用意するべきだと考えていたのだろうと思います。
断面図をみていくと、天井高が3300㎜くらいの梁下や、個室と呼ばれるところの軒の高さが2654㎜でした。マンションに住んでいる方たちが経験している2200㎜、2300㎜という天井高に対し、開放感がある寸法をとり、かつ、庭に類するような設えが確実にユニットの前にあります。例えば、各住戸の前には緑のルーバーが配され、その前の地面にも何か植えたりできるような場所があります。外から少し見られても大丈夫な「街の中での距離感を生み出す仕掛け」でもあるわけです。
これ以外にも、建築家が自身の住まいで不動産を運営していこうとする意志や、ヴォリュームを細かく切ることによる立面効果、角地の道との関係の取り方、窓の付け方など、本当に学ぶことの多い作品でした。
以上の作品から、「居場所の連鎖や閾の連鎖」「地域の系や産業の系を編集する」「兼用住宅と町との関係や仕事場と住まいとの関係」という3つの視点を学べた気がしています。
さて、ここからは自作のお話しです。
©PERSIMMON HILLS Architects
これは超ローコストで造った「三軒茶屋のショップハウス」です。すごく細い敷地で、1階がギャラリー兼カフェになっていて、2階が住宅です。
先ほど言った「居場所の連鎖・閾の連鎖」で言うと敷地が細長く芯々で2.4mしか取れない敷地です。地区計画で隣地境界からの離隔が明確に50㎝必要だと言われていた場所ですが、離隔に当たらない出窓を利用して居場所をつくる試みをしています。
©PERSIMMON HILLS Architects
細長い場が連鎖していくようなものをつくりつつ、出窓のようなベンチを造ることで居場所をつくっています。
©PERSIMMON HILLS Architects
外から入ってきたときにくぼ地があって、アイキャッチの壁になっています。また、2面接道を上手く活かし、昼間はギャラリーカフェとして入り、夜はバーとして逆側から入れるようにデザインしています。
「地域の系・産業の系を編集する」ということで言うと、坪70万をきることを求められ、木造2Fでも準耐火構造にしなければいけない場所だったのですが、建売住宅が得意な工務店に施工を依頼し、建売住宅の素材コードの中でデザインを統合しています。外壁の窯業系サイディングは、設計前に奄美黄島で松山将勝さんの目地がぴったりと合っている住宅に感銘を受け、モデリングの段階で厳密に寸法を決めることで目地をピタッとあわせ、産業の系の中で一番綺麗だと思うものを目指しました。
©PERSIMMON HILLS Architects
©PERSIMMON HILLS Architects
このプロジェクトは実現しませんでしたが、「道庭の長屋」という計画をしていました。荻窪で、ボンエルフの行き止まりの道に住宅があるという構図が沢山あり、それを僕らは「道庭」と呼んでいて引き込むように長屋をつくれないかと考えていました。周辺の住民がボンエルフの行き止まりのところに緑を出した美しい構成に感銘を受け、住宅自体を閉じたいところ、開きたいところの2種類に分けて開放的な住宅をつくろうと考えていました。このときは普通にリビングを作ってしいたのですが、先ほどの仲さんの例を見て、もう少し検討できる箇所があったな、と思っています。
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編集:服部琴音(名城大学3年)、佐藤布武