第8夜 ローカル楽しんでいる建築家 #3 五十嵐敏恭
埼玉生まれで大学に進学したのですが、大学4年次に半年間、沖縄の設計事務所でインターンシップしたことをきっかけに、そのまま沖縄の事務所で働きました。
沖縄には若手建築家が仕事しやすい環境があります。小さな住宅やリノベーションなど設計事務所にお願いする文化があることがあり、若い移住者が多いこともあり、若手にもチャンスがあります。また、設計事務所同士の交流、設計事務所と施工者の交流などがあるのも良い点です。RC住宅が多く、既製品にこだわらず設計できるのも特徴です。
沖縄らしい現代の建築を考える|HOUSE IN TAMAGUSUKU
©Ooki Jingu
最近の那覇の街を見ていて、戦後、どこにでもあるような建物が多くて、沖縄らしさとはどういうものなのだろう?と感じていました。一方で、昔の建築をみると、自然との関わり合いが豊かなものが多いです。自宅兼事務所の設計に際して、現代における、沖縄らしさとか精神性みたいなものから考えたいと思いました。
具体的には、伝統的な建築形式に見られる、目隠しの「ヒンプン」や前庭の「なー」みたいなものを参照しました。玄関へのシークエンスを検討したり、玄関がなくて外に解放されていて色々な用途に使える広場みたいなものを計画したりしました。
©STUDIO COCHI ARCHITECTS
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建物は、夏でも快適な環境を住宅内外問わず実現することを考え、屋根だけで大きな建築の日陰を作っています。また、設計の実務では、規制品を使いたいとか、メンテナンスフリーで使いたいといった施主要望が多かったのですが、建築はメンテナンスをしながら付き合って行くものだと考えています。自邸ではメンテナンスを前提に、土間や外構などできることは自分で施工しました。
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住宅を地域に開放しながら生活しているのも特徴です。住宅を建てるときに、住宅と地域をつなぐ方法を考え、公民館で行われるような活動を受容できるようなものを構想しました。大きな庇の下でフルオープンにできるような構成は、多様な使い方を受け入れてくれます。
©STUDIO COCHI ARCHITECTS
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百名のゲストハウス
続いて、ゲストハウスを依頼された案件です。敷地を訪れると、すごく風が流れるわけでも、海が見えるわけでもなく、そんなに魅力が溢れる印象を持ちました。一方で、クライアントと話すうちに、抜け道の中にあるような敷地の面白さに気づかされました。抜け道を歩いていると、森の小径を通り、集落の中を歩き、そして、海に至ります。訪れたゲストがそんなシークエンスの中にいると感じられるようなゲストハウスが求められました。
敷地形状をなるべく活かしつつ、施主スペースを含む4つのボックスを共用スペースでつないだ設計としました。小径を通って自分の家に帰って行くような共有スペースを作ることを意図しています。
©STUDIO COCHI ARCHITECTS
あと、沖縄は、生産者さんとか現場の方との関係が近いので、いろんなことに挑戦できる環境があり、それを楽しんでいます。例えば、石切場を訪れこの岩が取り出せないかなぁ、みたいな会話ができたりします。また、友人の設計事務所と一緒に丸太を買って製材して建具を作るとかもしています。理想とする空間を作ろうとすると、既製品のサッシだと高くなってしまう傾向にあります。作ると意外にそこまで高くならなかったりしたり、色々な探究を楽しみながら設計に携わっています。
©STUDIO COCHI ARCHITECTS
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(以下、ディスカッション)
廣岡|とても興味深く聞かせていただきました。五十嵐さんは外部空間をモダニズム言語で発展させている印象で、ブラジルのモダニズム建築を思い出しました。ブラジルでは、モダニズムが持っているロングスパンであったり抽象性みたいなものが群衆とマッチして、人間を解放するものとしてモダニズム建築が作られて行きます。そんな建築の本質な力を感じました。
五十嵐|最初に見せた那覇のような街は、なんとなく、もったいない気がしています。せっかく沖縄という条件にあるのだから、東京ではできないものを目指した方がいいと思うんですよね。自然と建築の分割をどう超えるのかとか、現代的な豊かさをどういう風に自分たちの世代で作るのか、といった所を追い求めています。
工藤|素晴らしいプレゼンテーションでした。作る意思やエネルギーが建築に出ていて、それが素晴らしかったです。どういう修行を経て、今の建築的思考に至ったんでしょうか?
五十嵐|モダニズムの延長上で、すごく丁寧に設計するような事務所に8年いたのですが、あまりにも建築が人の手を離れすぎているというか、既成品の組み合わせでものを作るような感覚を覚えました。独立後は、沖縄の環境をきちんと読み解き、シンプルに、人の手に近い存在としての建築を構想したくなりました。例えば、木と木が付いているとか、石と石がついているとか、そういう単純なディテールを考えています。自邸以降、より、自分たちの手で作っていくことの可能性を感じています。
工藤|玉城の家のエントランスの角度の振り方はどう決めているのでしょうか?
五十嵐|プライバシーの作り方とか、事務所と自邸の距離感ですね。図面の中だとなんとなく大雑把なので、現場で縄貼ったりしながら考えています。
廣岡|フィジカルでありつつバナキュラーである。面白い。さて、ここからは、全体のレクチャーに移りたいと思います。
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編集:佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)