第5夜 若手建築家プレゼン大会 全体ディスカッション
この記事は、よなよなzoom#5「若手建築家プレゼン大会(2020年5月30日開催)」でのプレゼン内容です。
よなよなzoomとは、色々な地域でプロジェクトを実践されている方のお話を聞いたりする会です。研究室でだらだら飲みながら語っているのをオンラインでやっているような感じでできたらな、と考えています。今日は「若手建築家プレゼン大会」で、最近の実践や思考を皆さんと考える機会にできればと思います。
今回は、面白い作品を次々に発表されている工藤浩平さん(工藤浩平建築設計事務所)と、020年の住宅特集でデビュー作を発表された榮家さん(o+hパートナー/EIKA studio)にお願いしました。オブザーバーは、僕がsuepでお会いした佐々木慧(KEI SASAKI architects)さんをお呼びしています。
TOPIC1|工藤浩平さん/工藤浩平建築設計事務所
TOPIC2|榮家志保さん/o+hパートナー/EIKA studio
工藤:僕は廣岡さんとか佐々木慧さんの話もぜひ聞きたいです!
廣岡:では我々もサクッとやりましょう!
TOPIC3|廣岡周平さん/PERSHIMON HILLS architects
TOPIC4|佐々木慧さん/KEISASAKI architects
(以下、個別のレクチャーを受けての全体ディスカッション)
○建築家の系譜と自分のスタンス
工藤:妹島さんも西沢さんもなんというか、マッチョな印象があります。僕はsanaaというスタイルの強いところの出身なこともあり、いかに自分を表現すべきかということを考えています。だから、自分を出さないと!という意識があるのかもしれないな、と思います。
廣岡:sanaaにも系譜があるわけですよね。モダニズムを信じながら街の中に合うようにチューニングしていくということは、これからも建築家に引き継がれていく問題と考えています。例えば、ブラジルではものすごくうまくいっているんですよ。だからモダニズムを否定するのもおかしい。sanaaの建築は開放的なところがまだ日本的ではない部分もある気がします。工藤さんがそれをもっと使いやすいようにとか、こういう風景が生まれるのでは、とやっていることはトライとしてとても誠実だと思います。
誰しも出身事務所の影響は多かれ少なかれあると思いますが、僕たちはそれぞれの出身のどちらでもないようなものを作ろうと意識しています。それが必要かどうかは分かりませんけどね。また、作品がパクリだと言われることは往々にしてあると思いますが、それはどうでも良いと感じています。写実主義の絵画は見たものをそのまま写しとるものですが、そのもの以上の凄さがあります。実際はコピーである事は確かなんだけど、価値のあるもの。パクリと言われるものにも同じことが起こっていると思っています。系譜だったり、その人の考えている本質のトライを見逃さないことが大切です。ただ、クオリティの低いパクリ、本物以上の価値を作ろうとする意識の低いものに対する批判は必要ですけどね。
工藤:僕の東松山の家も周りから見たらsanaaと同じに見えているだろうなと感じる事はあります。だけどsanaaとは違う、という意思表示をどう表現するのかを考えています。
佐々木:工藤さんの薬局はsanaaの系譜の中でも新しいところに行ったな、と感じました。sanaaの系譜に乗りながら、作り方を考えることでそのクオリティを実現させていました。工藤さんはそこを深めていけば悩む必要はないと思います。
石上さんの山口のレストランは建築と同じくらい、その支保工が立体的ですごかったんです。でも石上さんはその写真を絶対世に出そうとしなかった。それは、今日の工藤さんの、案を実現させるための生々しい話とは真逆の立ち位置にあります。この先のスタンスとして工藤さんはどっちをとっていくんですか。
工藤:それはもう意識的に出していって、結果的にみんなが作れるようになったらいいと思っています。建築家のできることの範囲を広くしていきたいんです。
佐々木:僕は藤本さんの系譜の中にいますが、これまでの人生が藤本さんの人生とは違ってきたように、これからも藤本さんと同じ状況になることはないと思っています。なので意識的に藤本さんの建築と変えていかなくても、割と楽観的にこのままいけば違うものになっていくと考えています。
廣岡:石上さんと佐々木さんのスタンスには近いものがあると感じました。作ることは諦めていないんだけど、思い描くところに技術が追いついていないような。実際設計と施工は別社会で、別社会の都合をきく必要はないですが、理想に近づけるためには互いを引き寄せる必要があると思います。
佐々木:藤本事務所でやっていた大きな仕事、その中での自由な仕事がとても楽しかったんです。今回紹介した机のプロジェクトは自由にやれましたが、それ以外の小さいところを楽しめていないな、と思っています。そのために大きな仕事をいかに取るか、やりたい仕事をできる環境を作ろうともがいているところです。自分の理想を突き詰められて、かつデザインとしてそれを求められたいです。
廣岡:佐々木さんは観察に興味が薄く、宣言することに興味が強いのではと感じました。青木さんがyoutubeで建築の保存について語っていたんですが、その中で色々な建築・事務所の歴史をわかった上で保存のされ方について批評されていました。それは観察がないとできないことだと思うんです。佐々木さんはそれより、自分の思い描く世界を作ることを目指しているように感じます。石上さんはずっと実験をしているような。ただ、佐々木さんは世界を作るならもっと広告を上手くしないと、と思います。そのまま突っ走ってください。
工藤:sanaaの世界を作り切る力はすごいですよ。ただ僕のキャラクターではそのやり方で社会に接続できないなと思い、理想がない訳ではないですが、実現性の中でのできることを優先しました。
建築のメディアについて
工藤:建築のメディアって大切だと思うんですよ。僕なりの表現を探り、見学会を自分で企画し、批評の場を自分で作りました。ただの建物の感想ではなくて、作る動機や想いが何なのか、作ると言うことはどう言うことなのかと言う本質を炙り出したかったんです。そしてその内容を自分で編集してarchitecturephotoにあげました。こういう、自分で発信することを建築家はやっていった方がいいと思っています。
廣岡:自分もメディアの重要性には同意しています。建築家のトライや思いはそんな簡単にサラッっと伝えていいのかと思うし、それは建築写真についても同じです。たまに、一般の人が撮った方が面白いのかも、と思うこともあります。建築をメディアにのせる際は、自分の考えを世に出すことが大切で、その方法はさまざまに変えていかないといけないのではないでしょうか。
佐々木:僕はそんなに雑誌への執着は持っていません。ただ、人に自分の作品を説明してもらうと得られる気づきもあると思うので、そう言う面では編集に関わってもらうのはいいと思っています。
榮家:編集者の方と話すとハッとさせられることも多いし、1対1でしっかりと会話してくれる印象があります。
廣岡:話はつきませんがこのくらいで!みなさん、おやすみなさい!
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編集:佐藤布武