第3夜 ここを見てほしい!町と住宅の関係 TOPIC3|間接的な外への意識と連続(白須寛規さん/design SU)
この記事は、よなよなzoom#3 「ここを見てほしい!町と住宅の関係(2020年4月25日(土))」でのプレゼン内容です。
僕は住宅特集研究というのを2016年くらいから建築家の田野さんとおこなっています。住宅特集が開始される1985年から研究をはじめ、今、2016年まできました。その中でも特に影響を受けた二つの建築作品と自作を1つ紹介したいと思います。
・アトリエ・ワン:ダスハウス
・増田アトリエ:木曽路の家
・design SU:並びの住宅
外への意識 - ダスハウス/アトリエ・ワン -
2002年のダスハウスは、98年のアニハウス、99年のミニハウスに続く3つ目の戸建て住宅として発表されています。ダスハウスの名前は「deep&shallow」で、かなり小さい住宅です。僕は、先ほどのアニハウス・ミニハウス・ダスハウスを小規模住宅3部作として認識しています。
この住宅のでは、「いろんなものを壁に置きたい。しかし6畳の部屋だと壁にものを置くと真ん中に余白が生まれてしまう。」という面白い施主要望がありました。6畳は広すぎるため、そういう考え方をもつ人たちはnLDKというシステムを当てはめても、うまくいかないということからnLDKの解体の話から始まります。
©design SU(一連のスケッチは自身で3Dを立ち上げ、トレースしたものである)
木造2階建てで、6m×6mの平面です。9坪ハウスの4.8mよりはやや大きいものの、かなり小さな平面です。真ん中に階段があり、周りに細い部屋があります。部屋の扉を閉めると先程の「deep&shallow」の言葉に現れている部屋が出てきます。個々の細い部屋がぐるっと回っていて、その部屋の説明として茶の間やリビング、食堂という単語があります。一方で、個室という部屋の作り方ではなく、そこにある設備や置くものによって室名が仮に固定されているようなものとして書かれています。
この住宅の町との関係性を語るときに、アニハウスを説明する必要があります。アニハウスも正方形平面で、それが3層連なり、一室空間として角に階段が配置されています。アニハウスの考え方は、敷地境界から引きをとり敷地の真ん中に正方形を配置することで、その周りに豊かな外部空間を残すことにあります。その外部空間に向けて開口を設けていて、内部の写真からは爽やかな印象を受けます。
一方で、「重要な意味をもつ開口がカーテンで閉められているのではないか」という懐疑的な印象も持ちました。
それを踏まえて住宅特集で発表されたダスハウスの写真をもう一度見ると、ダスハウスはカーテンが閉まっている写真がメインとして載せられています。掲載ページ全体ではカーテンが空いている写真と閉まっている写真は1対1の割合です。当時、カーテンが閉まっている写真を掲載する作品はなかなかありませんでした。現代ではカーテンを建築の一部で表現するのは多々あるとは思いますが、2002年時点ではまだなかったと思います。
©design SU
では、カーテンがどういった良さを出しているのか、室内パースを見ると、カーテンによってオレンジの光がパーッと室内に入ってきていて、すごく素敵ですよね。カーテンを閉めた姿で建築作品として雑誌に載っていることが衝撃的でした。カーテンがあるということは、必ずそこに開口がありその奥に外部がありますし、カーテンがあって光が漏れているということは部屋だけじゃなく外を意識させる効果もあります。これだけ狭い、芯々で1862mmというすごく幅の小さい部屋ですが、外を意識させることで空間に広がりを与えています。
外側、内側の要素の雑多さを許容する大きなアーチ – 木曽呂の家/増田アトリエ -
次の作品は、私が尊敬している増田アトリエさんの2011年の「木曽呂の家」です。このお二人は東京芸大のご出身で、両方建築系かと思いきや、奥さんの良子さんの方は東京撮影所という映像系の経歴があります。その影響もあるのか、紹介する住宅の意匠はとても特徴的です。住宅特集に載っているのが4作品あり、そのうち2008年に「北本の家」、11年に紹介する「木曽呂の家」、13年に「浦和の家」、18年にリノベーションの「石上の家」という4作品です。
初めの北本の家と木曽呂の家は、室内の意匠は、天井アーチと白いボリュームと板張りの壁という3つの共通項が確認できます。
私が注目したいのは、白い壁と板壁が複雑な形になっていて噛み合わないことです。そしてその隙間にガラスをはめ、つなぐという形をとっています。それはスティーブンホール的というか、立体がガチャガチャとしていて隙間が生じているような表現がされています。
©design SU
©design SU
ここからは町との関係性を考えていきます。
隙間でできた開口以外に、断面で1.8m張り出しているボリュームの下の大きな開口があります。ここが結構キーになっていると思います。
開口からはお向かいのガスメーターや勝手口のゲートといった、ガチャガチャした要素が見えます。つまり、この住宅の室内の世界観の奥、同じアーチから見える外側には、デザイン的にコントロールできないものが同時に見えるわけです。室内を見回すと、明快な構成要素の中に、モノが雑多に存在しています。壁には棒状の電球型照明があり、キッチンには大きいワインセラーが、リビングには個性的な椅子もあります。建築のエレメントとしてはかなり限定して表現されていますが、家具などの要素を含めると雑多な印象を持ちますが、それもどこか魅力的な雰囲気を醸し出しています。実はこれ、大きいボリュームのアーチの奥に外側のガチャガチャした要素が見えることで、内側の要素の雑多さを許容している効果があるのではないでしょうか。まだ増田アトリエさんにお会いしたことはないのですが、本当に大好きな建築家です。
境界を超えたまとまり- 並びの住宅 -
©design SU
次の作品は2019年に竣工し、私が設計した「並びの住宅」です。
2軒建つことで、1軒の中と外だけの関係だけではなく、自然と町並みを考えることになります。
この住宅はご兄弟が住まわれていますが、住宅としては独立したものを求められました。それでも関係としては切れないという、相反する要求がありました。そこで、「境界を超えたまとまり」というものを街の中で観察し、そこから設計をはじめました。木が道路側にはみ出していたり、同じようなファサードが並んでいたり、道路側の面だけ家の外壁の素材が切り替えていることを発見し、その連続性を設計に落とし込めないかと考えました。
©design SU
わかりやすいのは2軒の壁の通り芯を合わせていることです。対になっている地面の素材は合わせ、中間領域を挟むことで中と外が連続するようになっています。
また、中間領域を挟むことで外の空間と連続することや、部屋の関係性が似通ってくることを考えていました。
©design SU
©design SU
©design SU
これは角のエントランスです。外から侵入し、雨宿りできるような場所を設けることで、中でありつつも外の人が入ってこれるような空間を考えています。
私はダスハウスを見て、強く感じたことを大事にしています。開くかということよりも、何か建築的な行為、ダスハウスでいうとカーテンによって意識がそっちへ向くような操作です。直接的ではなく、緩く街につながっていくようなものを考えています。
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編集:服部琴音(名城大学3年)、佐藤布武