第4夜 この建築家知ってんのか?海外建築家紹介| TOPIC2 baukuh(根市拓さん/石村大輔+根市拓)
この記事は、よなよなzoom#4「この建築家知ってんのか?海外建築家紹介(2020年5月14日開催)」でのプレゼン内容です。
根市拓さんの海外建築家紹介|baukuh
お願いします。まずは簡単に自己紹介しますね。僕は東京都市大学を卒業後、スイスのメントリージオを修了し、帰国後に加藤邸という作品を設計しました。事務所としては、石村大輔と根市拓の二人でユニットを組みました。HPには、初めての住宅作品の加藤邸のほか、地元の電気・照明の施工会社と共同で場所を借りて改修しながら使っている作品を載せています(HPは近々リニューアル予定です)。最近では、中目黒のブルーボトルコーヒーの2階のお花屋さんのインテリアの設計もしました。
©︎Ishimura+Neichi
さて、僕はイタリアの建築家で、baukuhという6名くらいのユニットの建築家を紹介します。この建築家はミラノとジェノバを中心に活動している建築家なのですが、まずはミラノのプロジェクトを紹介します。
彼らは建築思想として以下を掲げています。
・各々がプロジェクトに責任を持って行うが、プロジェクトはオフィスの成果物
・デザインは個人の好みに依存しない
・階層構造や様式的ドグマを持たず、合理的で明確なデザインプロセスから建築を生み出す
そのデザインプロセス、というのは、過去の建築を、比較的、直接的に引用する、というようなものです。過去の建築の引用とは現代の我々のパブリックな知識であり、それを利用してデザインするというスタンスです。個人的意図でのデザインはなく、外から過去を参照し、デザインに落とし込む、という実践をやられています。
同時に、その傍、建築マガジンの執筆や出版に携わっているメンバーもいて、非常に新しい挑戦をされています。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
さて、最初に紹介するのは、house of memory という作品です。装飾の使い方に彼らの独自性があるので、紹介しますね。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
この建物は、20世紀の過去の歴史をアーカイブする建物です。こちらはレンガで覆われ、そのファサードに、歴史的なイベントのイメージが印字されています。この建物がある地区は、ミラノの新しい開発地域で、コンペ により設計者が選定されています。他の建築家がモダンなデザインに則った案が多く提出していた中で、彼らは、非常に閉じたマッシブな建物を提案して、コンペに勝利しています。
この建物で彼らは、市民やミラノの歴史、イタリアの記憶をファサードに表現するのが大事だ、と主張しています。こうしたファサードそのものの装飾的な作りかたはHerzog & de Meuronのいくつかの作品やメキシコの市民図書館など一部の建築家が挑戦していますが、一般的には、近代化以降あまり見られないように思います。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
装飾でファサードを作るというのは、あくまで歴史的にも行われていた事実で、ミラノではグラマンテの教会などがあります。その、テラコッタのブリックで作るという慣習に倣ってデザインしたと説明しています。壁画は市民や学術機関が集めたものや歴史的なイベントとして重要なものなどを、アーティストがピクセル画に変えるという手法をとっています。そのために6つの異なる色のテラコッタを取り寄せ、テラコッタの濃度の違いで数式化し、それを言語化したものを現場に持っていき、施工した作品です。かなり近づくとブリックの荒々しさが見られ、離れてみると壁画を認識できます。距離感による違いが建物の表情で表現されており、ボケ方の違いにって絵から得られる情報が違うということも引用しているようです。
新しく開発された地域でマッシブなものが挿入されつつも、引いてみると壁画のようなオブジェクトがポンと置いてあるわけです。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
建物自体はコストの制約からかなりコンパクトに作られています。内部はコンクリートの素地現しで作られ、平面形状もイタリアルネッサンスのコーンハウスのタイポロジーを引用・整理し、プランに落としています。
大きい柱で建物のコンポジションが決定され、中央にパブリックな黄色い階段室があり、触れられないアーカイブとの距離をデザインし、アーカイブの貴重さは表現されているそうです。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
続いて、二つ目の建築です。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
イタリアの有名なビールの会社のフラッグシップストアとしてのパビリオンです。
この建物は丸い形をしていて上にチムニーがあります。このエリアは丸い形をした工場やブルワリーがたくさんあって、それらから形の要素を抽出してアイコニックに表現しているそうです。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
写真のように、彼らなりに色々とレファレンスをして、最後に、ヴェンチューリのプロジェクトを参照しています。丸い形をして上に伸びているような形で建物を作りたいと。
さて、この建築は、裏と表で全く見え方が違っていて、これも何か意図的ものを感じさせます。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
僕が面白いと感じたのは、非常に意図的に屋根をカットして作っているのに、彼らのレクチャーでは、「ここでカットした方がハイライトが落ちてきて気持ち良いだろう」くらいしか説明されないところです。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
内部ではタイルワークの切れ目が中途半端な位置で切られていてそれが外に続いています。おそらく、こうした作り方の背景にはヴェンチューリのラスベガスの理論から作られているのかと。道路から建物に向かっていく際に、道路側から装飾されたカットされた面が見ることができ、広告的な面が逆転しています。一方で非常にインダストリアルな建物の外観をしていますが、自動車と建物のコミュニケーションを考慮した建物の作り方とも読み取れるというか。
ヴェンチューリはさらに、建物と広告が完全に独立しているものが「decorated shed」それと反対にアヒルの形をした建物を「duck」と言っています。これはその理論で言うと、「decorated shed」側にあるにも関わらず、それを乗り越えて現代的な解き方をしているな、と感じました。
タイル自体がインテリアのモチーフにもなっていますが、それが表側にも現れると言う仕組みによって現代的回答をしているのではないかと、予想しています。
baukuh HP:https://www.baukuh.it/ より引用
(以下、ディスカッション)
廣岡:装飾をヒントに考えると言っても、そこに歴史性を感じるのが面白かったです。この建築を見ていると、会社がしていることを丁寧に伝えようとしているとも感じます。
根市:装飾というものに拒絶反応を見せずに建築表現が冴えているし、彼らはそれを非常に合理的とも捉えているのではないでしょうか。
廣岡:こういうタイプの仕事を日本で行うというのは最近ないように思います。商業を商業として捉えて良質に建物を提供する、というのは社会構造として日本でも欠落しつつあります。形もすごくダイナミックですよね。
根市:彼らはそこまでプロポーションの美しさにこだわりすぎないのはあると思います。目的に対する処理の仕方が大胆というか。それはおそらく、彼らのデザインというのは個人的な好き嫌いから来ているものではない、という主義から来ているのではないかと。潔さも感じますよね。
大庭:6人いてこういう大胆な形態的決断に至るのは、価値観がどこか共通している必要もあると感じました。
根市:彼らは、サンロッコというマガジンも執筆出版しているのですが、かなり理論に重きを置いている印象があります。建物を作るにあたり、かなりのディスカッションをしているのではないでしょうか。
廣岡:プロポーションではなく、全部説明できるように、ということにかなり忠実に作っている印象があります。なぜ大きな階段を作るのか、という異質性に到達できるというのは、かなりの議論が必要ですよね。こんな建築家がいるということに衝撃を受けました。
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編集:佐藤布武/名城大学建築学科助教
校正:根市拓