第5夜 若手建築家プレゼン大会| TOPIC2 建築が出来上がるまでのスタディと思考(榮家志保さん/o+hパートナー/EIKA studio)
この記事は、よなよなzoom#5「若手建築家プレゼン大会(2020年5月30日開催)」でのプレゼン内容です。
初めまして。榮家志保です。
私は、人がすごす建築、人がそこにいて暮らす空間に興味があります。
Good Job! Center KASHIBA
Good Job! Centerは、私がo+hで担当したプロジェクトで、奈良県香芝市にある、障害のある人がはたらいたり活動したりする施設です。今日は、コンペ案から実施案に発展していく過程とその時考えたことを辿りながら話していこうと思います。
クライアントは、社会福祉法人わたぼうしの会、または、たんぽぽの家という、45年以上奈良を拠点に、障害を持っている方が生み出す様々なものを、アートとして社会へ繋いでいくことを試みている団体です。Good Job ! Centerでは、日本全国の福祉施設で作られたプロダクトを全国へ発信する、物流のハブとなるような、また同時に創作活動の場にもなる施設が求められました。実際に施設を見学すると、利用者の中には、みんなと顔を合わせて作業をしたい人もいれば、倉庫の端で集中して作業したい人もいて、全員が同じ方向を向いて作業をしているいわゆるオフィスのようなものは適さないだろうな、というところから設計をスタートしました。
©︎ o+h
コンペ案では、さまざまな居場所が同時にできるように、壁柱を森のように立てることを考えていきました。この時、壁柱は製作物の展示スペースにもなっていて、街からも作品やその製作風景が垣間見えるようになっています。
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コンペから実施設計に至るまでに色々と展開し、これが最終的に竣工した建築です。これに至るまでに色々なドラマが事務所内にありました。
©︎ o+h
これはコンペ時の案です。この案は面積が大きすぎたため、どんどん縮小したところ、吹抜けが少なくなってしまい、森のような空間、とは言えなくなってしまいました。
©︎ o+h
そこで壁柱を一旦脇に置き、面積のことを考えると、建築全体をほぼワンルームとして捉え、一部を2階にするという構成が出てきました。また、2階をすべて物流の肝となる倉庫とし、1階からも見える構成にすることで、空間全体が物流のハブであることが体感できるのではないかと考えました。
©︎ o+h
これは、ものが2階に流れていく様子が目に見えて分かるのが良いと思いました。1階が舞台のステージで、2階から物がバトンみたく降りてくる、といったように倉庫自体が空間を特徴付けていきます。しかしこの案では、1階がワンルームになりすぎてしまい、多様な場所ができていませんでした。
©︎ o+h
1階に疎密を作るためには壁が不可欠な要素だと気づき、千鳥状に壁を置いていきました。その時、2階は倉庫を巡るように動線を作ります。基本的なプランは壁と家具がセットになるように、そして場がどのように連続していくかを考えながら作っていきました。
©︎ o+h
街から建物を見た時に、外壁がガラスだけだと近寄りにくい印象があったため、外壁にも少しずつ壁を作りました。同時に、玉ねぎのように積層する形で、軒下やエントランスを重ね、ぼこぼこと外壁沿いに人の居場所ができるようにしました。そこから屋根もぼこぼこさせていくことにつながり、最終案に辿り着きました。
©︎ o+h
建物に入ると、落ち着いて集中できそうな場所から、明るい場所、2階の物流の場までが同時に目に飛び込んできます。壁一枚を隔てるだけで違うモードに切り替えられる、性質の異なる空間が隣り合う、そんな建築になりました。
©︎ o+h
©︎ o+h
竣工3年後、イベントを行いました。そこでは、この建築のグルグルと回れる動線がパレードの場として使われていていたんです。それを見てスケッチを描きました。
©︎ EIKA studio
©︎ EIKA studio
最近、建築ができた後に振り返ってスケッチを描くようにしています。振り返ることで思考の整理ができ、考える力を高めてくれるように思っています。その結果、Good Job! Centerは平面図上でバラバラといろんな場ができていますが、それがさらに千鳥状の壁で連なっていることが面白いと気づきました。そして連なっていると同時に、必ず隙間が生まれていたんです。このような隙間を今後意識していきたいと思うようになりました。
秋本邸
名古屋市の緩やかな傾斜のある住宅地に姉家族の家を計画しました。周辺は虫食い状に果物畑があり、住宅が密集していない、おおらかな住宅地という印象がありました。同時にお施主さんの雰囲気とその敷地のおおらかさがあっているようにも感じていました。
©︎ EIKA studio
また、お施主さんは一緒に過ごすことを大切にする家族だったため、それが建築になったような住宅にしたいなというところから設計が始まりました。
©︎ EIKA studio
基本的にお施主さんとはシーンのスケッチと模型、平面図でやりとりをしていました。敷地に対してどのような景色やシーン、暮らしがいいのかのイメージを膨らませる事が目的でした。
シーンとしてアイデアの種をたくさん作りつつ、ボリュームとして少し客観的に佇まいを見る、アイデアの種をどう組み込むのかプランを書いたりしていました。
プランを解くことに集中しないように、思い描いたシーンが一番魅力的に見えるような空間の作り方はどうなのか、など色々な方向から検討をしていきました。
実際に設計をする時は、とにかく模型を作りました。
まずは山みたいにしようとか。
©︎ EIKA studio
向こうにいけるようにしたりとか。
©︎ EIKA studio
行って帰って来るのが螺旋になったり
©︎ EIKA studio
地形の上に家型が乗ってみたり、
©︎ EIKA studio
シンプルに考え直したり、
©︎ EIKA studio
ボリュームの中の検討をしたり、
©︎ EIKA studio
ボリュームがポコポコあるのに輪っかが乗ったり、
©︎ EIKA studio
チューブが盛り上がったり、
©︎ EIKA studio
輪っかが分裂したり、
©︎ EIKA studio
全然違うことやってみたくなって石みたいなのを転がしたり、
©︎ EIKA studio
もっかい心を落ち着かせようとしたり。
©︎ EIKA studio
周りを見ると、前面道路から住宅をセットバックして、1.5mくらいの段差を整地した形式が多いです。そこに対してちょっぴり頭を出すのは、なんか楽しそうだな、と。このちょっと頭出すのは採用だな、と。
©︎ EIKA studio
ちょっと頭出しつつも地面との連続性を確保しつつ、全体にどう構成できるのか、と。この段階で一回プランを書いてみました。
©︎ EIKA studio
空間とシーンが一致したものを少しずつ採用して、その採用されるものを増やしていく、そんな感じでもがきつつ進んで行きました。スタディでは、とっちらかすフェーズがあって、その後整理をするようにしています。その整理から取捨選択してジャンプする、ということを繰り返しています。
地形が果物畑から連続して室内に食い込んでいるところがリビングになりました。南北が抜けていて、かつ床レベルをバラバラすることで、各場所が連なって見えることがいいな、というように少しずつ確定の部分が増えていき、最終案にたどり着きました。
©︎ EIKA studio
最終案は、通常整地してできる段差を引き伸ばしたような、そして様々な角度の傾斜にすることで、いろんな居場所が連なる地面となりました。
©︎ EIKA studio
この写真は、ちょっと頭が出ている写真です。
©︎ Yoshihiko Takeuchi
丘状のリビングはこんもりとした庭と連続し、その奥の果物畑にもつながります。
©︎ EIKA studio
リビングは使う場所としてだけではなく、ダイニング側から眺める場所のようになっていて、実際より遠く感じるんです。
そういった眺める場所は家庭にとって大切なのかもしれないと感じさせられました。
©︎ EIKA studio
これも最後に書いたスケッチです。
©︎ EIKA studio
Good Job! Centerは壁が空間を繋いでいましたが、この家では窓が空間を繋いでいると思っています。住んでいるうちに何度も南北を往復し、いろんな高さから南北を眺めることで、違う解像度で風景が見えます。窓が風景の結節点になっていると感じました。
初めに話したタイトルの「人がすごす建築」に沿って考えると、この作品は、すごせる場所がたくさんある、という方が合っているかもしれません。すごすという言葉は、単体ではイメージが湧かないことが気に入っています。
例えば、お茶をしてすごす、本を読んで過ごすなど、何かが付属してやっと空間がイメージされるというように。または、すごせそう、という主観的な気持ちも載せられることがいいなと思うんですね。秋本家にとって、この家はすごせそう、という結論になったのだと感じています。
©︎ EIKA studio
レクチャー感想
廣岡:愛に溢れていますね。子供が喧嘩したりして逃げた時、その先にいろんな風景が繋がっていく、そこに愛を感じました。また、斜面を切り崩さず、布基礎に繋がっていくことにしびれました。一般的に、簡単に造成してしまいがちですが、地形を見て居場所を見つけていくことがとてもいいですね。作り方と考えていることが一致していて素晴らしいと思います。
古谷誠章さんの吉岡賞をとった狐ヶ城の家を想起させられます。それも斜面地での計画で、住宅が生活の舞台になるように、住みながら演じていく、同時にそれを鑑賞する自分もいる、ということを考えているそうです。それとの違いは周辺を積極的に取り込もうとしていることだと感じました。
榮家:実は丘のようなリビングなどは、本当に住めるのかな、と不安になることもあったんです。そんな時、姉(施主)との会話に出てきた、家の中によく分からない謎な物があることはいいのかもね、という言葉が勇気になりました。そういった抽象的なところでお施主さんや仲間と目標を共有していくことで解答が開かれていくことがあると気づかされました。
廣岡:中にあるよく分からない物が周りの畑をも肯定している、言い換えると絶妙に開いている、そこが面白いと思います。バシュラールの空間の詩学に、いい家には鉛直の軸がある、という話がありました。鉛直の軸とは、暖炉のような得体の知れない何かと繋がっていることだそうです。この住宅にもその軸があって、そしてその良さがうちにこもらずに、この街をも素晴らしいと言っているようですね。
編集:金森あかね、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)
校正:榮家志保