第2夜 地方楽しんでる建築家 TOPIC2|「奄美らしさ」を追求する(小野良輔さん/小野良輔建築設計事務所)

この記事は、よなよなzoom#2 「地方楽しんでる建築家(2020年4月11日)」でのプレゼン内容です。

奄美大島にいます小野良輔です。よろしくお願いします。

今日は、以下の順番で話をしていきますね。
・自己紹介
・奄美大島の紹介
・いま考えていること
・施工中のプロジェクト紹介

自己紹介
1985年の3月生まれで、佐々木さんとも同級生ですね。2004年から2010年まで横浜国立大学とY-GSAに所属していて、そこで廣岡さんと同級生でした、そこから東京の設計事務所やゼネコンに勤務した後、2015年に奄美大島の酒井建築事務所に誘われて奄美大島に移住してきました。そして2018年に自分の設計事務所を開設し、一年半が経ち今に至ります。ちょうど横浜、東京、奄美大島の活動期間が同じくらいになってきたところです。

まず独立してから現在までのプロジェクトを簡潔に紹介します。

スクリーンショット 2021-05-17 20.10.31©︎小野良輔建築設計事務所

これは屋仁川通りという繁華街にある居酒屋さんで、相談を受けてから4ヶ月くらいで完成したプロジェクトです。天井や外壁の仕上げを全て、トタン屋根を付ける際に用いる24×36の下地材で作りました。

スクリーンショット 2021-05-17 20.12.19©︎小野良輔建築設計事務所

これは1月に竣工した戸建て住宅です。
お客さんは自分の店を構えていて、その店を1人で作るほどDIYもやられている方なので、内部空間はいじる余白を残し、構造だけ設計して引き渡すような形でした。

その他に、設計監理以外の活動も行っています。
奄美大島は年収が100~200万円台の方も多く、設計事務所に設計料を別で払うのは難しい実情があります。そんな時はお施主さんのやりたいことをスムーズに進められるように、サポートに回ることもあります。他にも、奄美の中で、建築を語る会を開いたりしています。

スクリーンショット 2021-05-17 20.12.58©︎小野良輔建築設計事務所

奄美大島の紹介

僕自身、奄美大島を訪れるまでどんな場所かも知らなかったので、まず奄美大島について紹介します。
奄美大島はちょうど沖縄と鹿児島の真ん中あたりにあります。日本の離島の中で沖縄、佐渡島に次いで第3位の面積で、最北から最南まで車で2時間ほどかかります。人口も約6万と意外と多いです。
高温多湿な気候で、湿度が90%を超えることもよくあります。また、雨が多くて日照が短いこと、台風が多いことも特徴です。僕が今まで体験した瞬間最大風速は60m/sくらいでした。これらの影響を受けて、この島の建築は変化してきました。

その他の特徴として、黒糖、生物多様性、琉球文化圏ならではの様々な特徴など色々ありますが、中でも僕は方言が印象的でした。

例えば、
「ありがとうございます。」は、「ありがっさまりょうた。」に。
「こんにちは。」は、「うがみんしょうらん。」に。

工事現場で議事録を書く際に、以下のような会話がありました。

大工:「釘を打ち間違い、壁を直す必要があるため材料手配を急がないといけない。」
監督:「それは大変だ。私が手配しておきますね。」

よく現場であるやりとりだとは思いますが、それが奄美だと、

大工:「釘ばっくらして壁なおしまいだから材料急いでさばくりまい!」
監督:「はげー、わんがさばくるど。」

となります(笑)。

また奄美は海がとても綺麗で、砂浜が白いのはサンゴのおかげです。ダイビング目的の観光客が多く、今回紹介するプロジェクトのお施主さんにもダイビングがきっかけでこちらに移住してきたという方がいます。

スクリーンショット 2021-05-17 20.13©︎小野良輔建築設計事務所

風習や人、文化にも特徴があります。
以前住んでいた集落では、夕方から人が道路を封鎖して行事を行っていました。中には夜まで続くものや、何日間か日を跨いで行われるものもあります。

スクリーンショット 2021-05-17 20.14©︎小野良輔建築設計事務所

上棟式の餅投げは全力で行います。実際のプロジェクトの上棟式の道端では多くの人が集まりました。その後、「直会(なおらい)」という飲み会が開かれるのですが、それ以外にも、職人さんと頻繁に飲みに行く機会があります。なので職人さんと顔と名前が一致するようになり、現場の打ち合わせでかなり深いところまで話すことができます。設計事務所がディテールなどを決めて指示していくのではなく、職人さんとのディスカッションの中で作っていくような文化があります。

スクリーンショット 2021-05-17 20.15.15©︎小野良輔建築設計事務所

伝統的な建築としては、屋根が入母屋で軒が低く、外壁には椎の木を使っていること、またトタンの小波板を使った屋根が多いといった特徴が挙げられます。
これは高倉の貯蔵庫で、もともと一つの家ごとにあったり、集落で共有したりしていたような建築でした。湿気を防ぎながら食べ物を貯蔵するためのものが今でも残っています。もともと茅葺だったものが板張りに変化したり、ボリュームが低くなったりと、変化しながら今も残っています。

画像11©︎小野良輔建築設計事務所

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今考えていること

コンテクストをどれだけ強く表現していくかを考えています。現在の事務所がある集落から離れていくと、古いものと新しいものが少しずつ混在しているのですが、中心市街地に行くと全く違う新しいものだけが存在しているような状況で、奄美の風景が断絶されています。

スクリーンショット 2021-05-17 20.15©︎小野良輔建築設計事務所

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©︎小野良輔建築設計事務所

そこで私は「奄美らしい風景」をどう更新するかを、考えたいと思っています。
過去の焼き直しではなく、合理性の下で、修正しながら昔の風景の地続きになることを目指しています。

奄美らしい風景|施工中のプロジェクトの紹介

「住倉」(2021現在は竣工。https://www.youtube.com/watch?v=n9emJjwqiMs)
僕が事務所を開設して初めて手掛けたプロジェクトです。1番時間をかけているものでもあり、ようやく今年着工しました。プログラムは別荘です。お施主さんは年に何度も奄美へ来島し、一人のときもあれば、大所帯で来ることもあります。集落の雰囲気が気に入って土地を購入しており、地域との交流を求めていました。

敷地は奄美南部の海が目の前に広がる嘉鉄(かてつ)集落にあります。
集落の海には奄美の代表的な樹木のガジュマル があって、とても気持ちの良い小径を通って海に至ります

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©︎小野良輔建築設計事務所

ここでは「風景の更新」をテーマに考えていくのに加え、「大人数で集まることのできる場所」「集落の人に受け入れてもらうこと」から形状を導き出しました。プロポーションは奄美大島の伝統建築の高倉の形状に近いものとしています。

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©︎小野良輔建築設計事務所

奄美の伝統的な住宅では、主屋と台所(トーグラ)という二棟が標準で、部屋がさらに必要になれば分棟で増えていくという、台風に抵抗するための分棟型が採用されています

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©︎小野良輔建築設計事務所

一方で、この地区では人が集まる機会が多く、集落では家族だけでなく知人全員で100日祝いや入学、卒業祝いを行うことや、家族内で葬式を行うところも多いです。よって集落においての住宅は「住宅以上」のもので、どちらかというとコミュニティセンターに近いです。
このような建築の需要を踏まえ、今回は分棟にせず、断面的に再解釈しました。もともと見慣れた高倉のような形のダイアグラムとなっています。オモテとウラの2層に分け、オモテを個人の生活のための機能空間、ウラを大人数で使える住宅以上の空間と定義し直しました。

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©︎小野良輔建築設計事務所

別荘ということもあり、一階の大半は土間として仕上げ、人がいないときに倉庫として使えるようにしています。二階に上がると、集会に備えてがらんどうの空間と物置があります。また、屋根は海に対して大きな開口を作るのではなく、台風の対策のために閉じていく方向で、部分的に開く構成を考えています。

細かいディテールでは、伝統的なディテールの飾り役物の寄せアンコウやトタン小波板を参照したり、トップライトの直射日光を防ぐために奄美の木工作家さんとフィルターの作り方を検討したりしています。
構造計画では、方形形状にすることで見付面積を抑え耐風性能を高めることや、トラスを構成し、筋交なしでもたせるような工夫をしています。
あとは、奄美に鉄が入ってきたのは鹿児島の統治下に置かれた後だったという文化的背景についても考えました。納まりでは特殊金物を極力使わず、普通の金物を使って解決するようにしています。複雑な仕口の場合は3Dで寸法図を合わせ、大工さんが手加工するようなプロセスとなっています。

廣岡|ありがとうございます。面白かったです。
   では最後に湯谷さん、お願いします。

編集:伊藤萌、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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