第5夜 若手建築家プレゼン大会|TOPIC1 「つくること」の探求と学び(工藤浩平さん)
この記事は、よなよなzoom#5「若手建築家プレゼン大会(2020年5月30日開催)」でのプレゼン内容です。
「つくること」の探求と学び|工藤浩平/工藤浩平建築設計事務所
こんばんは。今日は、2つの近作と1つの進行中のプロジェクトについて、以下のキーワードで話していきます。
・デザインビルド(作る側と考える側についての関係性)
・ブルネレスキの職能から現代の建築家を考える
・どこにお金をかけるのか=コストマネジメント=作品を作ること
・オーダーメイドとレディーメイドのハイブリッドもしくはその境界
東松山の家で考えたこと。どう作っていくのか。
©工藤浩平建築設計事務所
これは独立後最初に手掛けた作品で、増築と改修をしています。本家の隣に分家として建てられたのが100年くらい前。35年前に増築して、その後、増築改築を重ねてきたような建築なので、2つの家を外部のブリッジで繋ぐような複雑な二世帯住宅の形になっていました。孫ができたことをきっかけに新しい暮らしを求めた施主からの依頼を受け、設計が始まりました。
©工藤浩平建築設計事務所
新築も検討しましたが、思い入れのある奥の離れを残して改修、新しく必要な分の増築を選択しました。
そこから設計を進めるうちに「コストが合わない」という壁にあたり、「分離発注」という手法を選択しました。それでもなかなか相性の良い職人と出会えず苦しみました。でも、この建築を作ることを絶対に諦めたくなかったので、最終的には自主施工する部分も設け、実現させました。
もともとのお施主さんの生活が外で繋がっていたこともあり、外への抵抗感が少ないのが特徴でした。パキパキとおれている屋根形状は、人によってはもしかしたら僕の前職であるSANAAの建築っぽく見えるかもしれません。でも、自分としてはSANAAとは違う解像度でこの住宅を見ています。違いをあげるとすると、周りに着地した自然な開き方をお施主さんと切実に目指す、というところでしょうか。
そして僕は、この建築を通して、ストラクチャーに強い興味があるんだな、と気付かされました。この建築では、鉄骨造の既存離れと木造のリビングダイニング棟、RC造の半屋外の屋根の、それぞれバラバラなストラクチャーをどう繋いでいくのかを考えています。
©工藤浩平建築設計事務所
作ることを考えることの大切さ・作る体制、作り方を考える
かの中世イタリアの巨匠・ブルネレスキは、ドームを作るときに、ドーム自体だけでなく、材を持ち上げるクレーンやリフトから設計していたとされています。
建築を作ることとは、そういった"つくりかた"をつくることに参加し、責任を持つことなんだろうと思います。今の日本の建築業界の作品を見ると、考えることには長けていますが、どこか作ることに対して弱い面があると感じています。僕は、皆さんがどれだけ作ることに対して考えているのか聞いてみたいとも思っているんです。お二人はどうでしょうか。
廣岡:設計者側が作ることに対してとてもナイーブな印象はあります。自分はDIYすることもありますし、自宅も自主施工で作っていますので、手を動かすことでお金の発生するところや流れが分かった部分はありました。
また、施工する側の作業と、設計者として自分たちが未来について考えていることに対する対価が同じ、もしくは後者が低くなっていることへの違和感もあります。東北の震災復興の現場で起きた入札不良の状況などを見ても思うのですが、実際につくる人である施工者側と設計側の溝を埋める鍵は、作り方を考えることにあるんじゃないかと考えています。
榮家:特徴的な設計をしようとすると、作り方を考えないといけないですよね。しかしそこで施工者と敵対するのでは良い建築は作れません。施工者を巻き込んで味方につけていけるように意識しています。
工藤:僕も作り方を考えることがとても重要と考えているんですが、作ること、考えることを常に行き来しながら考えていきたいんです。時には作ることを優先し、諦めることもでてくる。そういった勇気を持ちたいと思っています。そのうち、諦めたという言葉ではなく、前向き変換したといえるような建築をつくっていきたい。
この建築では、RCの柱の上に、あらかじめ地面で組んだ木の屋根をのせています。
この設計で見積もりをとると、想定よりも高い請求が上がってきました。それは作り方が不明瞭だったからだと思っています。でも、どうしても実現したかったので、予算内でどう作るのか検討を重ねました。
その結果、自分で施工する部分も出てきました。近くのホームセンターでボイド管を買ってきてRCの型枠にするのも、僕自身がリードしながら職人と一緒に作りました。建築業界から見た施工精度としては、素晴らしいものとは、言えないと思います。
©工藤浩平建築設計事務所
下で組んだ木の屋根をかける際、固定すべき高さを3Dでその場で測り、大工さんがそれに合わせて足場を作って固定をするなどの工夫もしました。
©工藤浩平建築設計事務所
その場でできそうなところを探っていくような設計監理ですね。それは自分がそこにいて、設計者でありながら施工者であったからできたと思っています。そこまでしてでも絶対にこの屋根を作るという意志があった建築なんです。
©工藤浩平建築設計事務所
続いては、「プラス薬局みさと店」です。
©工藤浩平建築設計事務所
このプロジェクトは、自分の中で「作ること」を考える大きなきっかけになったものでした。いま思うと、SANAA時代の仕事は、環境に恵まれていたこともあり、お施主さんも作ることに積極的で理解があったと思います。一方で、独立後、自分はただの30代の若者なんだなぁ、と痛感しました。僕は親が工務店を経営していることもあり、ある程度自分でいくらくらいかかるものかは把握しています。それゆえに、施工者の提示してくる額を見て愕然とすることもありました。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、群馬県高崎市の福祉施設に囲まれた一角に作る薬局「プラス薬局みさと店」を紹介します。
©工藤浩平建築設計事務所
この建築では、調剤室を中心にプログラムをシンプルに計画しました。この建築は住宅よりも規模は大きいですし、いろいろな人を巻き込んでいるため、前回のように自分で施工することはできませんでした。
でも、自分の設計を突き詰めていきたい。そこで、以下の項目を重視して設計を進めました。
・ディテールの簡素化、標準化にし、作り易くする
・ストラクチャーの合理性と施工性と経済性をオーバラップさせる
・エンジニアリング(構造・設備)を徹底すること
・異なる物性のストラクチャー(ガラス、サッシ、木など)の強度を見極める
これらを意識しつつ全体の透明性を担保することを重視しましたし、そこに予算を注力させました。
この検討の中で整理されて生まれた2750グリッドで全体が構成されています。
©工藤浩平建築設計事務所
更に、現場監督の経費がどれだけかかるのかなど施工者ビジネスモデルと向き合い検討を行い、直接工事費と利益率などを把握し、施工者に寄り添い、作る体制にも手を入れていきました。まさに「作る」ことをデザインする経験で、ブルネレスキがリフトから作るというのはこういうことかと頭をよぎった経験でした。
最後に、現在現場を進めている「秋田 楢山の別邸」のお話をします。市立公園の麓に建つ建築です。
©工藤浩平建築設計事務所
茶室の離れと住宅部分の母屋の計画ですが、雪が多い秋田で徹底的に「開いた」建築を作ることを探求しました。お施主さんからの要望で、床面を周りの住宅より高く設定することで浮いた建築を表現しています。
©工藤浩平建築設計事務所
全体としては、設備コアを持った各室が色々な方向を向き、雁行しながらつながる構成をとっています。ガラスを選択しつつも環境的に快適な状態を保ったまま、いかに開くかを作る側から考える挑戦でした。結果として、全面シングルガラスで成立する、入れ子状の住宅となりました。
©工藤浩平建築設計事務所
©工藤浩平建築設計事務所
廣岡:作ることに対してコストの搾取と戦っている様が非常に勇敢でした。一方で、戦っているというより合気道のように寄り添っているのかもしれない。
工藤:コストが理由でやりたいことを制限されるのは絶対に避けたいんです。最近は、サッシに至ってはメーカーに負けない独自のものを生み出そう!というマインドになっています。そこまでの意気込みがないとコスト内で作りたいものを作れないとも思うんです。実家が工務店ということもあり、作る側のネットワークに入り込みやすいというのはあるので、そこは強みとして認識しています。同時に、そこまでして頑張らないと建築家として表現できなくなってしまうのではないかという不安もあります。
僕はまだ若手なので、なかなか公共建築といった大きなスケールの建築を手がけるには時間がかかりそうですが、今できることを考えていき、物性へのまなざしを大事にしていきたいです。そこを長所として積極的に捉え、コストに負けない作り方を考えたり、他の人にも負けない違うやり方で頑張っていこうと思っています。
廣岡:僕も物性は考えられるだけ考えています。作ることを考えてないわけではないのですが、工藤さんほどのめり込めていないのが現実です。
同時に、1970、80年代位の作品を見ているともっと作り方まで丁寧に考えていると痛感するんです。例えば菊竹事務所出身の遠藤さんのように、昔は作り方まで全てスケッチ等で書き込んで、考えてありました。本当はそこまで書かないといけないと分かってはいるものの現代ではなかなか難しいです。
工藤さんがおっしゃるように、新しいものを作るということは、作ることを作ることだと言う認識もあります。作る人がそばにいて、一緒に考えていかないといけないのですが、現代社会はそれもなかなか難しい状況です。でも一方で、簡単に作れても、難しく作れても、作ることは楽しいと言う事実もあると思っています。簡単に作れるシステムや商品がたくさんあるという現代社会をポジティブに捉えると、そのような簡単な施工を利用するのも間違いではないと思う。ただ、それに迎合していくだけではよくなくて、取捨選択が必要になりますよね。
編集:金森あかね、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)