第12夜 建築家と構造家の間の議論|TOPIC2 円酒昴さん(円酒構造設計)と浜田晶則(浜田晶則建築設計事務所)のコラボレーション作品

この記事は、よなよなzoom#12:構造家と建築家の間の議論(2020年11月13日)で、ディスカッションされたものを編集しています。

円酒昴さん(円酒構造設計)と浜田晶則(浜田晶則建築設計事務所)のコラボレーション作品

円酒:簡単な自己紹介からしたいと思います。円酒昂です。円酒という名前はよく変わっていると言われます。僕自身は東京生まれですけど父親が富山生まれなので「円酒」は富山の名前です。でも今は富山にもほとんどいないので、他にいらっしゃったら親戚ですね。

さて、僕は法政大学の佐々木睦朗研究室出身で、その後小西事務所に入りました。学生時代進路に悩み佐々木先生に相談したところ、小西さんと佐藤淳さんを紹介いただきました。悩みましたが、内定をいただけた小西泰孝建築構造設計に入ることを決めました。2017年3月まで働き、その後、独立して今に至ります。

僕自身の紹介はこれくらいにして、先に浜田さんから作品についてお話いただきたいと思います。


木造の工場の挑戦|綾瀬の基板工場

浜田:みなさんこんばんは。今日は円酒さんと3つのプロジェクトについて話したいと思います。僕からは概要だけざっとお話ししますね。

スクリーンショット 2021-05-11 16.46©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

スクリーンショット 2021-05-11 16.47.04©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

一つ目は「綾瀬の基板工場」という「木造」の工場です。一階に機械を置かずフリースペースにするというコンバージョンです。可変的に使うことができるように間仕切りや外側の動くスチールのルーバーなど、ユーザーがどんどん自分で空間を作っていけるような、あるシステムをもった建築をつくろうというプロジェクトとなっています。

構造に関しては円酒さん、お願いします。

円酒:これは小西事務所時代、僕が退所する2年前くらいから担当になったプロジェクトです。

スクリーンショット 2021-05-11 16.47.12©︎円酒構造設計

2015年の7月22日に僕が担当になって浜田さんに送った資料になります。浜田さんの場合は早い段階で建築計画案として形がほぼ決まっていました。でも、おそらくSDレビューに出した時にはまだ中に柱があって、浜田さんと小西と一緒に「中に可動間仕切りが入るのでこの柱なくせないのか」という議論をしながら資料を作り、「中に柱入りませんよ」とか「筋交は各方向8面必要ですね」というやりとりをしていた記憶があります。

このプロジェクトで難しかったのが、接合部が一点に集約されてしまっているということです。仕口で工夫する方法もあるとは思いますが、小西事務所は比較的ハイブリッドの方が得意なところがあり、構造材料の良いところを使えばいいという価値観があったので、いっそ接合部は鉄骨金物を使ってしまおうということになりました。

スクリーンショット 2021-05-11 16.47.26©︎円酒構造設計

その後にこの資料を浜田さんに送りました。角形鋼管にガセットプレートを溶接して、いろんな角度と方向に出していきました。それをドリフトピンでとめていくわけですが、ドリフトピンだけでとめると乾燥収縮や割れでスリット部分が開いてしまうことがあるので、対策として先端に開き防止の木ねじを入れましょうという登壇をしながら、構造システムを考えていきました。

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©︎円酒構造設計

次は独立した後のプロジェクトです。

宮下パークに設置されているベンチ

©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

最初に動画で浜田さんに説明してもらいます。

浜田:そうですね、3分くらいの簡単な動画です。

スクリーンショット 2021-05-11 16.48©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

飛騨の森の中に入ったときに、根が曲がっている木があったんです。それを見てなんだか美しいなと思い、何かに使えないかということからスタートしたプロジェクトです。
曲がっている木はなかなか使い道がありません。しかし、こういった物にも価値を見つけられないかなと思い、プロジェクトに使おうと思いました。まずは木を3Dスキャンして、データを見ながら検討しているうちに、レシプロカルのような、丸太がそれぞれ支え合って立っている構造が出来ないかなと思いました。
できるだけ簡素な施工を実現するために、両側を2回だけ切るという最低限の操作で構造体を自立させる方法を考えました。ただ、このとき、3次元的な加工が必要になります。複雑な形状をもった自然物を扱いやすいように製材するのではなく、ホロレンズというARグラスを職人さんに付けてもらい、職人技術とデジタル技術を使って、なるべくそのままの自然な形状を使おうという挑戦をしたプロジェクトです。

スクリーンショット 2021-05-11 16.49 ©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

3次元的にボルトをまっすぐ打つために、ガイドをAR上に表示させ、2点をボルトでとめています。現在、宮下パークに設置されているのですが、自然な造形が子供達の野性を誘発しているのか、遊び場のようになったりもしています。
ではここからは円酒さんから構造の方をお願いします。

円酒:最初の打ち合わせで、レシプロカル構法で部材同士が支え合う作り方が面白いんじゃないかと浜田さんから提案がありました。荷重条件が複雑だなと、思いつつ、まずは一本一本の重さを実際に求めて算出してもらいました。

スクリーンショット 2021-05-11 16.50 ©︎円酒構造設計

最初に解析したときに、支点ピンはスラスト反力が発生しており、足元が滑る可能性に気づきました。まずはプレートを入れて足元を安定させようとしました。でも、このプロジェクトでは床面を仕上げられなかったので、プレートが露出するため今回は避けたい。そこで検討したのが、接合部のボルトです。

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©︎円酒構造設計

プレートをなくした場合、そこに生じるねじり回転さえ押さえ込めば、基本的に自己釣り合いで形を保持できます。なので、ボルト2本でこのねじり回転を止められるようなボルト配置と太さにしました。その後、3次元モデルで外からボルトが見えない配置を検討してもらい、最後に浜田さんがホロレンズでリアルタイムに角度と位置を把握できる技術を施工に取り込むことでプロジェクトが完成しました。

このようなボルト角度や配置が複雑なプロジェクトは頭では構造システムを考えられますが、実際に施工精度も含めてやろうとするととても大変なものです。それがホロレンズで実現できたこと自体が面白かったですね。


富山の宿泊施設

スクリーンショット 2021-05-11 16.51©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

浜田:現在設計中の4人から6人まで宿泊できる1棟貸しの宿泊施設です。敷地が富山で、来年の今頃にはオープンするかもしれないプロジェクトです。
ここでは霧や雲など水にまつわる現象から設計していまして、雨の日には水が屋根から滝のように流れ、霧が発生して雲がかった景色を楽しむような没入型の体験ができる宿泊施設になっています。建築が体験型の作品となり、建築そのものがコンテンツとなるような宿泊施設を設計しています。

スクリーンショット 2021-05-11 16.55©︎円酒構造設計

構造は全て曲面ガラスの外側に柱が落ちているといます。同心円プランで、見付面積をなるべく少なくしたいなという意図です。

円酒:このプロジェクトの相談を受けた時点で浜田さんは最初から形をバシッと決め、図面を早い段階で描かれていました。普通にラーメン構造でも解けるんですけど、それだとちょっと面白くないということがあって。最初に提案したのは柱をそのまま階高のラーメン構造でやるのではなく、中間梁をブレースのように入れて柱を細くする案です。同心円上に上手く斜めに入れていけば、ブレースみたいに効くかもしれないということを提案したんですが、これが浜田さんに ウケなくて。笑

佐々木翔さんの時もそうですが、浜田さんとのやりとりは何個も構造案を投げ、二人で選んでいく感じです。浜田さんの中で構造材が太い建築ではなく、存在感の薄く、細くしたいという意図があり、そこがポイントでした。

スクリーンショット 2021-05-11 16.55のコピー©︎株式会社浜田晶則建築設計事務所

確かに、内側のスパの柱はお互いのスパンが短くなるので細い柱にした方が印象は良いかなと思いました。でもこのプロジェクトは富山県で、積雪量が1.5m以上あります。なので、柱がどうしても大きくなってしまいます。そこでその部分をフラットバーに変え、強軸方向(半径方向)はラーメン構造、弱軸方向(円周方向)は座屈長さをギリギリにしたラーメン構造を提案しました。そうすると外観としては見付幅が薄いフラットバーの柱が見えてきます。

僕と浜田さんのやりとりでは、浜田さんの中での形やイメージが最初から有って、徐々にイメージ共有とブラッシュアップしていくという進め方ですね。
さて、浜田さんとの設計はこれくらいにして、続いて、佐々木翔さんとのコラボレーションの紹介に移りますね。

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編集:中井勇気、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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