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第13夜 街の景観と建築| TOPIC1 「景観」と「風景」(廣岡周平さん/PERSHIMON HILLS architects)
この記事は、よなよなzoom#13:街の景観と建築(2020年11月21日)でディスカッションされたものを編集しています。
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「景観」と「風景」(廣岡周平さん/PERSHIMONHILLS ARCHITECTS)
今日のテーマは「街の景観と建築」です。僕は風景や景観はとても大事だと思っていますが、最近の建築の議論の中でまだあまり盛り上がっていないのかなと感じています。そもそも僕の定義では、景観と風景は違うものです。「景観」とは見える物理環境すべてを指していて、「風景」とは主観的な情動による物理環境の理解だと捉えています。この定義だとどちらも屋内外に囚われない、内部的なものも風景になり得ます。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
これはアルジェリアで見た集落なんですが、よく見ると一つ一つ色が異なっていたり、アーチが異なっていたり、建築や生活が集合している様に美しさや力強さを見出していました。このような集落や昔の集落の様相は風景と景観が一致するような場面があったのではないのかなと思っています。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
話は変わりますが、東山魁夷さんの「年暮れる」で描かれた昔の京都は、ほとんどが同じような瓦屋根でできています。その中にバラバラな差異が見え流のが面白いですよね。一方、同じ視点から撮られた現代の写真では全く違う現代的な状況になっています。
このことを考えている時に、塚本由晴さんが「20世紀の建築にできなかったことは集合としての姿だと思うんです」と、それが「今の街並みとか都市空間の貧しさにつながっているわけです。自分が住んでいるところに自信が持てない。20世紀の成果に上に成り立ってきた副産物だと思うんです。」とおっしゃっていたのを思い出しました。現在の都市や建築は、個別では高いクオリティーでも、集合した時の価値観が弱くなっていると思っています。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
異なる考えのものが集まる今の都市空間では、どうしてもバラバラな景観が表出します。そんな都市空間の中でどうやって設計していこうかを考えています。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
大学でよく紹介されていた、ラルフ・アースキンの「バイカー」という再開発の作品では、長細いうねうねとした建築のなかで仕上げが切り替えられていたり、地形に合わせて高さが変えられていたりしています。一戸一戸特徴が違う、バラバラなものの集合の中に、集落的な様相が見えるようにつくられています。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
ちぐはぐな建築が集まっても面白い景観は形成されます。
街の景観に合わせたり、街の景観を驚かすような建築を作ったり、あるいは建築のなかに潜むタイポロジーを考えて、
街並みにどう影響するかを問う人がいます。
建築家の街の景観に対する態度は色々あるんだなあと。
僕は、自分が住んでいる町に自信が持てる豊かな都市空間にむけて、どのように応答をすることで建築を通して貢献できるかを考えたいと思っています。
立体的に都市を形成する/芝公園のペンシルビル
ここからは僕らの実践を紹介しますね。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
僕らは実践の中で、「活動が見えて関係が生まれる景観」を目指しています。
「芝公園のペンシルビル」ではボックス状の建物が建っているなか、いろんなボックスを噛み合わせて立体的に都市が形成されていくものを考えました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
最大建築面積よりも少しオフセットし、避難階段の付き方を工夫したり構造体の外側に集中して作業するフォーカスブースという空間を設けることで、それぞれ違う活動が見える立体的な景観を作りました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
自分達の活動自体が同じ箱の中にあるということではなく、都市の中で立体的に自分の活動が見えるように作っています。
家の構成を変え、街の構成を引き継ぐ/荻窪の集合住宅
「荻窪の集合住宅」では庭のように使われていたクルドサックの道を骨格に長屋をつくっていく提案をしました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
家自体の構成をバルコニーと閉じないといけないところとで二分することで庭に対してバルコニーの中に住んでいるような提案を考えました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
ここでは街の構成自体は引き継ぎ、家の構成を変えることでこの街が持っている庭、といったイメージを強化することを考えました。
街の構成要素を収集する/川崎の生活場
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
「川崎区の生活場」では川崎区の雑多な、角が多い街であることや、産業や改修により変な建築や様々なスケールの建築があることに対して応答するような建築を目指しました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
サイディングや、工業製品など、普通に街の中にありそうな素材や空間性を組み合わせることで活動を街に表していく建築を考えていました。
ずっと残るタイポロジー/歌舞伎町のホステル
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
「歌舞伎町のホステル」では、不動産業者からホステルの依頼があったのですが、過去にこの不動産業者から設計者付きで土地を売られた経験がありました。そんな状況ですので、いつ手放されるかわかりません。そこで、売られても街にとって面白いものとしてあり続けるような、ずっと残っていくタイポロジーを考えました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
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斜めに通る道に対して三角の隙間がたくさんできているので、三角形を生かす四角形をつくりました。切り取られ残った三角形に部屋を作れば、外周部に対して三角形の部屋が開くことができる骨格を持つことになると考えました。1階では店舗的に使われる場所とロビーがあり、2階以上にいくとホステルとして使われますが、ホステルとして使われなくなった時にもそのまま使える建築を目指しました。
©︎PERSHIMONHILLS ARCHITECTS
現在施工中ですが、赤く塗りたいという施主の要望に対して、どのように自分たちが考える将来的な都市構造の中のおもしろさにつながるかを考えながらやっています。
今は骨格(自分たちが考える面白くしたい将来的な都市構造)自体が活動を引き受けていますが、その骨格から活動内容がわかるようにつくるというのが重要ではないかなと思っています。
色々とお話ししてきましたが、僕がこれまでに考えてきたことが正解なのか、よくわかりません。
なので、異なる態度の4組の建築家の皆さんのお話から、みんなで景観と風景について考えられればと思います。
それでは、お願いします。
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編集:山田侑希、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)