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第13夜 街の景観と建築| TOPIC5 萬玉直子さん/ondesign/ b-side studio

この記事は、よなよなzoom#13:街の景観と建築(2020年11月21日)でディスカッションされたものを編集しています。
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私の原風景

萬玉直子と申します。今回のタイトルにもなっている景観という言葉はこれまでほとんど使ってこなかったので、今日は考えるきっかけになりました。
私は、大学は関西の武庫川女子、大学院で神奈川大学に行きまして、2010年にオンデザインに所属してもう10年目になります。オンデザインでは2015年くらいまでは一人で1作品を担当し、西田さんとの対話の中で建築を作っていくという形でした。その後、事務所の拡大とともに体制がチーム化していき、2016年にはチーフという立場で建築を作り上げるチームを引っ張っていくようになりました。その他にも個人活動として、教育現場に関わったりなどもしています。

私の原風景を改めて考えたところ、思い浮かんだのは朝のごみ捨ての風景でした。
学部時代は関西で過ごしていたのですが、3年次に隈事務所にインターンに行った際、ごみの日の朝の風景が、自分が生まれ育った大阪の堺市と東京が全然違うことに気づきました。大阪では1軒1軒自分の家の前にごみを出すため小さいごみ袋が街の中に点々とあります。一方、東京では、ごみが集まる場所があり、大きなごみの山がいくつか街に現れます。その対比が面白いと感じ、ごみの日の朝の写真をたくさん撮ったりもしていたので、少し変な学生だったかもしれません。
この気づきが街の風景を意識した最初だったかなと思います。

ここまでの話で出た言葉の使い分けについて私なりに考えたところ、景観は計画者の目線が強く、風景は住み手や使い手など個人目線な感じがしました。どちらの目線からモノを見るのかで言葉の使い分けがなされているのかなと。

これまで景観を考えたこともほぼなければ、建築を作っているんだ、という気負いもあまりなく、どちらかというと、「人や街をつなぐ生活環境を作る丁度いいツールとして、建築的な思考を通してものを作っていく」という姿勢でやっています。

今回は、最新からさかのぼっていく形で4つのプロジェクトを紹介します。

TOKYO MIDORI LOBO

まずは2020年に竣工した、『TOKYO MIDORI LOBO』です。日本橋の浜町にある複合施設で、4階建てのテナントビルになっています。1階にテイクアウト専門の飲食店、2階以上はオフィスが入っています。

萬玉さん (1)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

日本橋の浜町という街は、安田不動産さんというディベロッパーが20年前からエリアマネジメントをしています。鳥瞰写真の赤丸が敷地で、左には超高層ビルがあります。
安田不動産さんは、こういう大きな開発だともう街が良くなっていかないのではないかという危惧も抱えていらっしゃいました。遊休地となっている小さな敷地や小さな空きビルなどを使って何かを作るよりは、今あるものを発見的に評価して開発していこうと取り組んでいる、意欲的な不動産屋さんです。

萬玉さん (2)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

そういう流れもあって、テナントビルだけど、作ってから貸すよりは、貸す相手を連れてきてどういうテナントビルを作るか一緒に考える。という、普通の建築の作り方のとは少し違う形からスタートしました。
この建築では、青山のSOLSO PARKなどをやっているSOLSOの代表の斎藤太一さんにメインで携わっていただきました。浜町の10年後を緑あふれる街にするきっかけとなるようなビルにしたいという構想をもって、ITなどを駆使しながら次世代型の都市と緑の関わり方を実験していく場となっています。

萬玉さん (3)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

テナントビルを考える際、単純に床を積層させてつくることもあります。一方で、今回は、「外構やファサードに緑がある」というよりは、「働く環境にしっかりと緑を巻き込みたい」という要望がありました。人の場所、緑の場所が混ざっていくような形がいいのかなと思い、エレベーターシャフトを軸にボックスが取り巻くような構成で考えていきました。

萬玉さん (4)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

立面図だとズレがわかりやすく、平面図、断面図だとズレがわかりにくくなっているのですが、それぞれ立面的、平面的、断面的にズレがしっかり存在するようになっています。ズレのところから光や風を取り込んだり、室外機を置いたり、植物を置いたりしていて、オフィスビルとして成立させるために必要なものをズレにおいていっています。

萬玉さん (5)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

ズレで生まれている空間は70㎝くらいのキャットウォークで、ガラス面のメンテナンススペースも兼ねています。オフィスビルには珍しく、開く窓すべてに網戸を入れていて、光や風を取り入れられるようにになっているのも特徴ですね。
また、外階段を設け、上下の動線を外に出すことで、オフィスビルの上下の移動の間に一度街を感じられるようになっています。その階段を降りていった先に2階レベルくらいの高さのテラスがあり、ズレをオフィスの延長、人の居場所のようにしています。

萬玉さん (6)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

植物の場所もいろいろあります。外構の細いところに植物を植えたり、屋上には色々な食べられる植物も植わっています。実際食べもするし、実から種をとりまた育てるとか、1階のカフェで出た生ごみが肥料になるとか、このビルの中で循環が生まれています。

素材は基本的にすべて金属系のもので作られています。このエリアに無機質で工業的なものがあまりないので、私もいきなり波板などが多く出てくると違和感にならないか心配でした。このプロジェクトは、SOLSOの斎藤さんからの「素材感がない素材がいい」とか、「工場っぽい、ラボっぽいものがいい」というオーダーから始まりました。
建築としては、柱を建て、壁を作り、ガラスを入れ、外壁を張る、というシンプルな構成です。でも、普通の無機質な建物とは違い、緑も入っていたり、働く人がオープンに見えたり、街に開いた建物になっていることで、無機質なものも自然なものとして捉えられ、違和感になりにくいのかなと思っています。
緑をテーマにするときに、植物や有機的なものだけを自然と捉えるよりは、無機質なものや出てくるものを含めて自然なもの、として見れないかなと考えていました。

まちのような国際学生寮

次は2019年に竣工した『まちのような国際学生寮』です。神奈川大学の国内学生、留学生の男女200人が集まって暮らす寮になっています。基本的には吹き抜けに面した共用空間で皆で生活する、すごく大きなシェアハウスみたいな形になっています。

萬玉さん (8)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

外観を見ると、緑に囲まれた細長い建物で、地形豊かな横浜の街の高台に位置しています。敷地周辺は戸建て住宅に囲まれ、かつ、右手の道路にしか接続していない、巨大なウナギの寝床状の建築になっています。

萬玉さん (10)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

内観だと吹き抜けによってズレが多くあって何階にいるのかもわかりにくいのですが、前面道路から見た外観は四層の建物だというのがしっかり主張されています。
私は、建築は本当は内観からだけ考えられていても外観からだけ考えられていてもダメで、並列に同じ理論で考えていかなければならないと考えています。そういう意味で、内観と外観のギャップに苦しんだ建築でもあります。

萬玉さん (11)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

では、なぜこういう内観、外観になったのか。まず、この建物は全館、避難安全検証法という手間のかかる方法で防火認定をとっています。外観にも表れているバルコニーが避難ルートにすることで、内部の吹き抜けには防火区画や排煙設備のためのシャッター等を設けなくてよくなっています。内部の自由度を確保するために外部に避難ルートを確保しているわけです。外があることで内の自由度が確保されている表裏一体の形なんです。

萬玉さん (12)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

実際、外部を決めるときに、避難ルートとして200人の避難に耐えうるように、手すりや床の強度や幅員が必要でした。結果として、外側のバルコニーがかなりマッチョな感じというか、条件でガチガチに縛られ、人の居場所が少なくなっていました。外にも人の場所を作ろうかなとも思ったのですが、外部のおかげで内部が豊かになるという表裏一体感もありかなと思いそのまま進めました。


ここからは、この建築の主題である内部空間の構成についてお話しします。
自分が生活する部屋と、200人が集まる大きな一つ部屋を用意すれば、交流が生まれたり生活が楽しくなるのかと言われたら、絶対ないなと思いました。一方で意識したのは、「集まって住むからできること」みたいな、ピュアなことでした。個性が集まって全体性ができるみたいなことが、いい暮らしや楽しい健康的な暮らしを支えてくれるのではないかと考えました。

萬玉さん (14)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

プロポーザルで求められたのは、いかに生活を通した交流空間を作れるかということでした。そこで最初に考えたのは、建物の形というよりは交流って何だろうかということです。200人が集まることから考えるよりは、1人から何が生まれるか、を考えました。1人がアクションを起こすことでどういう集まりが起こるのかを考え、1人がアクションを起こせる環境を作る方がいいのではないかと考えました。
国際学生寮ということで1人1人バックグラウンドが違うというのが一つの個性だと考え、ちょっとしたきっかけで文化をひらくことを意識しています。例えば、自分の好きなマンガだったり料理だったりから興味を持ち合い、そこからコミュニケーションが生まれ、それが日常的に起こるということを目指しました。イベント的に集まる交流よりは、持続可能な交流の形が生まれる寮を作りたいと考えていました。

萬玉さん (15)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

個室がとてもコンパクトになっているところが特徴的で、生活のほとんどが共用部で受け止められるような配置になっています。

萬玉さん (16)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

建物外周部に個室が並んでいて、個室から一歩外に出ると、シェアキッチンや水回り、学習スペースやくつろぐスペース、テレビを見る場所などが広がっています。個室のラインが防火区画ラインになっているのでスチール扉を採用し、閉じてしまうと音も聞こえません。共用部と個室がしっかり分かれています。
しっかり分かれている中でも、個々の部屋にはこういう人が住んでいるんだよということがわかるだけでコミュニケーションのきっかけになったり、共用部の風景を作ったりするんじゃないかと思いました。そこで、扉の横に900×1200くらいの有孔ボードをかけて、住む人が自由に使いアピールできるようになっています。

萬玉さん (17)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

共用部をまちのような場所にしたいなと設計をしているとき、〈まちのような〉には目に見える〈まちのような〉と目に見えない〈まちのような〉があるんじゃないかと考えていました。目に見えない〈まちのような〉は、街を歩いているときに出会う、見え隠れする空間のようなものです。選択性があってひとりでも心地よくいられる居場所がある、みたいな街の環境のことを指しています。もう一つの目に見えない〈まちのような〉は、みんなの場所なんだけどお気に入りがあるみたいなものです。みんなの場所だけど自分の場所でもあるという所有感覚をパブリック空間で持てるようになっている、みたいな街に対する所有感覚のようなことを指しています。

萬玉さん (18)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

ここまで説明をしていなかったのですが、吹き抜け空間にあるPOTと呼んでいる空間について話したいと思います。
POTは吹き抜け空間の階段の踊り場みたいな空間が拡張してソファーを置いたり、本棚になっていたり、畳スペースがあったり、勉強するためのカウンターがあったりというアクティビティを受け止めてくれる居場所になっています。大きな吹き抜けの中だけど、ほんとに小さなスケールに1人でも居られる、10人でも集まれるという居場所が多中心に展開しています。
このPOTという場所を多中心、多様な環境にするとなったときに形ももちろんですが、求心力のある場所になっていた方が、多様さだったり多中心さがでるのかなと考えて、POTやコーナーを作るときに仕上げをそれぞれ変えるというのをやっています。
具体的にはワークショップでもらったアクティビティのアイデアをベースにライブラリーPOTとかDIY POTとかおしゃべりPOTとかを作ってそれぞれ仕上げを変えていて、壁を黒板ボードにしたりなどしています。

萬玉さん (19)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

これは吹き抜けの風景です。街っぽさを感じる要素に光があるなと思い、明るい場所もあれば暗い場所もあるみたいに、陰影がある空間を作っています。中央の写真だと上のPOTには光がたまるけどその分下のPOTが暗がりになっています。
吹き抜けなので色々なものが見えてきてしまうのですが、特別隠そうとはせずに、例えば階段のささら桁の鉄骨とか構造部材とか手すりとか配線配管とかも見えてくるのですが、それぞれ要素を人の行動も含めてフラットにみて、人のための場所を作る時に出てくるものをどういう風に配置したらいいかなと考えて作りました。

萬玉さん (20)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

隠岐國学習センター

3つ目が2015年に竣工した島根県の離島にある『隠岐國学習センター』という公立の町営塾です。築100年の民家を改修した建物と後ろに増築棟があるという建築になっています。

萬玉さん (21)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

島には大学や専門学校がないため高校卒業後は島から出て行ってしまい過疎化も進んでいます。一方で、海士町は教育魅力化プロジェクトという教育改革からまちづくりを行っています。この建築は、島の唯一の高校と連携した学習支援を行う公立塾になっています。

塾に対して、都会で育っているとビルの一角でまぶしい蛍光灯の下で机に向かって勉強しているようなイメージがあります。でも、ここは1学年1クラスくらいの高校の生徒数で、かつ、受験する子もいれば就職する子もいるという色々な子が来る塾なので、1人1人に寄り添った学習をしています。そのため、ラーニングの形態にもバリエーションがあり、もともと民家だった場所とプラスアルファ増築した場所がそれを受け止めているような建築になっています。

萬玉さん (22)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

外観です。瓦を今後使うことがあるのかなと思いながら瓦屋根を使った建築で、手前に見えている赤瓦の建物が本建築です。湾に沿って家が並んでいる中に建っています。

萬玉さん (23)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

東京から片道7時間かかるので、関わっていた3年間はさながら島流しのようでした。
フェリーターミナルから歩いて行った先に学習センターがあり、学習センターの横の坂道を登っていくと高校があるという立地になっています。朝、学習センターの横を通り高校に通い、帰りに学習センターに寄って勉強していき、島内の子は家に帰り、島外の子は高速船で帰るという形になっています。

萬玉さん (24)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

もともと手前に建っていた既存の民家の改修なので、建て方を変えず、今ある既存の民家の風景を残すという、島に公共建築を建てる作法のようなものは守ろうと思っていました。一方で民家を開くだけで本当に開かれるのかとも当時考えていました。事務所に入って2,3年目の自分は、単純に改修するだけで何が建築になるだろうかとも考えていました。
最終的には、裏の高校への通学路の坂道を通ってメインストリートに降りてくるみたいなつくりの街だったので、手前のメインストリートと裏の高校の通学路を繋げるような動線を入れてみるといいんじゃないのかと思って、改修棟に斜めに道を入れるという一見乱暴なことをしています。

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

平面的には島民がよく使うメインストリートと通学路の坂道をつなぐ道を挿入し、その道の角度に合わせて増築棟を建てるプランになっています。

萬玉さん (26)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

改修棟はヴォリュームはそのままですが、瓦や外壁は使うことができなくて外側仕上げはすべて新しくしています。先ほどの改修棟を貫く道は通り土間と名付けていて、建物の中にも道のような空間が伸びていて、そこが開かれた土間として下足のまま使える、地域に開かれた空間になっています。

萬玉さん (27)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

高校の裏の坂道を降りるところから見ると、これまでは増築の建物もなく、既存の建物も坂道に対して入口はなかったので裏っぽく建っていたのですが、坂道から延長するように道が降りていくような動線が生まれたことで、高校からの帰り道も自然と人が来るような裏のない建築になったと思います。

萬玉さん (28)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

もともとの道と新しくできた通り土間に対して建っている増築棟の方の建物も同じように石州瓦で葺いた建物になっています。

萬玉さん (29)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

風景ということを考えたときに、この建築は既存の建物を尊重して、もともと葺かれていた石州瓦で葺くようにしたり、外壁も杉板で街並みと揃えるようにして風景になじむようにしています。そこに、まちと地続きの新しい動線を入れることで、人の動きとか集まりみたいなものが見えてきたり変わったりすることを感じました。ただ道を通しただけでも風景は変わるのではないかなと思いました。

萬玉さん (30)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

その他にも色々と取り組んでいて、当時(2012,3年頃)はリノベーションが建築の大きな評価軸に乗る前だったのですが、島にある普通の民家を継承して公共建築にするってどういうことだろうと考えて、島の人と一緒に作るということをやっていました。
既存の梁などは使う前に磨いたり柿渋を塗ったりするワークショップを行い、自分たちで建物をメンテナンスするということをやっていました。街から見た風景としては赤瓦で杉の外壁なんですが、使っている人たちの印象としては、自分たちでメンテナンスしている築100年の軸組みというものに認識が変わります。風景としても印象が強く、今後も残っていく可能性が高まるのではないかと思いました。
こんなふうにプロセスや関わり方を作ることでも見え方が変わってくるのかなと感じたプロジェクトでした。

萬玉さん (31)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

おおきなすきまのある生活

オンデザインに入って初めての住宅作品の『おおきなすきまのある生活』です。根津の街に建っていて、敷地は9坪しかない狭小住宅です。

萬玉さん (32)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

初めて担当するだったので建蔽率を意識したのも初めてくらいでした。9坪しかない敷地に建蔽率60%だとさらに小さいし、9坪しかないなら9坪全部使いたいですよね。そんな中、街をうろうろしていたとき、家と家のすきまに目が止まりました。日本の家は律儀に隙間を空けて建てていると思うのですが、歩いて見ていると隙間はあるのに室外機が置かれていたり、配管が通っていたりで暗い場所としてみんなに諦められているのが気になりました。
この都市の隙間に「自分の家と自分の家の間」みたいな認識を持てると、路地なのか隙間なのか曖昧な空間ができるのではないかと考え、非建蔽率の40%部分を敷地中央に持ち、隙間を残して建つ形を採用しました。左の幅の細い方が階段室になっていて、右の方に室が入っています。

萬玉さん (33)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

部屋から階段室に行くときに隙間を渡ると前面道路が見えたり、別の部屋が見えたりするようになっていて、隙間から見上げると自分の家の廊下や窓を見ながら空が抜けるようになっています。隙間の壁面はウレタンのつやあり塗装になっていて明るい空間になっています。また、隙間には植物が置かれたり、洗濯物が干されたりして生活が出てくる場にもなっています。

萬玉さん (34)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

修士設計のときに生活の増殖する道空間と建物の関係性について論文もセットでやっていたので、その関係もあって、入ってすぐ1人で物件を担当させてもらえたのかなと思います。今思うと恵まれていたなぁ、と思います。

その修士設計では、魅力的だと思う風景はどんなものかということを考えていたのかなと思います。街を歩いていて魅力的だと思っていた路地みたいな場所を分析しました。路地にも色々あり、また、道にも道を空間として捉えたら色々あるなと。その中で、ちゃんと光もはいってきていて、生活の場として使われているけど、そこが誰のものかはわからない。そんな、人の家にお邪魔したような感覚になるような場所に惹かれてました。そういう道空間を、生活の増殖する空間というふうに定義して、建て替えの更新手法を提案しました。

萬玉さん (35)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

もう一つ風景繋がりで、修士時代のノーテーションの授業の時の『風景のパッチワーク』というものを紹介します。これは、風景を構成しているものを分類して、それにテクスチャーを勝手に決めて、自分で撮った写真にグリッドを引き、そのグリッドに自分の決めたテクスチャーを当てはめるとどういうパッチワークがでるのかというスコアを集めたものです。単調なパッチワークができるよりは、複雑なパッチワークができた方がいい風景だということを導いています。より複雑なパッチワークを作るには色々な要素を集合させることが必要で、それがいい風景に繋がるというような逆説的な感じで話していました。

萬玉さん (36)©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

萬玉さん (37)

©萬玉直子/ondesign/ b-side studio

最終的に思ったのは、景観とか風景とかいう言葉を使うときに、内とか外とか関係なく使えるなということでした。自分の街での体験から景観を考えると、建物というよりは道空間に影響されているなと個人的に思っています。景観は建物一つでできるわけでもないし、建物も単体で完結することが果たして豊かなことなのかと思ったときに、建築をつくること=街の一部をつくるという感覚で取り組めるとより街に寄与できるなと思いました。

自分としては、街の景観については、建築が建つところの前面道路の道空間からだと手をつけやすいなと思いました。
景観とか風景を建築だけで考えると不動のものを扱うような感じになってしまいがちですが、建築か植物か人かというよりはそれぞれをフラットに扱って、組み立てていくということをしたいなと考えています。そう考えると建築を成り立たせるために必要な室外機や雨どいも景観の一部だし、どういう人がアクティビティをするのかっていうのも景観だし、そこに屋根をかけるのも景観だと思います。

(以下、ディスカッション)

廣岡:最後の動くもの動かないものを等価に扱いたいというのは、景観のことを考えているときに零れ落ちてしまっていた視点だと思います。先ほどのPEAK STUDIOさんの杉の階段とかのように、ささやかなものだけど将来的には材質が変わっていったり、ものが変わっていくことを含めたりだとかも近しいですよね。あとは、板坂さんの蒲田での卒業制作で見ていたカケラというものも、構成というには弱いものだけど、それがあることで風景や景観になっているということが表れるのもこの話に通じるのではないでしょうか。
例えばイタリアの集落を見ていると、屋外の路地にテーブルとかが置いてあってそこで日中ワインとか飲んでたりするんだなっていうことがわかる、みたいな場がありますよね。景観や街の文化を伝えるのに重要な一部だと思っていて、そういうものが同時的に扱われる世界がいいなと思っていました。
まちのような国際学生寮もTOKYO MIDORI LABOも見せてもらっていますが、特に国際寮のときに感じていたのは、両側ともに街があるなということでした。寮の中にファンパレスでいう立体街路みたいなところにいろいろなアクティビティがあります。廊下を歩いていると、カーンがいうような通りで人が育つような世界観もありました。けれども外部に出たときに避難通路とはいえ、決まり切った動線自体が今の都市構造のマンションの通路みたいな役割をはたしていました。自分がそこに住んでいるとしたら、中で集まるだけでなくて、外から友人や恋人の家に行ったりもありえるなと。
この内外の二重性は、強制力がないどっちでもいいんだと思える強さがあって、ある種の骨格を作っているような気がするけれども、その骨格自体は動くものにも影響を与えているんだなと思いました。

富永:最後の話がとてもよいなと思いました。国際寮の人が集う風景の話、隠岐國学習センターでは石州瓦を使うという話をうけて、結局建築を作ったときに風景に関わるのは何に寄り添うかなのかなと思いました。人に寄り添うという選択肢ももちろんあるし、ものに寄り添うという選択肢も依然としてある。でも、ものに寄り添える環境っていうのはそこにずっとある文化やずっと大事にされていたものがあること、つまり、すでに人がものを信頼している状況があるということだと思うんですよね。例えば建築の形式もそうかもしれないんですが、何かしら寄り添えるものがある環境が景観と呼べると思っています。ヨーロッパには素材とか建物の形式としてそれがある。でも日本にはそういったものがないので何に寄り添えばいいのかということをそれぞれ皆模索しているのかなと感じました。

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編集:原裕貴、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

文字校正:萬玉直子

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